エッセーの投稿

後期高齢者入院パンデミック


 2023年3月、翌年の2024年の診療報酬・介護報酬の同時改定へむけて、中医協と介護給付費分科会の間で意見交換会が開催された。その資料を見て驚いた。急性期病床の入院患者のうち、75歳以上の後期高齢者がすでに64%を占めていることだ。そしてその半数が85歳以上の入院患者で、その数は2021年以来増加している。2025年、著者も一員の団塊の世代800万人が後期高齢者となる。その時、急性期病床の7~8割が後期高齢者で埋めつくされていてもおかしくない。後期高齢者の入院パンデミックだ。

 しかし、現在の急性期病院は比較的若年層の重症患者仕様である。このため高齢患者向けの介護・リハビリ体制になってはいない。意見交換会では、こうした状況に対応するために、委員からは以下の2つのプランが出された。プランAは「急性期病棟においても十分な介護・リハビリを行う」、プランBは「高齢の急性期患者では、疾患の状態にもよるが介護・リハビリ体制が整った病棟、たとえば地域包括ケア病棟などへの転棟、入院を促す」という方策だ。

プランAの「急性期病棟における介護・リハビリ対応強化」については、例えば「急性期病棟にリハビリ専門職や介護福祉士を多く配置する」ことなどが考えられる。日本慢性期医療協会では、かねてより「寝たきり防止のため、急性期病棟にもリハビリテーションの視点から介護を行える介護福祉士を配置すべき」と言っている。しかし意見交換会では、「介護人材が不足する中では、急性期病棟への介護福祉士配置は現実的ではない」との声も出ている。

そこでプランBのように「すでにリハビリ職が手厚く配置されている地域包括ケア病棟を始めとして、介護職も豊富な療養病床、介護医療院、老健の医療ショートなどで高齢者の受け入れを強力に促していく」ことの方が現実的だ。このためには急性期一般病棟での治療期間をより短縮し、早期に地域包括ケア病棟等への転院・転床を促すこと、また地域の高齢者の軽症、中等症の救急患者を直接、地域包括ケア病棟等に入院させることを促すという方策が考えられる。実際に2022年度診療報酬改定では、地域包括ケア病棟への高齢者救急の直接入院を促す方向で改定が行われた。

この趣旨にそって地域包括ケア病棟と共に療養病床、介護医療院や老健の医療ショートでも、高齢者の軽症、中等症の患者の受け入れを強力に推し進めてはどうか? そうした議論の末、2024年診療報酬改定では、こうした高齢者の救急患者を受け入れる専用病棟である「地域包括医療病棟」を新設することで決着した。このように2024年改定は急性期病床における後期高齢者の入院パンデミックをいかに食い止めるかが大きな課題だった。

エッセーの更新履歴

最新10件