地域の高齢者の栄養問題が深刻だ。東京都昭島市の愛全診療所の管理栄養士佐藤悦子氏によると以下のような事態が地域で進行しているという。
症例1 93歳の女性、要介護3、「本人も家族も気付かないまま2~3年でそれまで40Kgあった体重が半分の20Kgになってしまっていた」。息子夫婦と同居しているが、息子夫婦が出かけたあと朝食をゆっくり食べる、昼食はちょっと口にするだけ。夕食は家族団らんで食べる。「高齢になったら細くなるのがあたりまえ」と家族も気にしなかったことが、知らず知らずに低栄養を招いていた。
症例2 認知症が始まった87歳の女性。要介護4で独居。「食材を見ても料理が思い浮かばない。電子レンジも使えない。一日中、探し物でウロウロオロオロ」。ヘルパーさんが用意した食事が冷蔵庫にあったが、食事と気付かず全く手をつけていなかった。結果的に低栄養になっていた。
症例3 73歳の男性、要介護3、「肺がんの手術は成功し退院したが、誤嚥性肺炎で死亡した」。肺がんの大手術が成功したあと、退院時指導で、「食べられるものは何でもよい」といわれて、家族は訪問介護サービスを選び、シチューやゼリー、とろみをつけた水分をあたえた。結局、誤嚥性肺炎で死亡。
さてこのように地域には栄養問題、嚥下問題が山積している。この解決にはまず地域高齢者の食の環境や、栄養の実態を知ることだろう。さらに認知症で独居の高齢者の食環境を知ること、摂食・嚥下機能障害の実態を現場に出向いて知ることだろう。
さて地域包括ケアシステムの構成要素とは「住まい」を中心として、「医療」、「介護」、「予防」、「生活支援」の5つからなる。しかしこの中から最も基本となる「食と栄養」がすっぽりと抜け落ちている。たとえば地域包括支援センターに管理栄養士の配置がされていないというように、食と栄養問題が、地域包括ケアでは考慮されていない。なるほど通所系サービスには栄養改善加算や居宅療養管理指導など、在宅介護の栄養サービスはもちろんあることはある。しかし現状では地域に栄養士がいないことからほとんど利用されていない。
こうしたことから、日本栄養士会は地域住民のための食生活支援活動の拠点として「栄養ケア・ステーション」の普及を目指している。栄養ケア・ステーションは都道府県栄養士会が運営し、地域の特性に応じた様々な栄養ケア事業を展開する。とくに団塊の世代が後期高齢者となる2025年、65歳以上人口は3700万人にも膨れ上がり、一人暮らし世帯、認知症患者も増える。こうしたなか地域包括ケアシステムにおける栄養ケア・ステーションの普及は喫緊の課題ともいえる。
栄養ケア・ステーション数は2023年4月現在、全国512か所、栄養士5095人まで増えてはきた。最近では保険薬局の中に認定栄養ケア・ステーションを設けるところも増えてきた。しかしその数は十分ではない。
こうした栄養ケア・ステーションについては診療報酬でも後押しをしている。医師の指示を受けて栄養ケア・ステーションの管理栄養士が訪問栄養管理指導を行うこともできるようになった。2024年診療報酬改定でも、在宅療養支援診療所や在宅療養支援病院が栄養ケア・ステーションとの協力の中で、訪問栄養食事指導を行うことを勧めている。
ただ現行の制度では、医師の指示のもと栄養ケア・ステーションの管理栄養士が訪問しても診療報酬は医師に支払われ、管理栄養士は医師との業務委託契約のもと報酬を医療機関から受け取る。これでは手続きが煩雑だ。栄養ケア・ステーションから診療報酬を保険者に直接請求し受け取れるようにしてはどうか?