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高額療養費制度見直しとバイオシミラー


 高額療養費制度とは抗がん剤などの高額治療をおこなっても自己負担分の上限額が決まっていて、それ以上は自己負担分の支払いが免除される制度だ。患者の経済的な状況にかかわらず治療を受けることが出来るという優れた制度だ。この自己負担分の上限額が引き上げられるということが、今や大問題になっている。もう高額な抗がん剤を使うことができなくなるのか?

 一方、がんや慢性関節リュウマチなのどの治療薬には高分子のバイオ医薬品(図)が活躍している。このバイオ医薬品が高額なことも医療費を押し上げている原因だ。これに対してバイオ医薬品が特許切れの後に出てくるバイオシミラーは先行するバイオ医薬品よりも薬価が安価なので医療費節減と患者自己負担分の軽減には役立つ。バイオシミラーとは先行するバイオ医薬品と有効性、安全性が同等でしかも薬価が半分くらいと安価だ。このため2023年だけでもバイオシミラーによる医療費節減額は900億円以上に上っている。このため国はこのバイオシミラーの使用促進を推し進めている。この先行するバイオ医薬品とバイオシミラーの関係は低分子の先発品とジェネリック医薬品のような関係だ。

 さて今回の高額療養費の自己負担上限のアップでもバイオシミラーが患者自己負担を軽減できるので活躍できると普通は考える。バイオシミラーを使えば、患者は自己負担分を押さえることが出来ると思うのが普通だ。

 ところが事態はそう簡単ではない。これまでもバイオシミラーを使うと医療費が下がってしまって、高額療養費制度の適応にならないことが問題とされていた。つまり高額なバイオ先行品を使えば高額療養費制度の適応になり、自己負担分が抑えられるが、安価なバイオシミラーでは高額療養費の適応枠に達しないので、その制度の恩恵を受けられないのだ。このためバイオシミラーを使うと通常の3割自己負担になって、高額療養費の適応よりも逆に負担増になってしまうことがあった。こうした現象をバイオシミラーを使うことで自己負担が逆に増えてしまうことから、バイオシミラーによる「逆転現象」と呼ばれていた。

 この逆転現象が高額療養費の自己負担上限アップでさらに頻度が増すのではないかと懸念されている。高額療養費の自己負担上限のアップはひっ迫する保険財政を収入に応じた負担増で、保険料を引き下げる効果がある。しかし同時に自己負担上限のアップはバイオシミラーによる逆転現象の頻度を増やし、バイオシミラーの使用促進を妨げる懸念もある。

 あちらを立てればこちらが立たないという典型的なジレンマ問題だ。このジレンマをどのように解決したらよいのだろう?その妙案はあるのか?

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