以前、東京の世田谷の用賀の訪問診療クリニックで薬剤師さんが医師と在宅に同行訪問をしている所を見学したことがある。訪問診療では医薬品に関する業務にかなりの時間がかかる。著者も横須賀で訪問診療を週1回お手伝いしている。ある訪問先ではお薬カレンダーの医薬品の残薬を数えて、次の処方からそれらを引き算して処方を書くのが仕事になっている。世田谷の訪問診療クリニックではそれを同行した薬剤師さんが手際よくこなしていた。また服薬状況を把握して減薬などの処方変更の提案や処方作成などの医師への支援も行っていた。さらにお薬カレンダーのチェックや本人や家族からのお薬の質問にも答えていた。
また大阪で訪問診療を行っているファルメデイコ株式会社の医師の狭間研至先生によると、医師と薬剤師の同行訪問で実際に減薬に成功したという。具体的には介護付き有料老人ホームの60人の患者さんに医師が薬剤師を同行し訪問する。その後、次回の医師の訪問診療の前に薬剤師が単独で訪問して患者の服用情報を確認し、その情報を医師に伝えるという介入を行った。その結果、介入前後で患者1人当たりの投薬数6.4錠が4.0錠と有意に減少したという。
2023年7月に開催された中医協ではこうした医師と薬剤師の同行訪問について、日本薬剤師会の副会長の森昌平氏が診療報酬上の評価を要望した。医師と薬剤師の同行訪問は、入院から在宅に退院した患者の初回訪問にまず必要だ。特に末期がんの患者が終末期を在宅で過ごすために在宅に移行するときには様々な医薬品の業務が発生する。入院中にたまった自宅の残薬と退院時処方の整理、お薬カレンダーの整理、家族本人からの服薬状況の確認、医療用麻薬の調整などの業務が多い。その他、外来から在宅への移行時の初回訪問も同様に多くの薬剤業務が発生する。こうした時に医師と薬剤師の同行訪問が役立つ。
実際、こうした薬剤師の同行訪問の実績をみると、中医協の資料では、調査した2500件の訪問診療の中で226件(9.1%)に医師と薬剤師の同行訪問が行われていた。病院では医薬品の課題については薬剤師が病棟まで出向いて医師、看護師、薬剤師がミニカンファレンスをするのは日常だ。それが薬物治療の質の向上につながっている。こうしたことは在宅医療でも同じことだ。薬剤師同行で在宅における薬物治療の質が向上する。ぜひ診療報酬改定で、薬剤師同行に対する診療報酬上の評価を実現してもらいたいものだ。