
北島政樹先生には国際医療福祉大学三田病院(港区)で大変お世話になった。北島先生は日本を代表する外科医で、第100回日本外科学会会長、国際消化器外科学会会長などを歴任した方である。巨人の王貞治さんの手術を担当されたことでも有名だ。日本中にお弟子さんの外科医が大勢いる。
でもその素顔はいたって冗談好きで気さくな人柄だ。三田病院の外科病棟を一緒に回診するときなど、患者さん相手にダジャレを連発する。「年を取ったら必要なのは教育と教養だ。『今日行く』ところがあり、『今日の用事』がある高齢者は元気だ」などという。一緒に回診している私に対しても「武藤くんは私より『自覚』が足りない。自分の名前は政樹だが、君のは正樹だ。字画が足りない」という。
北島先生とは、三田病院ががん診療病院を東京都に申請したとき、その説明に関係者のもとに一緒に伺ったりした。無事、2008年に三田病院が東京都認定のがん診療病院に認められたときは一緒に喜んだものだ。
ただ75歳ごろから、「ちょっと疲れた」と愚痴を言われるようになられた。「国際医療福祉大学の医学部創設までは頑張ってください」と申し上げた。その医学部が創設されたのが2017年。しかし2019年5月にご自宅の近くの広尾のプールで水泳中に意識を失われ、お亡くりになる。享年77歳だった。
北島先生が亡くなる間際まで、先生の謦咳(けいがい)に接することができたのは何よりの思い出だ。