
図表1 厚労省 入院外来分科会 2025年7月17日
中医協の下部組織である入院外来分科会では、2026年診療報酬改定へ向けて議論がスタートしている。同分科会の2025年7月の議論の中から、病院薬剤師の現状とそのタスクシフト/シェア等について見ていこう。
1 病院薬剤師の現状
病院薬剤師は2022年現在、全国で5万6千人、一方薬局薬剤師は19万人で、現状では薬局薬剤師数が病院・薬局薬剤師全体の75%を占めている。薬局薬剤師と病院薬剤師の薬剤師偏在指標をみると、薬局は1.08、病院は0.80で明らかに薬局に偏在していることが判る。なお偏在指標とは薬剤師の現在の労働量を必要な業務量で割った指標で、1が標準となる。1以上は現在の労働量が過剰、1以下が過少となる。都道府県別に見ると薬局薬剤師に関しては東京都、神奈川県、兵庫県など18都道府県で1以上である。一方、病院薬剤師で1を超すところはなく、青森県、秋田県、山形県など東北県では0.6以下であり病院薬剤師の過少が際立っている(図表1)。
1988年ごろ薬局薬剤師数と病院薬剤師数はともに5万人以下でその数はほぼ同数であった。しかし医薬分業の進展と共に薬局数が急速に増えるに従い薬局薬剤師数が急増し、35年間で4倍近くに増えることとなった(図表2)。
なお病院薬剤師の就業場所はその8割が大学病院や高度急性期・急性期病院だ。残り2割が回復期病院、慢性期病院である。
図表2

厚労省 入院外来分科会 2025年7月17日
ではなぜこのように薬局数が増加したのだろうか?これには医薬分業への政策誘導が関係している。医薬分業には2つの政策意図があった。1つ目は、薬剤師と医師がそれぞれの専門性を発揮し、安全な薬物療法を提供すると言う意図だ。処方する医師とは別にこれを監査する薬剤師が居ることで、薬剤有害事象や重複投薬の回避が期待できる。2つ目の意図は、薬価差益を減少させることで医療費の抑制を目指したことだ。今から35年も前の1989年秋、旧厚生省の保険局長が国会で「薬価差益は、薬代の25%、推計で1兆3千億円にものぼる」と言った。当時は医療機関における院内調剤が主流で、医療機関はこの薬価差を経営原資に充てていた。
この薬価差益を是正するため、院外処方箋を推進する政策、すなわち院外処方箋や調剤薬局における調剤報酬を高めに設定した。その結果、処方箋を調剤する薬局の必要性が高まり、その増加につながった。とくに患者の利便性のため門前薬局の展開が進んだ。こうして30年以上にわたる調剤薬局の官製バブルが起きたのだ。しかしこのバブルも2015年5月の経済財政諮問会議で、当時の塩崎恭久厚生労働大臣が「病院前の(門前薬局の)景色を変える」と発言して以来、ブレーキがかかり始める。このため最近の薬局薬剤師医数の伸びも頭打ちとなっている。
2 病院薬剤師業務の評価
ここからは病院薬剤師業務の診療報酬上の評価を見ていこう。医薬分業の方針の中で、医療機関内における薬剤師業務の評価は院外の薬局の薬剤師業務より低く設定されている。院内処方せんと院外処方せんを比較すると、それは一目瞭然だ。調剤に係る報酬上の評価は、医療機関で外来院内処方は32点に対して、院外処方を受け取る調剤薬局では238点と7倍以上の差がある。医薬分業を推し進めるためこのような病院内での院内調剤と調剤薬局での調剤に格差が設けられている(図表3)
図表3

厚労省 入院外来分科会 2025年7月17日
さて病院内の薬剤師の主な仕事は病院内特に入院における医薬品業務が主たる業務だ。
この入院における薬剤師業務の評価の代表例が病棟薬剤業務実施加算だ。病棟薬剤業務実施加算とは、病院薬剤師が病棟で薬物療法の有効性・安全性の向上に貢献する業務を実施した場合、入院基本料に加算できる診療報酬のことだ。この加算に2024年改定では、「薬剤業務向上加算」が加算の加算として上乗せされた。この加算は、病院薬剤師の研修体制を充実させた医療機関が、病棟薬剤業務を実施する場合に評価さる。具体的には免許取得直後の薬剤師を対象として、病棟業務に係る総合的な研修が実施されていること、都道府県と連携し、自施設の薬剤師を他の保険医療機関へ出向させる体制を有することを評価した。しかし、この薬剤業務向上加算の算定実績は2024年11月時点で17医療機関のみにとどまっている。その6割が特定機能病院だ。算定困難な要件が地域の保険医療機関へ出向させる薬剤師の確保が困難なことだった。
図表4

厚労省 令和6年度診療報酬改定の概要 2024年3月5日
3 薬剤師のタスクシフト/シェア
中医協調査によると、医師の負担軽減に寄与する薬剤師の業務としては「薬剤師による投薬に係る患者への説明」、「薬剤師による患者の服薬状況、副作用等に関する情報収集と医師への情報提供」が挙げられた。また医師から薬剤師へのタスクシフト/シェアの実施状況としては、「医師への処方提案等の処方支援」、「病棟等における薬学的管理等」が挙げられた。
また悪性腫瘍の患者に対し、医師の外来の前に薬剤師が服薬状況や副作用の発現状況等について収集・評価を行い医師に情報提供、処方提案等を行ういわゆる「薬剤師外来」も評価されている。これはがん薬物療法体制充実加算として評価されている。この加算の実施状況をみると「診察前の情報収集と医師への情報提供」については約6割の施設で実施されていた。一方、同加算の算定が困難な理由としては、「午前中など患者が集中する時間帯に薬剤師を配属することが難しい」ことが最も多く8割を占めていた。
周術期薬剤管理加算は、手術を安全に実施するために、手術室の薬剤師が病棟薬剤師などと連携して、周術期の薬物療法をサポートする取り組みを評価する加算だ。2022年度の診療報酬改定で、麻酔管理料の加算として新設された。しかし、この届出を行った居る施設は全体の約1割で、手術件数が多い施設の届け出割合が多かった。また加算を算定できない理由としては、その要件である「手術室へ専任の薬剤の配置」を満たせないことだった。
4 薬剤情報連携
薬剤情報を医療機関と地域の薬局や医療機関との間で、円滑に連携することが、継続診療には欠かせない。医療機関における退院時における薬剤情報連携の実施項目としては「退院処方一覧情報」、「入院時持参薬や退院処方以外に継続服用が必要な薬剤に関する情報」、「入院中に変更となった処方に関する変更理由」が多かった。退院時の薬剤関連情報の連携先については、薬局の割合が最も高く62.1%を占めていた。続いて医療機関が26.6%であった。
外来がん化学療法を実施している患者については、病院薬剤師と薬局薬剤師の情報連携が重要だ。特に化学療法レジメンを地域の薬局薬剤師に提供し、同時に地域の薬局薬剤師を対象とした研修会を病院で行うことなど連携体制が必要だ。こうした薬剤情報の連携なしには、薬局薬剤師は適切な服薬指導を行えない。
5 ポリファーマシー
ポリファーマシーとは「多剤投与の中でも害を伴うもの」と定義がされている。高齢になると、どうしても複数の疾患を抱え、それぞれの疾患に対する処方が行われ、多剤投与になりがちだ。一方、高齢になると細胞内水分量の減少、血清アルブミン値の低下、肝血流量や腎血流量の低下といった薬剤動態に影響を与える事象が増えてくる。このため医薬品の有害事象が発現しやすくなる。
このためこれまでも高齢者におけるポリファーマシーを防止するために、厚労省は「高齢者医薬品適正使用検討会」の議論を踏まえ2018年5月に急性期病院用に「高齢者の医薬品適正使用の指針」、2019年6月に外来・在宅医療、回復期・慢性期医療用の同指針を発出するなどの対策を講じている。
診療報酬でもポリファーマシーに対しての評価が様々になされており、入院患者、外来・在宅患者に対する減薬の評価や、薬局における減薬の取り組みの評価等がなされている(図表5)。
図表5

厚労省 入院外来分科会 2025年7月17日
とくに病院では病院薬剤師をはじめ医療従事者が患者の身近に居ることから、ポリファーマシー対策が進めやすい。たとえば減薬によって患者有害事象が起きても、その対処が迅速に行える。しかし同時に急性期病院では在院日数が短いため充分な介入が行えない、人出不足で対象患者の抽出や、検討の時間が確保できないなどこともある。このため急性期病院ではポリファーマシー対策が十分に行えていないという現実もある。
たとえばポリファーマシー対策に「薬剤総合評価調整加算」があるが、入院時から退院時にかけて2剤の減薬が求められている。しかし急性期病院では入院期間が短く、この要件のクリアが難しい。また減薬に携わるには薬剤師の数も足りない。本来、処方する医師がポリファーマシー対策を診療ガイドラインや専門医教育の中で取り組むべきと言う意見も、入院外来分科会の委員から出ている。
その点、回復期、慢性期医療においては患者在院期間が急性期よりは長いので、ポリファーマシー対策を行いやすいという利点はある。著者も衣笠病院グループの老健(介護老人保健施設)でポリファーマシー対策に力を入れている。老健におけるポリファーマシー対策としては、2019年度の介護報酬改定で「かかりつけ医連携薬剤調整加算」が新設された。この加算が2024年度の介護報酬改定では、施設入所中に薬剤を評価・調整した場合も加算の対象となった。
このため老健の入所者の2週間に1度の定期処方日に、衣笠病院の薬剤師とともに減薬に取り組んでいる。著者の勤務する老健は衣笠病院に併設された老健だ。このため薬剤師が身近にいて医薬品の相談が気軽にできるのがメリットだ。こうした特性を活かしてポリファーマシー対策を行っている。
以上、入院外来分科会における病院薬剤師の現状をみてきた。2026年診療報酬改定の論点としては、病院薬剤師の不足、都道府県の偏在、タスクシフト/シェア、薬剤情報連携、ポリファマシーにおける課題等が挙げられた。今後の中医協での議論に注目していきたい。
参考文献
厚労省 入院外来分科会 2025年7月17日
