
図表1 中医協総会 2019年6月29日
地域フォーミュラリが注目のまとだ。地域フォーミュラリとは推奨医薬品リストのことで、地域の医師・薬剤師などが連携・協働し、有効性・安全性・経済性を総合的に評価して、作成する。
この地域フォーミュラリが2026年3月に第4期医療費適正化計画の基本計画に追記された。これによって各都道府県はこれから地域フォーミュラリに関する会議体を設けてその普及・促進に取り組むことになる。今回は地域フォーミュラリについて見ていこう。地域フォーミュラリは薬剤を通じた地域連携に他ならない。
1 地域フォーミュラリが必要とされる現状
地域フォーミュラリが必要とされる現状を見ていこう。まず医師の立場から見ていこう。著者も週2回勤務先の横須賀市にある衣笠病院で外来を担当している。そのとき戸惑うのは同種同効薬の数の多さだ。日常的に使用する降圧剤のアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)や制酸剤のプロトンポンプ阻害剤(PPI)、コレステロール値を下げるスタチン系医薬品、尿酸値を下げる尿酸生成抑制剤は似たような効果効能の薬が数多く出ている。どれを選んでよいのか正直わからない。
特に自分の得意な専門分野の薬であればなんとかそれぞれの薬の特徴から優先順位をつけて選ぶことはできる。しかし専門外の薬については戸惑うことが多い。こうした時フォーミュラリがあれば助かる。フォーミュラリは専門の医師、薬剤師が同種同効薬の中から科学的な根拠や薬価等を比べて、第一推奨薬、第二推奨、第三推奨と優先順位をつけて教えてくれる。こうしたリストがあれば、専門外の患者を診たときは、まずは第一推奨薬から処方してみることになる。
次に薬局の薬剤師の立場で考えてみよう。薬剤師も同じように同種同薬の数の多さで悩んでいる。同種同効薬のなかでもその需要が多い薬、少ない薬がある。しかし需要の少ない薬でも在庫しておかなければならない。このため薬局の在庫品目数が増えるばかりで、期限切れの廃棄金額もばかにならない。しかし在庫が切れれば患者さんや処方医にも迷惑をかけることになり、在庫を切らすわけにはいかない。
また患者さんもこう思っている。違う病院・診療所に行くたびに違ったメーカーの薬を渡される。とにかく薬が多くて自己負担分が高い。もっと安くならないのか?
こうした思いは医師、薬剤師、患者が共通して抱える悩みだ。現在、日本の処方薬の数は1万3千品目もある。この中で同種同効の薬が多い。また最近では後発品が特許切れ品の9割近くにまで増えてきた。ますます選ぶのが大変だ。こうした医薬品の品目をしぼりこむことができれば、どれだけみんなが助かることか。
品目の絞り込みで処方する医師の負担も減る。薬局の在庫も減る。患者さんも戸惑わなくなる。そして製薬企業も製造する品目が絞りこまれれば、市場予測が立ち、供給計画も立てやすく、安定供給につながる。病院でも医薬品の品目数を抑える努力がなされている。病院で作る薬剤リストの品目数の上限が決められていて、1つの新薬を入れるときにはかならず使用頻度の少ない薬を1つ減らすという「一増一減」で、品目制限を行っている。これにより病院の医薬品費が膨れ上がるのを防いでいる。これと同じことを地域全体で行うのが地域フォーミュラリだ。
地域フォーミュラリの考え方をまず、現場で振り返ってみよう。各病院で近くの大学病院や中核病院で使われている医薬品を参考にして、あたらためて使用する薬剤を見直してみてはどうだろうか?著者が勤務する衣笠病院では横須賀市の基幹病院である横須賀共済病院からの紹介患者が多い。このため衣笠病院の処方薬は横須賀共済病院の医師の処方薬とかなり一致している。また地域の薬局でもよく在庫切れになる薬を洗い出して、リスト化して地域の薬剤師会でそれを共有して、在庫融通をするということも行っているところもある。また災害時や緊急時に用意しなければならない薬を平時から意識して確保する方法を薬剤師会で考える。こうしたことから医薬品を地域で標準化する方法を考える。こうした考え方をもとに地域フォーミュラリが作られることになる。
2 地域フォーミュラリの事例
では地域フォーミュラリの各地の事例を見ていこう。2025年9月の厚生労働省の調査によれば、全国の地域フォーミュラリの取り組み事例は以下の10府県16地域に広がっていた。山形県、茨城県(2件)、埼玉県、神奈川県(2件)、長野県、愛知県(2件)、大阪府(3件)、兵庫県、広島県(2件)、沖縄県。この中から、以下の3事例を見ていこう。山形県酒田市、大阪府八尾市、神奈川県横須賀市の事例である。
(1)山形県酒田市
山形県の酒田地区では、基幹病院の日本海総合病院、酒田市医師会、薬剤師会が協同して地域フォーミュラリを導入した。この地域フォーミュラリではPPIの後発品、糖尿病薬や降圧剤、バイオ後続品のインフリキシマブを推奨医薬品リストに搭載している。この地域フォーミュラリを導入したところ、PPIの後発品のランソプラゾールの使用が増えた(図表1)。またARB推奨薬のオルメサルタンの後発が搭載されたことから、オルメサルタンの後発の利用率が、全国が21%であるところが、酒田市では32%と10ポイント近くも上がった。またテルミサルタンの後発も全国が17%とであるのに対して酒田市では27%に上がった。またARBの種類数を薬局ごとに分析したところ、2024年には全国の平均処方種類数が29種類であったところ、酒田市では平均処方種類数は23種類と絞り込まれていた。こうした品目絞り込み効果も地域フォーミュラリならではと言える。
そしてその医療費削減効果は2024年の1年間でおよそ2億2000万円にも達したと言う。
(2)大阪府八尾市
大阪府八尾市では八尾市医師会、薬剤師会、歯科医師会と八尾市立病院、八尾徳洲会総合病院、医真会八尾総合病院が協同して地域フォーミュラを導入した。導入された地域フォーミュラリはPPI、スタチン、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)について作成した。PPIの例を図表2に示す。
図表2

(3)神奈川県横須賀市
神奈川県横須賀市では横須賀市医師会、薬剤師会、歯科医師会が降圧剤、スタチン、ACE阻害剤、尿酸生成抑制剤、ARBについての地域フォーミュラリを導入した。図表3に降圧剤の地域フォーミュラリを示す。
図表3

3 地域フォーミュラリガイドライン
2022年厚生労働科学研究特別事業「地域フォーミュラリ事例および質問票調査に基づいた実施ガイドラインの開発」 (研究代表者今井博久帝京大学大学院公衆衛生学研究科 教授 / 特任教授)において、医薬品の適正使用に資する地域フォーミュラリガイドラインが作成された。これをもとに2023年に都道府県あてに地域フォーミュラリガイドラインが周知された。
まず地域フォーミュラリの定義を見ていこう。ガイドラインによれば、「地域フォーミュラリとは地域の医師、薬剤師などの医療従事者とその関係団体の協議により、有効性、安全性に加えて経済性なども含めて総合的な観点から最適であると判断された医薬品が収載されている地域における医薬品集及びその使用方針」としている。
地域フォーミュラリはあくまでも推奨薬であり、医師の処方を制限したり強制するものではない。原則は有効成分単位(一般名)で選定し、合理的な理由がある場合には特定の銘柄を選定する。一つの同種同効の薬効群に対する推奨薬は一つに限定する必要はなく、複数を選定したり、一定条件を付けたオプションとして選定したりすることも可能である。
その効果としては処方の標準化により円滑な医薬品の病診連携が可能となる、薬局の在庫管理が効率化される。災害時も含む供給不安時の提供にも適している。さらに後発品を使用することで住民の自己負担軽減にもつながる。
そもそもフォーミュラリ(formulary)のフォーミュラ(formula)とは、「決まりごと」の意味で、フォーミュラリはその「決まりごと」を集めたものだ。決まり事が薬の場合が地域フォーミュラリと呼ばれる。
ガイドラインでは地域フォーミュラリの目的としては以下をあげている。良質な薬物療法の提供を目的とし、最新の科学的なエビデンスに基づき、医学的・薬学的観点のほか経済性等も踏まえて、地域における関係者の協同の下で作成・運用する。
その作成と運用にあたっては、医療機関の医師及び薬剤師、薬局の薬剤師等地域医療を担う関係者からなる組織を設置し、地域の医師会や薬剤師回答の関係団体の協力を得ながら、関係者の協同と合議の下で、契約関係などの利益相反の開示を含め、透明性を確保し作成・運用すべき。また地域の医療情報を反映させかつ実効性を高めるために行政機関や保険者の関与も可能な限り検討すること。
そして導入と運用にあたっては、地域の医療機関、薬局ほか、医師会、薬剤師回答の関係団体、行政棟の関係機関への周知や説明会開催など、地域の医療機関・薬局が理解して活用できるよう、丁寧に説明を行う必要がある。導入により、医薬品の使用に制限が生じるものではなく、例えばすでに治療を始めている患者に投与中の医薬品を継続することは差支えない。また作成後も再診の情報のも続き、適時適切に更新する必要がある。
そして地域フォーミュラリの導入効果や影響評価、薬剤師の適正化を定量的に評価することが望ましい。このため評価のための方法やその情報収集・分析のための計画も併せて設定することを考慮すること。
4 地域フォーミュラリの都道府県の役割
地域フォーミュラリについては、国も2025年の経済財政運営の改革の基本方針(骨太の方針)で、地域フォーミュラリの全国展開を宣言する。これを受けて、2026年2月の社会保障審議会医療保険部会では、第4期の医療費適正化計画に地域フォーミュラリが追記され、「2026年度中に各都道府県において地域フォーミュラリの策定に向けて検討する場が設けられ、その取り組みが進むよう」にとした。
なお医療費適正化計画は、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づいている。同法によれば都道府県は、国の医療費適正化基本方針に則して、6年を1期として、医療費適正化を推進するための計画を定めるとしている。現在は第4期医療費適正化計画が2029年まで進行中である。
この第4期医療費適正化計画において地域フォーミュラリを検討する会議体を都道府県に設置することが決まった。今後、都道府県は後発医薬品使用促進協議会や保険者協議会等で、都道府県医師会、薬剤師会、歯科医師会、保険邪、行政関係者、学識関係者等が集まる地域フォーミュラリ推進協議会を設置する。そこで各都道府県内で地域フォーミュラリーを策定可能な地域を検討・調整をまず行うこととしている。そしてその地域において地区医師会、薬剤師会、歯科医師会、中核病院の専門医、薬剤師、保険者、行政、有識者などにより地域ホーミュラリの策定と運営を行うとしている。すでにこうした会議体の設置の準備が各都道府県で始まろうとしている。
また中医協でも地域フォーミュラリを、2026年診療報酬改定で後押しをしようとしている。それが、地域支援・医薬品供給対応体制加算だ。2026年度診療報酬改定で、医科と調剤の双方に「地域支援・医薬品供給対応体制加算」が新設された。この加算の運用の仕組みとして「地域フォーミュラリー」が注目されている。この加算の要件に地域フォーミュラリが直接入ったわけではない。しかしこの加算の運用上、地域フォーミュラリが必要となるのは明らかだ。
地域支援・医薬品供給対応体制加算はこれまでの「地域支援体制加算」のワク組みに薬局における後発医薬品使用促進のための後発医薬品調剤体制加算が合流した形になっている。そして以下のポイントが要件となっている。医薬品の安定供給体制、在庫管理や在庫分譲、供給不足時の調整、後発医薬品使用割合の基準、流通改善ガイドラインに沿った取組などだ。
地域フォーミュラリでは推奨医薬品リストが地域の医療機関と薬局間での合意のもと作成される。その結果として医薬品の品目の絞り込みが行われる。このため地域フォーミュラリーを使用すると、流通する医薬品の品目が整理され、医薬品の安定供給に貢献し、在庫管理も容易となる。さらに地域フォーミュラリは地域の医療機関と薬局が協働で作成するため、医薬品の在庫管理も地域全体で協働で行うことができる。このため医薬品供給不安時の在庫分譲や融通なども行える。さらに地域ごとに医薬品発注も共同で行えれば、単品単価や過度な急配依頼も抑制することができ、流通改善ガイドラインの実践も後押しすることができる。そしてなにより後発品やバイオ後続品が地域フォーミュラリに搭載されることで、地域全体の医薬品費の節減に貢献することになる。
厚労省も地域支援・医薬品供給対応体制加算の趣旨を、「医薬品の流通改善・安定供給の観点から、地域の保険医療機関・保険薬局・医療関係団体と連携し、取り扱う医薬品の品目について、『あらかじめ取り決めを行っておくこと』が望ましい」と述べていて、本加算が事実上の地域フォーミュラリに該当すると認めている。
以上、地域フォーミュラリの最近の状況を概説した。2026年度は地域フォーミュラリの新しい幕開けの年になるだろう。
参考文献
厚労省 中医協 2026年診療報酬改定答申 2026年2月18日
厚労省 中医協総会 2025年10月17日
厚労省 中医協総会 2019年6月29日
