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2026年診療報酬改定と薬価


図表1 中医協 2025年12月3日

 2026年診療報酬改定へ向けて、2025年12月3日の中医協総会で薬価についての議論が行われた。改定前年の暮れの中医協の風物詩だ。今回は薬価速報、薬価の算定方式について見ていこう。

1 薬価速報

 薬価改定にあたっては、毎年9月に行われる薬価調査が大きなカギとなる。薬価調査は公定薬価を決めるために行う国の基礎調査だ。国が医療機関や薬局が医薬品を購入する際の実勢価格(市場価格)を把握し、改定の際の薬価を決めるための基礎資料とする。具体的には薬価基準に収載されているすべての医薬品について、卸売業者の販売価格、医療機関・薬局の購入価格や数量などを調査する。原則として2年に1度、薬価改定の前年の9月ごろに実施する。この2年に1度の薬価改定は2021年度から毎年行われるようになった。このため薬価調査も毎年の恒例行事になっている。

 この薬価調査で一番の注目は公定薬価と実販売価格の差分、いわゆる薬価乖離率だ。この薬価乖離率が次の改定時の公定薬価に大きな影響を与える。今年の2025年9月調査では、この薬価乖離率が4.8%だった。2024年は5.2%、2023年は6.0%もあった。乖離率は年々下がりつつあるとはいえまだ4.8%もある。これはまだ公定薬価を引き下げることができるということだ。

この薬価乖離率は医薬品のカテゴリーのよって大きく変わる。乖離率が最も大きいのが後発医薬品で今年は8.7%、最も小さいのが特許の切れていない先発品で3.6%だ。このため公定薬価の下げ幅は後発医薬品が最も大きくなる。

 また薬価調査の時に合わせて後発品の数量と金額シェア率も公表される。今年の後発品のシェア率は数量シェアで88.8%、金額シェアで68.7%だった(図表1)。

国は医療費適正化計画の目標値として、2029年度末までに全国の都道府県で後発品の数量シェアを80%以上、金額シェア率は65%以上と定めている。今回の調査で明らかになったのは、すでに数量シェア、金額シェアでは2025年度で2029年度目標をクリアしていることが分かったことだ。

 この理由は2024年10月からの特許切れの先発品に選定療養が科せられて、自己負担分が跳ね上がったことだ。これにより後発医薬品のシェア率がポンと4.4ポイントも跳ね上がったからだ。

 このため国は2029年度末へ向けて新たな後発品の目標を変更することを迫られている。新目標はどのような目標になるだろうか?たとえば「2029年度末までに全国の都道府県のすべてで数量シェア90%以上、金額シェアが75%以上」ではどうだろう?

2 新薬の薬価算定

 新薬の薬価算定方式については、以下のポイントを見ていこう。「市場拡大再算定」、「新薬等創出等加算」、「新薬の薬価算定方式」。

(1)市場拡大再算定

 市場拡大再算定とは保険収載時の予測よりも大幅に市場が拡大した、つまり爆発的に売れた医薬品について価格を引き下げる仕組のことだ。思ったより売れ過ぎたら値下げのバツゲームと言う過酷な制度だ。この制度は2014年に市場に出たオプジーボがきっかけとなってできた。オブジーボは免疫チェックポイント阻害剤で、承認当初はメラノーマ治療薬としてスタートしたが、その後非小細胞性肺がんに適応が拡大した。このためその販売数量が急増する。オブジーボの薬価がもとより高額であったため、その薬価引き下げには市場拡大再算定が威力を発揮する。

 さらに過酷な制度が、市場拡大再算定の適応となった医薬品と薬効が類似した医薬品まで道連れでこの制度の適応にしたことだ。いわゆる道連れあるいは友連れ再算定ルールだ。薬効が似ている、つまり顔つきが似ているだけで、連座して値段が下げられてしまうと言うルールだ。開発企業は朝目覚めたら、突然、薬価が下がってしまうので、おちおちと枕を高くして寝ていられなくなった。このルールはさすがにおかしいと言うことで、2024年改定で対象領域が限定されることになった。しかし完全に廃止されたわけではない。次回改定での対象領域の扱いが気になるところだ。

 また2026年改定へ向けて、保険外でも使用される医療用医薬品の市場拡大再算定の調査方法が議論されている。たとえばリベルサス(GLP-1受容体作動薬)、オプジーボは一部、保険外使用(自由診療)でも用いられている。こうした医薬品は薬価調査では、保険分と保険外の使用分が一緒に含まれて調査されてしまう。これを純粋に保険診療分の市場実態を調査するためには、レセプトデータを集計したナショナルデータベース(NDB)を用いることが考えられる。つまりNDBは「本当に保険財政に影響を与えている分だけを見極める」ためのデータベースだ。自由診療分も含まれてしまう従来の薬価調査よりもよりも正確だ。

 このためNDBで2年間の実勢市場価が一定以上を超えた医薬品について市場拡大再算定を適応する方式が検討されている。

 そして今回、市場拡大再算定と言う名称も変更になる。その名称は「国民負担軽減価格調整」だという。昨今の国民負担軽減の世論をうけての名称変更だ。

(2)新薬創出等加算

 次に新薬収載後の価格見直しについて見て行こう。先進各国とも新薬の薬価はその特許期間中は価格維持されるのがルールだ。新薬の開発には莫大なコストがかかる。これを特許期間中に回収しなければならない。回収できなければ、次の新薬の開発に繋がらない。このためどこの国でも特許期間中は薬価維持をする仕組みがある。たしかに日本でもこうした新薬の薬価維持の仕組みがある。それが新薬創出等加算と言う仕組みで2012年から導入された。導入された当初は新薬の薬価下落が抑制されて企業からは歓迎された。ところが2018年ごろからその要件が厳しくなった(図表2)。企業要件、品目要件等で新薬創出等加算のハードルがあがって、適応品目も新薬の半分くらいに減ってしまった。

図表2

       中医協 2025年12月3日

 次期改定では、この適応条件の透明化を図ること、そしてその名称を「革新的新薬薬価維持制度」とするという。名前を変えても、どれくらいその薬価が維持されることになるのか?あまり期待はできないだろう。

 というのも新薬の薬価維持についての国際比較をみると、米国では特許期間中の薬価維持率は100%、英国75%、ドイツ67%であるのに対して、日本ではなんと17%程度である。このように日本では新薬の薬価算定の薬価維持レベルが極めて低い国なのだ。

(3)新薬の薬価算定方式

 新薬の薬価算定方式には「類似薬効比較方式」と「原価計算方式」の2つがある。新薬に類似薬がある場合は比較方式、ない場合は原価計算方式が用いられる。これに補正加算や外国平均価格調整なども組み合わせて最終的な薬価が決まる。

 類似薬効比較方式は既存の類似薬がある場合に適用される。つまり「似た薬は同じような薬価にする」という考え方だ。この類似薬効比較方式にも二つある。ひとつは類似薬効比較方式 (I)で、画期的な新規性が認められる新薬で、類似薬の薬価を基準としつつ、補正加算(画期性加算、有用性加算、市場性加算、小児加算など)が上乗せして決める。もう一つは。

 類似薬効比較方式 (II)で新規性が乏しい新薬で、類似薬の薬価を基準に算定されるが、補正加算はなしとするというものだ。

図表3

         中医協 2025年12月3日

 類似薬がない場合には原価計算方式が用いられる。新薬の製造原価(原料費、労務費、製造経費)、販売管理費(研究開発費、一般管理費、販売費)、流通経費、営業利益を積み上げて算出する。この原価を開示度に応じた加算の仕組みが、2018年度薬価制度改革から導入され、さらに2022年度改革で厳格化された。特に開示度50%未満の場合は加算係数を「ゼロ」とするペナルティが2022年度から適用された。

 最近の新薬はベンチャー企業が開発した新薬候補物質を製薬企業が導入し、それを製薬企業が製剤化するプロセスが一般的だ。この際ベンチャー企業に開発の原価を開示することを求めても断られることが多い。このため開示度が下がりせっかく国内で新薬を申請しても、開示度不足で加算計数がゼロ査定される。2018年度改革以降に原価計算方式で算定された108成分のうち、開示度50%未満は68成分、およそ6割を占めている。

 そもそも新薬の評価に原価計算方式を採用している国は日本しかない。そして原価計算方式は先の開示度50%未満は加算係数ゼロも影響して低い薬価設定となっている。国際比較をすると、原価計算方式を採用している日本の新薬の薬価は欧米に比べて軒並み低いことが分かっている。

図表4

 医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会 2022年8月31日

3 イノベーション評価

 以上のように新薬の薬価算定方式のカナメはイノベーションをどのように評価することにかかっている。今やゾルゲンスマのように1億を超える薬価が付く時代だ。さらにこれからは再生医療のようにこれまでの医薬品とは全くことなる開発過程を経てで市場に出てくる医薬品も増えてくる。

 これまでの類似薬効比較方式や原価計算方式とは異なる第三の評価方法の模索が必要だ。

 製薬協は政策提言2019で、医薬品の多面的評価の必要性を述べている。多面的価値とは、これまでの医薬品の医療的価値に留まらず、回復した患者の就労促進や介護者の負担軽減などによる労働生産性や経済性の向上、政策的に必要な医薬品の開発促進など社会的価値に着目して評価すべきとしている。

 こうした観点から、医薬品の多様な価値を構成する要素に関しては、すでに国内外で議論や検討がなされ、報告がなされている。例えば国際医薬経済・アウトカム研究学会(ISPOR:International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research)は、米国ニュージャージー州に本部事務局を置く、医薬経済学とアウトカム研究の啓発と普及を推進する国際組織だ。日本でもこのISPORの日本部会は2005年に設立されている。

 このISPORが2018年に提唱した「価値12要素」を見ていこう。12の要素は医療的視点の3要素と、社会的視点の8要素からなる。これら12要素が提示された理由は,医療における価値の視野を広げることと,従来の費用効果分析に加えて、もっと多くの価値の要素を組み込み、将来の医薬品の価値評価を示唆するものとなっている(図表5)。

図表5

中野陽介ら 医薬品の社会的価値の多面性 日本製薬工業会医薬産業政策研究所 Research Paper Series No76 2021年3月

4 後発品の薬価評価

 ここからは後発品の薬価評価について以下、見ていこう。長期収載品、オーソライズドジェネリック(AG)・バイオAG、後発品の価格帯集約、薬価下支え。

(1)長期収載品

 日本はまだまだ先発品の特許切れ品である長期収載品に依存した国だ。製薬企業は長期収載品を売り続けなければ利益が出せないという。こうした長期収載品に依存したビジネスモデルからの転換を促すために、これまでZやG1、G2といった薬価算定上の取り組みを行ってきた。

 具体的には2002年からは特許期間終了後の最初の薬価改定時に、長期収載品の薬価を一定割合を引き下げる「Z」方式を導入した。「Z」とはアルファベットの最後の文字、これが長期収載品の最後という意味だ。ところがZでは最後にはならなかった。さらに2018年からは後発品上市後10年以降に、長期収載品の後発品置き換え率が80%以上に達している場合には、G1と言って、徐々に長期収載品の薬価を下げて6年間で長期収載品の薬価を後発品と同じにすることとした。また後発品上市後10年以降に後発品置き換え率が80%未満の場合にはG2と言って、長期収載品は後発品の薬価の1.5倍とし、その後10年目からは段階的に薬価を引き下げていることにした。このように長期収載品からの脱却を目指してZ、G1、G2と長期収載品の薬価を下げ続けてきた。しかしようやく2024年10月の長期収載品への選定療養導入によって、前述のように今や後発品の数量シェア率88.8%、金額シェア率68.7%の時代が来た。

 このため次期改定からは、ZとG2を廃止しG1のみに整理することになった。そして後発品の置き換え率によらずG1を適応し、その引き下げ率は2.0%とし、G1適用から6年が経過し、後発品の加重平均値まで価格が引き下がった長期収載品にはG1を適用しないことにした(図表6)。

図表6

中医協 2025年12月3日

(2)オーソライズド・ジェネリック(AG)・バイオAG

 次期改定からはオーソライズド・ジェネリック(AG)への対応は、後発品の適切な競争環境の維持のため、先発品と有効成分、原薬、添加物、青豊島が同一の後発品の新規収載時の薬価は先発品の薬価と同額とすることになりそうだ。

 上記のAGと同様に、バイオAGの新規収載時の薬価は、バイオ後続品との適切な競争環境を形成する観点から、先行品薬価と同額とすることになりそうだ。

(3)後発品の価格帯の集約

 注射薬及びバイオシミラーについては、同一規格・剤型内の品目数が少なくなっていることとから、最高価格の30%を下回る品目を除いては価格帯集約を行わないいことになりそうだ。

 また企業指標が優良であるA区分の企業の品目については加重平均は行わず、銘柄収載を行い、品目ごとに改定とすることになりそうだ。A区分以外は従来通り3価格帯ごとに加重平均した価格とする。

(4)薬価の下支え

 薬価の下支えする仕組みとしては、これまで基礎的医薬品、最低薬価、不採算品再算定があった。それぞれの詳細を図表7に示す。

図表7

     中医協 2023年8月2日

 基礎的医薬品は現行の不採算品再算定、最低薬価になる前の薬価を下支えする制度だ。前回改定でその品目数が増加した。このことを踏まえて必要な対応を検討することになる。

 最低薬価については剤型ごとにかかる最低限の供給コストを確保するため成分に関係なく設定している。次期改定では外用塗布剤について、規格単位に応じた最低薬価を設定する。点眼・点鼻・点耳液について、点眼薬の最低薬価を適用する。最低薬価については物価動向、市場実勢価格の乖離率や逆ザヤの解消、日本薬局方かの推進の観点も踏まえて、対応することとなりそうだ。

 不採算品再算定は保険医療上の必要性が高いが、薬価が低すぎて企業が製造販売を継続することが困難な品目について薬価を下支えをする仕組みだ。次期改定では不採算品再算定の「類似薬がある場合には、全ての類似薬について該当する場合の規定を廃止し、該当する類似薬のシェアが一定割合の場合は要件に該当するものとする。しかし平均乖離率を超えるものは対象外とすることになりそうだ

 以上、2025年12月3日の中医協総会で薬価速報、薬価の算定方式に関する議論について振り返った。この議論をもとにした来年2月の中医協答申に注目したい。

参考文献

厚労省 中医協資料 2025年12月3日

厚労省 医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会 2022年8月31日

中野陽介ら 医薬品の社会的価値の多面性 日本製薬工業会医薬産業政策研究所 Research Paper Series No76 2021年3月

厚労省 中医協 2023年8月2日