この冬の感冒シーズンに外来で咳止めやたん切り薬を処方しても、院外薬局から相変わらず「流通が滞っています」と電話がかかってくる。2021年の小林化工、日医工の品質不祥事以来、後発品の3割近くが出荷調整、欠品の状態が続いている。なんとこの後発品供給不足は5年目に突入して、出口も見えない。いつになったらこの事態が収まるのだろうか?
この後発医薬品供給不足の犯人は誰だろう? もちろん最初に品質不祥事を起こした企業が主犯だ。しかし共犯は他にもいるのではないか?じつは後発品の歴史の中で、2015年、2016年に大きな制度環境の変化が起きていた。2015年5月、当時の塩崎恭久厚労大臣は、政府の経済財政諮問会議において、「2018年から2020年度末までのなるべく早い時期に後発品の数量シェア目標を80%以上にする」ことを打ち出す。この80%目標を契機に、後発品の数量シェアの伸び率は、それまでの2倍速の11%増で市場が拡大する。
ところが翌年の2016年、こんどは塩崎厚労大臣はじめ4大臣が「薬価制度の抜本改革」を打ち出し、それまで2年に1度だった薬価改定を毎年行うこととした。このため毎年、薬価が前年の市場実勢価格に応じて下落することになった。この薬価制度抜本改革により、それまでの薬価下落率2.4%が倍速の5%で急落する。2015年の数量シェア拡大のアクセルを踏み込んだ翌年に薬価を下落させたのだ。企業が品質不正に手を染めだすのもこの頃だ。
また後発品の市場には多くの企業が参入するので激烈な市場競争が起きる。各企業は一刻も早く市場を占有するため、値引き競争を始める。この競争のなかで後発品の市場実勢価格は一挙に下がる。それに輪をかけて大手の病院や薬局はその購買力をバックに過剰な値引き要求を卸やメーカーに迫る。また後発品の値決めの商習慣も前近代的だ。総価取引といって、一山いくらで値引き交渉を行う。今時、一般用医薬品でも単品単価取引なのに、なぜか後発品は総価取引で値決めをするのか?総価取引が後発品のさらなる価格低下を招く。
さらに2021年2月のウクライナ戦争が勃発する。このためエネルギー価格の高騰や物価上昇のため後発医薬品の製造原価が上昇した。後発医薬品はその薬価が低い分だけ価格全体に占める製造原価率は先発品より高めだ。そして原薬の半分は中国、韓国、インドからの海外輸入に頼っている。このため昨今の円安で、海外原薬が高騰している。このあおりを受けて、後発品に赤字品目が目に見えて増えている。
さらにユーザーも不足に乗じて買い占めに走る。一時、局所麻酔剤が品薄になったとき、なんと1年分を発注した病院があった。これは供給不足の足を引っ張るだけだ。
以上、後発品の供給不足の犯人を見てきた。品質不祥事を起こした企業が主犯とは言える。しかし犯人は企業ばかりとも言えない。アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」のように犯人は列車に乗り合わせたすべての乗客である。