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2026年診療報酬改定 後発品、バイオ後続品


図表1 厚労省 中医協総会 2025年10月17日

 2026年診療報酬改定へ向け中医協では議論が活発化している。2025年10月17日には後発品、バイオシミラー、ポリファーマシーなどに関する議論が行われた。ここでは当日の中医協資料に基づき、この議論を振り替えてみよう。

1 後発品

(1)選定療養による後発品数量シェアの急増

 2025年12月3日の中医協では、2024年9月の薬価調査の速報値が報告された。これによると、後発品の数量シェアは88.8%、金額シェア率は68,7%であった。国は医療費適正化計画の目標値として、2029年度末までに全国の都道府県で後発品の数量シェアを80%以上、金額シェア率は65%以上と定めている。

 今回の調査で明らかになったのは、すでに数量シェア、金額シェアでは2025年度で2029年度目標をクリアしていることが分かったことだ。数量シェアが大きく跳ね上がった理由は、2024年10月からの特許切れの先発品すなわち長期収載品に選定療養による。この選定療養によって長期収載品の自己負担分が増えたことで、後発品の置き換えが進んだ。このため数量シェアが4.4ポイントも急増した。

  中医協の調査で選定療養の導入の影響や課題について薬局に聞いたところ、「患者への説明や患者からの質問に対応するのが負担」と答えた薬局が8割近くを占めた。実際に、抗がん剤、免疫抑制剤、抗精神薬などの特定薬剤について説明や指導を行う特定薬剤指導管理加算は選定療養の開始後の2024年10月に算定のピークを迎えていた。

 また選定療養導入によって、一時的に後発品の需要が拡大したため限定出荷や供給停止の割合も14%台と一時増えた。しかし2025年3月には13%台に下がり、2025年8月には12%に落ち着いてきた。実際に2024年11月時点で、薬局に後発品の供給体制について聞いたところ、供給体制に支障をきたしていると答えた薬局が84%を占めていた。

(2)後発医薬品調剤体制加算

 後発医薬品調剤体制加算は、薬局が後発品のどれだけ調剤しているかを評価するための加算だ。一定期間に薬局が調剤した薬のうち、後発医薬品の数量割合が一定以上だと調剤基本料に加算がつく。後発医薬品調剤体制加算Ⅰは後発品割合が80%以上、Ⅱは85%以上、Ⅲは90%以上の順で加算が高くなる。2024年11月実績をみると、90%以上の薬局が最も多く6割をしめていた。また薬局全体における後発医薬品調剤割合は89.6%であった(図表2)。

図表2

厚労省 中医協総会 2025年10月17日

 また後発医薬品使用体制加算は、保険医療機関において調剤した後発医薬品の使用数量割合に応じて、入院患者に対して入院初日に算定できる加算である。割合が高い順に、加算が増える仕組みだ。そして外来後発医薬品使用体制加算は診療所において調剤した後発医薬品の使用数量割合に応じて、院内調剤を受ける患者に対して、処方料の加算で、後発品の数量割合の高い順に加算が増えるしくみだ。

 こうした加算により病院・診療所においても後発医薬品の使用は増えている。実際に中医協の2024年11月調査でも、後発品使用割合は診療所で66.5%、病院で82.0%となっている。また病院・診療所においても選定療養導入による後発品に係る業務量は増えているようだ。実際に選定療養で業務量が増えたと答えた診療所は54%、病院では72%に上っている(図表3)。

図表3

        厚労省 中医協総会 2025年10月17日

さて以上のような状況から後発医薬品調剤体制加算の次回改定へ向けてどのような状況が考えられるだろうか?すでに後発医薬品の数量割合が88.8%と9割近い状況から、後発医薬品調剤体制加算は役割を終えたとして廃止されるのだろうか?しかし依然として後発品の供給不安が続くなか、また選定療養導入により薬局の手間は増えたなか、まだ継続すべきとする意見も根強い。次回改定における後発医薬品使用体制加算の去就が注目のまとだ。

2 バイオ後続品

 次にバイオ後続品(バイオシミラー)について見ていこう。2025年6月時点で国内で上市しているバイオ後続品は19成分である。

図表4

  厚労省 中医協総会 2025年10月17日

 さて第4期医療費適正化計画における2029年度末までのバイオ後続品の普及目標はバイオシミラーが80%以上をしめる成分数が全体の成分数の60%以上としている。現状では80%以上の市場シェアを占めるバイオシミラーは19成分中3成分(エポエチンアルファ、フィルグラスチム、ダルベポエチンアルファ)しかないので、現状では15%だ。これでは60%目標達成までには大分時間がかかる。さらに今後、先行品が特許切れになりバイオシミラーの成分数が増えていく中で、目標達成のハードルは高い。

 バイオ後続品の普及促進を図る診療報酬上の仕組みとしてはバイオ後続品使用体制加算とバイオ後続品導入初期加算がある。バイオ後続品使用体制加算は、入院患者に対して、バイオ後続品の有効性、安全性について説明を行った上で、使用目標を達した場合に入院初日の100点を加算する。

 一方、バイオ後続品導入初期加算は、バイオ医薬品を使用する外来患者に対し初回投与から3か月間、月1回に150点を加点する。本加算の算定状況は年々増加している。

 またバイオ後続品の処方状況は病院、診療所とともに処方の半数以上を占めている。こうした状況から、医療機関や薬局の保険診療のルールを決めた療養担当規則や薬担当規則には後発品を処方することを努力目標としている記載がある。このことから、バイオ後続品も療養担当規則、薬担当規則にバイオシミラーの処方や調剤を努力目標そして記載せてもよいのではないか?

 また次回の改定では、現状のバイオ後続品使用体制加算とバイオ後続品導入初期加算についても、さらなる強化が行われる可能性は高い。

3 ポリファーマシー

 ポリファーマシーとは単に服用薬剤数が多いことではなく、多剤投与が患者有害事象などに繋がることを指すことを意味する。ポリファーマシーに対応した減薬を評価する診療報酬における取組を医療機関と薬局に分けて見ていこう。

(1)医療機関における取組の評価

 2016年に薬剤総合評価調整加算が新設された。入院中に多職種の連携によって内服薬の総合的な評価と処方内容を変更した場合に評価する。さらに薬剤調整加算は、退院時に2種類以上の原薬に至った場合の評価だ。

 外来や在宅患者に対して減薬を行った場合にも2種類以上の減薬に至った場合にも薬剤総合評価調整加算による評価が行われる。そしてその結果を薬局へ結果報告した場合には連携管理加算もつくことになった。

 しかし入院中のポリファ―マシー対策の現状を見ると、薬剤総合評価調整対策加算の算定現状は、2種類以上減薬に至った割合は16.7%しかない。減薬が進まぬ理由は、「入院期間が短いこと」、「処方の変更に対する反応を確認する必要があること」などが挙げられた。また「人出不足で、対象患者の抽出や検討をする時間がない」ことだった。特に「人手については薬剤師数が足りない」ことが挙げられた。ただどの医療機関でも、薬剤師の業務としての「減薬」を充実させることは必要性を感じていて、そのための医師、看護師の協力が必要であることの共通認識は持っているようだ。

(2)薬局における取組の評価

 薬局が医師に減薬の提案を行い、その結果処方される内服薬が2種類以上減薬した場合の評価として服用薬剤調整支援料1がある。また複数医療機関の処方による重複投薬解消の提案を行った場合、服用薬剤調整支援料2で評価される。さらに重複投薬等に関する疑義照会等に関する評価としては重複投薬・相互作用等防止加算がある(図表4)。

 服用薬剤調整支援料1,2および重複投与・相互作用等防止加算の算定は年々増加の傾向にある。

図表4

       厚労省 中医協総会 2025年10月17日

(3)日本版抗コリン薬リスクスケール

 「日本版抗コリン薬リスクスケール(Japanese Anticholinergic Risk Scale, JARS)」は、高齢者などに処方される薬の中で、抗コリン作用を持つ薬剤がどれだけリスクをもたらすかを評価するスケールだ。抗コリン薬は、パーキンソン病やうつ、不眠、過活動膀胱などに使われる。しかし副作用として認知機能の低下、せん妄、便秘、尿閉、転倒リスクの増加などのリスクがある。特に高齢者ではその影響が大きいので、処方の際に注意が必要だ。 

 日本版抗コリン薬リスクスケールは米国の「Anticholinergic Risk Scale(ARS)」をベースに、日本で使用されている薬剤に合わせて日本独自に開発されたスケールだ。158の薬物について、リスクの強さの順に3から1のスコアが割り当てられていて、合計点が高いほど抗コリン負荷が高いとされる(図表5)。

 例えば、抗ヒスタミン薬や抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬などが抗コリン負荷の高い薬剤とされる。このスケールは高齢者の薬剤見直しや、認知機能低下のリスク評価に使われる。たとえば抗コリンスコアが高い患者さんには、代替薬の検討や減薬を考えるきっかとするというような使い方だ。

 

図表5

   厚労省 中医協総会 2025年10月17日

 薬剤師による薬物療法の介入は、救急外来の受診患者数の減少やポリファーマシーの減少、適切な医薬品の処方の選択等の薬物療法に関連する問題の発見等に効果があるとされる。薬物療法の適正化は単に薬剤数を減らすことが目的ではない。患者の生活の質の向上とアウトカムの向上が目指すべき目標だ。このため種々の薬物治療への介入評価を包括的、構造的に行うことが大事だ。そしてこのために関連情報を入手し、現在の治療を評価し、薬剤関連課題を抽出し、他の治療選択肢を評価し、さらにエビデンスと共に推奨案を提示するというPDCAサイクルを回すことが必要だ。

 これまでは服用薬剤調整支援は、服用薬剤の数に着目した診療報酬の評価を行ってきた。これに対して、次回改定では必ずしも服用薬剤の削減によらない、服用薬剤調整支援についても考えてみてはいいのではないだろうか?次回改定に注目したい。

参考文献

厚労省 中医協総会 2025年10月17日