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おもしろ薬辞典①


 この連載では薬にまつわるちょっとした逸話やおもしろ雑学を紹介しよう。連載①はニトロール、ワルファリン、バイアグラの発見の逸話だ。

ニトロール(Nitorol)

 外来でも狭心症発作でよくニトロール処方する。ニトロールの成分はニトログリセリンだ。先日も冬になってニトロールを服用する回数が増えたという高齢女性がやってきた。「お守りのニトロールがなくなった。」という。ニトロールを服用するとすぐ胸の痛みが消えるという。ニトロールの作用は冠動脈の血管拡張作用だ。

 この発見の歴史が面白い。なんとダイナマイト工場で発見されたのだ。ノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルはダイナマイト工場を経営して財をなした。このダイナマイト工場で働いていた人たちが、「月曜に工場に出ると頭痛が…」という「月曜頭痛病」を訴えた。ダイナマイトの原料でもあるニトログリセリンは揮発性があり、血管拡張作用がある。このため血管拡張性の頭痛が月曜に出勤した職員に広がったのだ。これを冠動脈の拡張に応用したのがニトロールだ。まさか爆薬が狭心症の治療薬になるとは誰も思わなかっただろう。

ワルファリン(warfarin)

 最近ではワルファリンはあまり使われなくなった。ワルファリンに変わる新しい抗凝固薬DOACやNOACの登場したからだ。でもときどき心臓弁置換術後の患者で処方している。このワルファリン(warfarin)はもともと1930年代にアメリカで殺鼠剤(ネズミ駆除剤)として開発された。ネズミが摂取すると、血が止まらなくなって出血多量で命を落とすという仕組みだ。ワルファリンには血液の凝固を妨げる作用がある。でも、その後の研究で「この作用、うまく調整すれば人間の血栓予防にも使えるんじゃない?」ということになって、1950年代には抗凝固薬として医療現場に登場した。

 今では心房細動や人工弁置換後の血栓予防などに使われている。そしてのちに心筋梗塞や脳梗塞の予防薬にもなる。ちなみに「ワルファリン」の名前は、発見した団体「Wisconsin Alumni Research Foundation(WARF)」に由来してる。

バイアグラ(Viagra)

 バイアグラ(シルデナフィル)の誕生秘話には、まさに「副作用が主役になった」伝説的なエピソードがある。もともとシルデナフィルが開発されたのは狭心症の治療薬としてだ。血管を拡張して心臓の負担を減らす目的だったんだけど、臨床試験中に「血圧にはあまり効かないけど、別のところには…」という予期せぬ“副作用”が報告された。しかも、試験薬の返却を拒む被験者が続出!これは何かあるぞ…と調べた結果、勃起不全(ED)への効果が明らかになって、世界初のED治療薬として大ヒットした。

 外来にときどき元気で恰幅のよい80歳台の男性がやってくる。来るなりおもむろに「人払いを」と言う。看護師さんに席を外してもらうと、「実はバイアグラの50㎎が欲しい」とおっしゃる。「50㎎は多いのでは?」と言うと、「分かっている。半分に割って使っているから大丈夫だ。50㎎のほうが25㎎の2錠より安い」。なかなか勉強していらっしゃる。

 もう少しするとED薬のOTCも発売される。外来で人払いすることなく薬局の薬剤師さんから渡してもらえる。