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バイオシミラーも消えていく


             日本バイオシミラー協議会資料より

 2024年からスタートした医療費適正化計画で、バイオシミラーの新目標が設定された。新目標は2029年度末までに、「バイオシミラーに80%以上置き換わった成分数が全体の成分数の60%以上」であることだ。2021年現在、バイオシミラー16成分のうち、80%以上置き換わったのは、フィルグラスチム、エポエチンアルファ、ダルベポエチンアルファの3成分だ。つまり現在は3成分/16成分=18%ということで、60%には遠く及ばない。

 しかもこれからバイオ先行品の特許が続々と切れ、バイオシミラーの成分数が増えていく。2025年までにバイオ先行品の6割が特許を失効してバイオシミラーが出てくるという。さらに2026年以降にはGLP-1受容体作動薬や2030年以降にはオプジーボなどの大型バイオ先行品の特許がきれて、これら大型のバイオ医薬品のバイオシミラーが登場する。バイオ先行品は薬価が高額であるので、バイオシミラーが登場した時の医療費節減効果も絶大だ。すでに2023年段階でもその節減効果は911億円にも及ぶ。

 このように医療費適正化計画の中で期待されているバイオシミラーであるが、課題はバイオシミラーにも先行品と同様、ドラッグラグ・ロス問題があること、そして国産バイオシミラーが少なく海外からの輸入が7割を占めていることだ。

 まずバイオシミラーのドラグラグ・ロス問題を見ていこう。日本で16成分、36品目あるバイオシミラーではあるが、欧州ではその品目数は89、米国では60もある。日本の承認品目数は36で少なく、欧米では承認されているバイオシミラーも日本では未承認のものもある。理由は日本ではバイオシミラーも承認後に急速に薬価が下がるので、開発費が巨額であるバイオシミラーの市場性を予見することができず、製薬企業が上市をためらっているからだ。図でベバシズマブのバイオシミラーの薬価推移をドイツ、英国、日本で比較した。日本だけが急速にその薬価が下落させている。このような日本の市場環境では、せっかく日本に上陸した海外のバイオシミラー企業も相次いで撤退することになる。フィルグラスチムのバイオシミラーもすでに海外3社が日本から撤退している。

 また国内でバイオ医薬品の製造技術が未成熟であることから、国産のバイオシミラーは少なく7~8割を海外企業に依存していることだ。その輸入先の企業の一つに韓国のセルトリオン社がある。2011年に著者は韓国の仁川経済特区にあるセルトリオン社を訪れた。広大な敷地にバイオシミラーを製造するバイオリアクターが立ち並び、パイプラインも豊富で、ハーセプチン、リツキサン、アバスチンなどを製造していた。

 セルトリオン社の創業は2003年だ。創業者の徐廷珍(ソ・ジョンジン)は、サムスン電子、韓国生産性本部、大宇グループなどで勤務した後、1997年の韓国の通貨危機の際に失職した。その後、徐廷珍はそれまでとは全く異業種のバイオシミラー事業に乗り出す。彼は当初5人の同僚と、4万5千米ドルの資金を頼りにセルトリオン社をスタートした。そして現在、2,100人以上の従業員と90カ国以上における販売許可を擁した売上高16億9千万米ドル超の大企業へと成長させた。通貨危機を危機バネとして異業種からの参入でのし上がった典型的な韓国企業だ。

 2003年当時といえば、日本ではまだ1990年代の生活習慣病薬のブロックバスターのバブルに酔いしれていて、バイオシミラーへのモダリテイ転換など考えもしなかったころだ。そうした中、お隣の韓国では着々とバイオシミラー開発に異業種からの参入していたことに驚きを覚える。

 日本の製薬の現状は、過去の成功が現在の失敗のもととなった典型例だろう。