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在宅の忘れ物


 横須賀にある衣笠病院グループの訪問医療クリニックで、週1回の訪問診療のお手伝いをしている。時々、急な往診も頼まれる。その日の午後も3件の訪問診療を終えてクリニックに戻ると、急な往診が待っていた。久里浜近くに住む90歳のおじいさんの胆管チューブが抜けかかっているという。胆管がんで胆管が閉塞しているので胆管内に挿入したチューブから胆汁を外にドレナージしている。このチューブが抜けると、在宅で入れなおすのが大変だ。大急ぎで看護師さんと一緒に車を走らせた。そして出発して5分ぐらい走ったところで、「あれ~電子カルテを持ってくるの忘れた!」と気が付いた。平謝りにクリニックに車を引き返して電子カルテをもってようやく患者さんの家にたどり着いた。

 患者さんの胆管チューブはとみると、チューブを皮膚に固定してあった縫合糸が切れて今にも抜けかかっている。あわててチューブを再挿入して、針糸を皮膚にかけてチューブを固定しようと、縫合セットを看護師さんにあけてもらった。ところがあるはずの針がついた糸がない。「あら~、針糸がない!!!」と看護師さんを振り向くと、在宅ベテランの彼女は「ピンク針を使って」とピンク針を差し出す。「そうだ昔、当直で針糸がないとき縫合糸をピンク針の中にさしこんで縫合したっけ!」と気を取り直して、ピンク針に糸を通して、皮膚に麻酔してから、縫合糸を通したピンク針を皮膚に通して胆管チューブを皮膚固定することができた。

 在宅に出かける前に持ち物を確かめることが大事だ。でも在宅では、その場でなんとかする知恵も必要と思った次第。

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