エッセーの投稿

医者は居者


 「医者は居ることが大事だ。だから医者は居者ともいう」と若いとき、先輩の医者からこう教わった。なるほどと思った。医者には待機する時間が多い。医者は何事もなくても患者の傍にいることが大事だ。患者や患者の家族にとっては、医者が常に居ること自体が安心につながる

 フランスの外科の医者のアンブロワーズ・パレの有名な言葉がある。「時に治し、しばしば和らげ、常に癒す」。医者が治療を行い成功することはわずかだ、多くは何もできない事の方が多い。しかし何もできなくても患者の傍に常にいることが大事だ。それは「癒し」に繋がるからだ。

 ふだんの生活の中で、変わらぬ姿でいつもそばに居る人に安心と安らぎを感じる時がある。そうした人の姿が、ふと見えなくなると心が騒ぐ。そうした経験はだれにもあるだろう。

 聖書には「わたしはいつもあなたと共にいる」(マタイ28:20)という箇所がある。この言葉は私たちの日常の中で安心感を与えてくれるイエスの存在が、まさに「居者」としての究極の理想像を示しているかもしれない。