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病院建築費の高騰


 最近、横浜の我が家の近くの病院の新築移転の計画が延期になった知らせが入った。横浜市港南区にある済生会横浜市南部病院(500床)は築40年で、2028年をメドに、近隣のごみ焼却場跡地への移転新築を計画していた。しかし昨今の建設業界の人手不足と建築資材の高騰によって、事業費が大幅に増加したことから、入札に応じる業者がなく入札不調となり計画も延期された。

 1980年代に建てられた病院がいま老朽化し建て替え時期に入っている。しかし病院建築費の高騰で見直しを迫られている病院も多い。高騰の理由にはいくつかの要因がある。一つは建築材料費の高騰だ。鉄鋼やセメントなどの建材価格が高騰している。次に労働コストの高騰だ。建築業界の労働力不足や働き方改革で人件費が高騰している。三つ目は規制の強化だ。病院の建築基準や環境規制が強化されコスト高となっている。四つ目は医療技術の進歩に伴う病院設計の複雑化だ。新たな医療技術に対応するため病院には高度の設備や特殊な設計が求められる。このため設計コストが増えている。

 このようにコスト高のため病院の新築を諦め大規模修繕で対応しようとするところも出てきた。ところが修繕費も高騰している。修繕費の価格高騰の理由も建築費の高騰理由と同じだ。資材価格、人件費の高騰、電気代・ガス代などエネルギーコストの高騰だ。さらに修繕費用を押し上げるのは病院のエアコンなど設備系や上下水、酸素などガス系の配管などが複雑なことだ。このため一般のオフィスビルの改修とは比べられないほどそのリフォームに費用が掛かる。

 そして今、新築や大規模修繕を行うには今後の人口変動の影響を同時に考えなければならない。人口減とくに若者の減少により単価の高い急性期医療のニーズが激減することを念頭に置かなければならない。若者マーケットが減ることで手術件数も減る、緊急手術のニーズも減る、さらにがん医療のように治療の主体が入院から外来へ移行するなど、人口変動や技術の進歩を見通すことが大事だ。

 若者ばかりかこれからは高齢者マーケットも変わる。これまで高齢者入院が増えると思っていたが、すでに高齢者人口も2040年をピークに減り始める。今、病院建築を考えるとき2040年のマーケットを念頭に置かなければならない。また高齢者医療は医療と介護のセットで考える必要がある。すでに一般急性期病床の7割は後期高齢者で埋め尽くされている。この高齢者入院マーケットも2040年以降は減っていく。一方、現在すでに特養、老健、有料老人ホーム、グループホームは150万床にも達した。これらの介護施設系の需要もこれから減っていく。すでに人口減の始まっている地方では、これらの介護系施設に空床が目立つ。これから病院を新築したり大規模修繕を行うところは、高齢者も減る時代を見越して病院設計に取り組まなければならない。それは病床のダウンサイズを見越した設計だ。マーケットが減ったときにも入院以外の目的に転用できる病床設計が必要だ。またこれから余っていく介護施設系のベッドも他の目的に転用する設計の工夫が必要だ。

 2040年を見越した病院や介護施設設計が求められている。