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足のむくみの見分け方


 横須賀の衣笠で週2回の外来を担当している。必ず一人や二人、足のむくみ(浮腫)で来院される高齢の女性が初診で来院される。「足がむくむでいるのですが・・・」。その時、すぐに見るのは「むくみが両足にあるのか?、片足にあるのか?」だ。「両足にあれば心不全」、「片足にあれば深部静脈血栓」とすぐに疑う。そして血液検査で両者を見分けるのは、心不全の場合はBNP(ビーエヌピー)だ。ちょっと前に上皇后の美智子様が散策中の息切れの検査のため血液中のBNP値を測定したところ上昇していて話題になった検査だ。BNPの正式名称は「脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド」、つまり最初は脳で発見されたホルモンだが、現在は心臓の壁の伸展や圧上昇などのストレスによって心臓から分泌されるホルモンだ。

 両足浮腫でBNPが高ければ、心不全を疑って、行うのは胸部レントゲンと心電図だ。心臓が大きくなっていないか?胸に水が溜まっていないか?心臓に異常はないかを見分ける。そして心臓エコーの検査を予約する。エコーでは心臓のポンプ機能、すなわち心臓が血液を押し出す力を評価する。そして利尿剤などを処方する。

 一方、深部静脈血栓で上がるのは血液中のDダイマーだ。Dダイマーが高いと、体内で血栓が形成されやすい状態にあると言える。血栓症の有無を評価するマーカーとして用いられる。片足の浮腫でDダイマーが上昇していたら、すぐに下肢の静脈エコーをオーダーし、超音波検査で下肢の深部血栓の有無を見分ける。エコーで深部静脈血栓があれば血液サラサラの血栓溶解剤を処方する。

 あと時々お目にかかるのは高齢者のネフローゼ症候群だ。一度、老健で栄養士さんが「アルブミンが急に落ちている。ネフローゼじゃないですか?」と言う。アルブミンは蛋白質で栄養状態を見る指標の一つだ。栄養士さんは高齢者の低栄養をチェックするのが仕事で、血清アルブミンに目を光らせている。そういわれて慌てて尿中アルブミンを測定してみた。やっぱり尿にアルブミンが大量に漏れ出ていてネフローゼ症候群だった。昔、ネフローゼと言えば子供の病気だったが、今や高齢者の病気だ。

 それから見逃していけないのが骨盤内の悪性腫瘍だ。悪性腫瘍が下肢の静脈の流れをブロックしていて両足浮腫を起こす。そのときは腹部CTを撮影してみたら、婦人科系のがんが進行していた。

 足の浮腫と一言で言っても原因はさまざまだ。ただ明治時代にタイムスリップすれば話は簡単だ。明治の医者が両足の浮腫をみたら診断は一言だ。ビタミンB1不足の「脚気ですね」で済んだだろう。

 

 

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