
図表1 成瀬道紀 OTC 類似薬はOTC 医薬品に区分を J R Iレビュー 2024 Vol.8, No.119
2026年4月9日、OTC類似薬の患者特別負担を盛り込んだ健康保険法改正に関する国会審議がスタートした。この法案は早ければ6月上旬に通常国会で成立の見込みだ。
これを機会に改めてOTC類似薬とは何か、患者特別負担の対象とされたOTC類似薬77成分とその課題について振り返ってみよう。
1 OTC類似薬とは
(1)OTC類似薬の経緯
OTC類似薬とは何だろう。OTC類似薬とは「一般用医薬品(OTC医薬品)と同じ有効成分を含み、用法・用量や効能・効果が類似している医療用医薬品(処方薬)」のことだ。
OTC類似薬の歴史は、1971年の薬事法施行規則改正で医薬品が医療用と一般用に分けられた時から始まる。このときすでに医療用と同じ有効成分を含む一般用医薬品があった。例えば抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン)や鎮痛薬(アスピリン)などは、医療用と一般用の両方がすでに存在していた。これらの医薬品は長年の使用実績と安全性があるため、一般用としても医療用としても認められていた。そして1983年ころからはスイッチOTCのように医療用から転用された一般用医薬品が加わり、OTC類似薬がますます増えた。
そもそも企業が開発した医薬品を医療用医薬品で国に申請するか、一般用医薬品で申請するかはその経営判断に任されている。こうして医療用医薬品でもあり、一般用医薬品でもあるOTC類似薬が世にあふれている。たとえば処方薬のPL顆粒にはOTCのパイロンPL顆粒がある。同様に処方薬のロキソプロフェンナトリウム60㎎にはOTCのロキソニンSがある。処方薬のケトプロフェンパップ60㎎にはケトプロフェンパップがあるように市販薬でもあり処方薬でもあるというOTC医薬品がドラッグストアの陳列棚にあふれている。
(2)OTC類似薬の現状
ここからはOTC類似薬の現状について、日本総研調査部の成瀬道紀氏の資料より見ていこう。現状では、医薬品は処方せんが必須の医療用医薬品、OTC類似薬、処方せん不要のOTC医薬品の3類型がある。それぞれの品目数は処方せん医薬品が1万3千品目、OTC類似薬は7千品目、OTC医薬品は1万3千品目もある。
処方せん医薬品か否かは投与経路、有効成分、効能で決まる。抗がん剤、抗菌剤、向精神薬、生活習慣病治療薬、さらに輸液剤は処方せん医薬品となっている。一方OTC医薬品かOTC類似薬かの区分については、前述のように企業申請に基づいて審査される。企業としても保険適応の処方せん医薬品で申請するのか、OTC医薬品で申請するのかは企業の経営戦略に基づいて決めている。
また処方せん医薬品とOTC医薬品の間の出入りも多い。漢方は長らく一般用医薬品だったが、1978年に保険適応になった。一方、スイッチOTCのように、長らく処方せん医薬品であった医薬品が、同じ成分のままOTC医薬品に転換する場合もある。現在スイッチOTCは93成分で、これからもスイッチOTCはその数を増やしていくだろう。
また最近では発毛効果のある「ミノキシジル」、内臓脂肪減少薬「アライ」のように企業はあえて処方せん医薬品では申請せず、最初からOTC医薬品として申請するダイレクトOTCもある。
2 OTC類似薬の保険外し
2025年3月、自民党、公明党と日本維新の会は社会保険料の改革に関する協議の初会合を開催した。OTC類似薬の保険給付のあり方などを検討するという。日本維新の会の猪瀬直樹議員は2025年3月6日の参院予算員会で「OTC類似薬で1兆円は(医療費を)削れる」と打ち上げた。
そして2025年6月11日、自民党、公明党、日本維新の会は以下のように合意した。「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しについては、医療の質やアクセスの確保、患者の利便性に配慮しつつ、医療保険制度の持続可能性確保を目指すことを基本とし、2025年末までに予算平成過程で十分な検討を行い早期に実現が可能なものについて、2026年度から実行する」。
そして2025年10月20日の自民党、日本維新の会の連立政権の樹立に至って、OTC類似薬を含む薬剤の自己負担の見直しが連立政権の社会保障制度改革のトップ項目に位置づけられた。これに対して、日本医師会は大反対だ。宮川政昭常任理事は「(保険外しを行えば)医療機関の受診控えによる健康被害が起きる。現役世代を含めた『経済的負担の増加』につながる。政策として容認できない」と述べている。
3 OTC類似薬の保険給付見直し
さて財政制度審議会も2024年11月にOTC類似薬の保険給付について議論をしている。財政制度審議会の基本スタンスは「重篤な疾病リスクに対しては保険給付で、一方、軽症リスクについてはセルフメディケーション」としている。海外を見れば、イギリスでは軽症の患者に対する処方せん医薬品の交付を減らし、OTC医薬品の購入を促すためのガイダンスを発行している。またフランスのように薬剤の種類に応じた患者負担の割合を変えている国もある。たとえばフランスでは抗がん剤には負担ゼロであるが、軽度な疾患については85%の自己負担を課している。
これにならい、我が国でもOTC類似薬の保険給付の見直しをこれまで行ってきている。例えば2012年には単なる栄養補給目的のビタミン剤の投与を保険給付から外した。2014年にはイソジンガーグルのようなうがい薬での単体の処方を外した。2016年には湿布薬を1処方で70枚に制限した。最近ではこの処方上限が63枚に減らされた。2018年にはヒルドイドのような皮膚保湿剤の処方も外された。しかしアトピー性皮膚炎などの治療目的には処方せん医薬品として処方できる。
また社会保障審議会医療保険部会では2023年9月にOTC類似薬の保険給付の在り方の見通しとして、OTC類似薬は保険給付からの除外や、償還率の変更、定額負担の導入など保険給付の在り方の案を示している(図表3)。
図表2

4 社会保障審議会医療保険部会での検討
さて前述の自民党、日本維新の会のOTC類似薬の保険給付見直しの提言を受けて、社会保障審議会医療保険部会(以下、部会)でも2025年11月より検討が始まった。
部会では賛成、反対の意見がさまざまあった。賛成派は「選定療養で追加の自己負担を求める方法や償還率を変える等の方法など、具体的な検討を進めてほしい」、「OTC類似薬と市販薬の用法・用量、効能・効果等の違いを踏まえつつ、市販薬で代替可能なものはできるだけ広い範囲を対象としてほしい」、「一方、子どもや慢性疾患を抱えている方、低所得者への配慮は当然必要だ」としている。
反対派の意見としては、「医療用医薬品と市販薬で有効成分が一致していない、あるいは一致していても効能・効果が異なる薬があるので、一律の保険外しは難しい」、「患者の判断によっては一日の最大用量が異なることで十分な治療効果が得られないことも考えられる」、「患者が薬の違いを理解し、他の薬との飲み合わせに注意し、病気に対して適切に薬を選択することは現実問題として難しい」、「どの程度の期間服用すればよいかを自己判断しなければならないということは、軽い症状で受診を控えれば、重篤な疾患の早期発見・早期治療の機会を失うことも否めない」などの意見が交わされた。
以上より、健康保険改定にあったて、論点は以下の3つに絞り込まれた。論点①は費用負担の在り方、論点②は配慮が必要な者の範囲、論点③はOTC類似薬の範囲である。この論点に関する部会委員の意見を以下に見ていこう。
論点①費用負担の在り方
「OTC医薬品に変更した場合、患者の自己負担がかなり増える」、「保険の枠内に置きつつも保険外併用療養の形で別途負担を求める仕組みも考えられる」、「選定療養で追加の自己負担を求める方法、償還率を変える方法もある」、「OTC医薬品を保険適応とした上で患者の負担を変更すると言うやり方が弊害が少ないのでは?」。
論点②配慮の必要な者の範囲
「こどもや慢性疾患を抱えている方、低所得の方については配慮が必要だ」、「一般用医薬品では医療用医薬品の10倍以上の価格になることもあり、難病の方や心身障碍者の方などの負担が非常に重くなる」。この配慮が必要な者の範囲として、間保険局長は以下を示している。子供は高校生まで、難病は厚労省が指定する指定難病以外も含む、低所得者は生活保護受給者としている。また医師が医療上必要と考える患者については、「アトピー性皮膚炎など慢性疾患で年間を通じて通院する患者」を例示している。
論点③OTC類似薬の範囲
「成分が一致していても、用法・用量、効果・効能、対象年齢、投与経路、剤型など様々な違いがあり、単純に保険適用から外すことは難しい」、「用法・用量、効果・効能等の違いを踏まえつつ、OTCで代替可能なものはできるだけ広い範囲を対象としてはどうか?」
以上の部会意見を踏まえて、2025年12月19日に自民、維新の政調会長間協議で以下のような見直し内容で合意がなされた。
「長期収載品で求めているような別途の保険外負担(特別の料金)を求める新たな負担等を2026年度中に創設」(これには健康保険法の改正が必要)、「特別料金の対象の範囲となる医薬品は77成分(1100品目)とする。これはOTC医薬品と成分・投与経路が同一で、一日最大用量が異ならない医療用医薬品を機械的に選択」、「特別の料金は対象薬剤の薬剤費の4分の1とする」、「配慮が必要な患者はこども、がん患者、難病患者などの慢性疾患を抱えている方、低所得、入院患者、医師が対象医薬品の長期使用が医療上必要と認める患者」。
こうして成分数77、品目数約1,100の特別料金の対象となる医薬品のリストが社会保障審議会医療保険部会で2025年12月25日に公表された。主な対応症状は、鼻炎(内服・点鼻)、胃痛・胸やけ、便秘、解熱・痛み止め、風邪症状全般、腰痛・肩こり(外用)、みずむし、殺菌・消毒、おでき・ふきでもの、皮膚のかゆみ・乾燥肌等。
5 健康保険法改正国会審議と論点
つぎにOTC類似薬の追加負担を含む健康保険法改正案の国会審議状況を見ていこう。同法案は2026年4月9日に衆議院本会議に上程されて、4月24日に衆院厚生労働委員会、4月28日に衆院本会議で可決された。ただ付帯決議でOTC類似薬の患者特別負担による受診控えの懸念が指摘され、施行後の影響検証と必要な見直しを求める付帯決議が採択された
そして5月13日より参議院本会議で審議入りし、高市総理から「急激な負担増とならない設定」「必要な受診が妨げられないよう周知」と説明があった。
これまでの国会審議の過程で浮かび上がった論点は以下だ。
1点目は「一部保険外療養制度の射程が広すぎるのでは?」と言う論点だ。特別自己負担は保険外療養制度の枠組みで設定された。保険外療養制度とは、保険療養に保険外の療養を加えることを例外的に認める制度だ。たとえば後発品があるにもかかわらず先発品を希望する患者には先発品と後発品の薬価差の4分の1を患者自己負担とする選定療養もその一つだ。選定療養はこれまでも入院差額ベッド代を患者に求めることにも用いられてきた。このように選定療養も保険外療養制度の一種といえる。
この選定療養は 厚生労働大臣の告示で範囲を広げられる ため、 国会審議でも「将来、薬剤以外の診療行為にも拡大し得るのでは?」という懸念が指摘されている。たとえば共産党・辰巳議員がこの点を追及し、 薬剤以外の診察・処置・手術なども将来保険外し可能ではないかと問題提起している。厚労省は「現時点で想定せず」としつつ、将来の拡大を否定もしていない。
2点目は薬剤費が将来「全額自己負担」になり得るかが論点だ。現在は薬価の25%が保険外だが、今後それが100%になりうるかというのも大きな論点だ。実は上野厚労相が法制上は全額自己負担も可能と認めている。この考え方は給付の公平性と言う考えに基づく。花粉症でドラッグストアで花粉症薬を自費購入する人もいれば、医療機関で花粉症薬を処方してもらって自己負担分を1~3割に抑えて安価に入手している人もいる。こうした給付の公平からいえば100%自己負担と言う考えもなりたつ。一方、100%自己負担を認めれば、そもそも国民皆保険の理念との整合性が強く問われる。
3点目は受診控えの懸念だ。患者の自己負担増により受診控えが起きる可能性が国会審議中に繰り返し主張されている。今回の特別負担でどれくらいの受診控えが起きるか、またOTC類似薬からOTC医薬品への移行がどれくらい進捗するかを検証する必要がある。これは参院でも引き続き主要論点となるだろう。
4点目は対象医薬品の成分、品目の範囲の拡大だ。現状では対象となるOTC類似薬は77成分・約1100品目だ。この成分や品目が今後拡大されることが考えられる。
6 有識者会議
以上のような論点から本法案が成立後、2027年4月に施行するまでの間、法律の具体的な運用を検討する場としての「有識者検討会」が設置される予定だ。高市首相答弁でも「施行までに専門家の意見を聞きながら丁寧に検討する」と明言している。
この有識者会議は、法成立後に厚生労働省が設置する「制度施行へむけての調整の場」であり、対象成分・除外基準・運用方法を詰めるための専門家会議だ。 健康保険法では「選定療養としてOTC類似薬に特別負担を課す」枠組みだけを規定している。このため、具体的な対象成分・除外基準・運用方法は政省令・告示で決まる。その政省令・告示を作る前に、専門家の意見を聴取する場として有識者会議が設置される。会議体の形式は既存の「医療保険部会」や「薬剤部会」とは別に、OTC類似薬制度に特化した検討会が立ち上がる見込みだ。
国会審議の過程からも見えてきたように、有識者会議で議論すべき論点は以下の4つに整理できるだろう。
論点① 対象成分(77成分・1100品目)の妥当性検証
本当にOTCで代替可能か?医療上必要性の高い成分が混入していないか?小児・高齢者・慢性疾患患者への影響は?―などの詰めを行う。
論点② 除外基準の具体化
首相答弁では以下が「負担を求めない方向」とされている。がん患者、難病患者、入院患者、医師が長期使用を医療上必要と認める場合などだ。こうした除外基準の具体案を、有識者会議では健闘する予定だ。その除外要件についても詰めていく。まさにこの制度のキモともいえる最重要部分だ。
論点③ 受診控え・重症化リスクの評価
制度の実施で受診控えがどの程度おこるのか、それによる重症化リスクをどのように見積もるのかを検討する。またNSAIDs・酸化マグネシウム・抗ヒスタミンなど、リスク管理が必要な薬剤が含まれるので、個別成分ごとの対応が必要だ。
論点④ 成分数、品目数拡大へのロードマップ
自民・維新の政調会長合意では「2027年度以降に対象拡大」するとしている。このための拡大基準・評価指標・影響評価の方法を議論する必要がある。
以上、健康保険法改正におけるOTC類似薬の概要と、これまでの議論を国会審議における論点等を振り返ってみた。OTC類似薬の問題は患者負担とともに、保険給付へのアクセス問題としても極めて重要な問題だ。慎重な検討が必要だろう。
参考文献
成瀬道紀 OTC 類似薬はOTC 医薬品に区分を J R Iレビュー 2024 Vol.8, No.119
厚労省社会保障審議会医療保険部会 2023年11月9日
厚労省社会保障審議会医療保険部会 2023年9月29日
厚労省社会保障審議会医療保険部会 2025年12月25日
厚労省中医協総会 2025年12月12日
