
老健は基本的に介護保険で運用されているので、医薬品も介護保険の基本サービスに包括されている。このため老健では減薬や安価なジェネリック医薬品使用が奨励されている。このため老健に入ると薬が切られてしまう。高額な薬が使いにくいと言われる。
たしかに必要な薬まで切ってしまうのは論外だが、不必要な薬や高齢者に有害事象を起こしやすい薬を延々と出し続けるのも問題だ。
こうしたことから、著者が勤務する衣笠病院グループの衣笠ろうけんでは、入所者の定期処方を行う処方日に薬剤師さんや看護師さんと一緒に減薬プログラムを実施している。処方の定期的な見直しと減薬が目的だ。
減薬のポイントは以下だ。処方意図が不明な薬が意外に多い。老健に入所する前から処方されている薬では、処方意図が不明な薬がある。これで多いのがムコスタなどの胃粘膜保護薬がある。おそらくロキソニンなどと抱き合わせで出されていたムコスタが、ロキソニン中止のときに削除されずに残っているのだ。そのほか胃薬やめまい薬に処方意図不明な薬が多い。
次に高齢者には不適切な薬(PIMs:ピムス)が処方されていることが多い。とくに腎機能が低下している高齢者には不適切な薬から減らしていく。これで多いのが糖尿病薬のジャヌビアだ。ジャヌビアは腎排泄なので、胆汁排泄のトラゼンタに変えていく。またときどきファモチジンが出ているが、認知機能低下やせん妄リスクがあるので、これもランソプラゾールに変える。
あとは時々血液検査をしてカルシウム濃度をみてエデイロールのような活性ビタミンD剤も中止することもある。一度、エデイロールによる高カルシウム血症で不穏になったお年寄りがいたからだ。それに高齢者に痛み止めにリリカが出されていることがある。リリカは認知機能低下や転倒リスクが多い。アセトアミノフェンに変える。
とにかく高齢者で新しい症状がでたら、まず薬を疑うことだ。昔は医者の間では「女性を見たら妊娠と思え」という言い伝えがあった。今では「年寄を見たら薬を疑え」だ。
薬は少ないにこしたことはない。高齢者に処方するときは「1疾患1剤」が原則だ。そして定期的な薬の見直しが欠かせない。