
図表1地域包括ケア推進病棟協会資料より 2025年5月16日
2025年5月時点で、2024年診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟」が153病棟、8495床となった。地域包括医療病棟は、高齢救急患者を受け入れ、患者にリハビリテーションや栄養管理、入退院支援などを包括的に提供し、在宅復帰につなげる機能を有する病棟だ。
2026年診療報酬改定の議論が、2025年6月より中医協の下部組織、入院外来等の調査評価分科会(以下、入院外来分科会)でスタートしている。今回から2026年診療報酬改定シリーズをスタートする。第1回は地域包括医療病棟の現状と課題、また地域連携における課題について見ていこう。
1 増えつつある地域包括医療病棟
地域包括ケア推進病棟協議会によると、冒頭述べたように地域包括医療病棟は2025年5月時点で153病棟までに増えた。病棟数のトップ5都道府県は、大阪、東京、神奈川、兵庫、愛知の大都市圏だ。病床の合計数は8495床だ(図表1)。
まず地域包括医療病棟が出来るに至った経緯を振り返ってみよう。このところ85歳以上の高齢者救急の伸びが止まらない。救急搬送率でみると、95歳~99歳と100歳以上は30%を超えている。90歳~94歳は25%以上、85歳~89歳は20%以上に達している(図表2)。各年代層の伸びを大幅に追い越して85歳以上の高齢者の救急が増えているのだ(図表2)。
図表2

85歳以上の高齢者患者は、その要介護率は6割近く、しかも複数の疾患を抱えているし、認知症の人も多い。さらに住環境も単身や夫婦二人世代の居宅居住者もいるが、介護施設に入居中の高齢者も多い。
こうした高齢者の救急患者を受け入れる病棟の議論が最初に始まったのは2014年の診療報酬で新設された「地域包括ケア病棟」の時だ。その成り立ちを振り返ってみよう。地域包括ケア病棟は次の3つの機能を持つ病棟だ。「ポストアキュート機能」、「サブアキュート機能」、「在宅復帰支援機能」。ポストアキュート機能は、手術や救急による急性期治療が一段落したあとの患者を受け入れる機能だ。またサブアキュートは高齢者の軽症ないし中等度の救急を受け入れる機能だ。
この議論を行ったのが、現在の入院外来分科会の前身の中医協の専門組織である入院医療分科会だ。入院医療分科会は中医協の下部組織の一つで、入院医療について主に専門的、技術的な立場から調査分析を行い中医協に報告する役割を持つ組織だ。2014年当時、地域包括ケア病棟の議論を行った時の入院医療分科会の座長を著者が務めていた。
入院医療分科会の地域包括ケア病棟の議論の中で一番もめたのがこのサブアキュート機能である高齢者救急に関する議論だ。地域包括ケア病棟の看護体制は13対1を基本とすることになっていた。このため分科会の中では「高齢者救急を扱うには13対1ではとても人員が足りない」、「13対1では救急はムリだ」という意見が大勢を占めていた。高齢者救急で多いのは誤嚥性肺炎、尿路感染症、骨折、心不全などだ。そしてサブアキュート機能の具体的な要件としては二次救急医療機関、救急告示病院が挙げられた。
こうした反対の意見のなか、当時、入院医療分科会の委員の一人だった武久洋三氏(当時、日本慢性期医療協会理事長)は、自身が経営する徳島県にある博愛記念病院での救急受け入れの例をあげ、「慢性期病院においても高齢者救急を受け入れている」と言って、地域包括ケア病棟におけるサブアキュートの必要性を説いた。こうした経緯から地域包括ケア病棟に、高齢者の救急受け入れ機能機能が取り入れられることになった。
それと並行して議論が行われていたのが、いわゆる「なんちゃって急性期病床」問題だ。日本にはまだ急性期と称しながら実は急性期機能を果たしていない「なんちゃって急性期病床」が多い。若者が減り、急性期のニーズが減少しているのになぜか「急性期」にこだわる病院が多い。そうした病院の経営者は「急性期を止めると職員のモチベーションが下がる」と言う。職員のモチベーションのために病院経営を行っているわけではない。病院は地域ニーズに応えてこそ病院としての役割を果たす。
こうしたなんちゃって急性期病院で、すでに起きていることは、病床利用率の減少と、それをくい止めるための苦肉の策としての「在院日数の延長」だ。病床利用率が下がり、在院日数を伸ばしている病院は、急性期一般病床2,3の病院が多い(図表3)。つまり病院の急性期コンセプトと現実の患者ニーズのミスマッチが生まれているのだ。これは病床利用率の減少と在院日数延長を見ればすぐわかる。こうした急性期病院の受け皿が地域包括医療病棟に他ならない。
図表3

このため、こうした病院は地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟へいち早く転換して、新たな地域医療構想で言うところの「高齢者救急・地域急性期機能」の病院になることが必要だ。
2 地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の比較
地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の要件を比べてみよう。ちなみに地域包括ケア病棟は地域包括ケア推進病棟協会によると2025年5月現在、2633病院、10万3千病床でトップ5都道府県は、福岡、東京、大阪、兵庫、北海道だ。
図表4は急性期一般病棟入院料1(旧7対1)、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟入院料1を比較してみた図表だ。看護配置はそれぞれ、7対1,10対1,13対1である。重症度、医療・看護必要度は地域包括医療病棟では急性期一般4と同じだ。ただ地域包括医療病棟ではB項目3点以上の患者割合が入っている。さらに在院日数は急性期一般病棟入院料1は16日以内、地域包括医療病棟は21日以内(90日まで算定可能)、地域包括ケア病棟は60日まで算定可能だ。
救急医療体制では、地域包括医療病棟は2次救急医療機関又は救急告示病院であることと、常時必要な検査、CT、MRI(連携可)等が要件となっている。救急実績としては緊急入院の直接入棟が3か月15%以上、地域包括ケア病棟では自宅等からの緊急患者受け入れが3か月9人以上となっている。また自院の一般病棟からの転棟割合は地域包括医療病棟では直近3か月で5%未満、地域包括ケア病棟では65%未満となっている。
また在宅復帰率は急性期一般病棟入院料1では80%以上、地域包括医療病棟では80%以上、地域包括ケア病棟では72.5%以上となっている。そしてリハビリは地域包括医療病棟では専従常勤のPT,OT,ST2名以上の配置、入院時比較でADL低下患者が直近1年で5%未満、地域包括ケア病棟では専従常勤PT,PT,ST1名以上の配置となっている(図表4)。
図表4

厚労省2024年診療報酬改定の概要(一部改変)2024年3月5日
地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の患者像を比較してみよう。地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の転院・転棟のポストアキュートの患者を除く直入院の患者を比較すると、入院患者数で多い疾患は、誤嚥性肺炎、尿路感染症、股関節・大腿近位骨折(手術なし)、心不全、胸腰椎の骨折(手術なし)で患者像はかなり類似していた。ただ地域包括医療病棟の方が、地域包括ケア病棟より要介護度が高い患者多い傾向にあった。また入院から退院までのADLの変化は地域包括医療病棟と急性期病棟では大きな違いはなかった。
3 地域包括医療病棟の現状
地域包括医療病棟の現状は前述のように、2025年5月時点で153病棟、8495床だ。まずこの病棟がどのような病棟から移行したのかを見ていこう。2025年6月の入院外来分科会の資料によると、急性期一般入院料1からの移行が4割を占めていた。これは2024年診療報酬改定で、急性期一般入院料1の要件が、看護必要度からB項目が削除されたほか、平均在院日数要件が「18日以下」から「16日以下」に短縮されるなど厳しい改定となったからだ。この要件を満たせない病棟が急性期一般入院料1から地域包括医療病棟に移行した。その次が急性期一般入院料4からが40%、急性期一般入院料2が10%、地域包括ケア病棟が10%と続いている(図表5)。このように地域包括医療病棟は急性期一般入院料1~6の受け皿として機能した。
図表5

厚労省 入院外来医療等の調査評価分科会 2025年6月13日
これは事前に厚労省がイメージした、地域包括医療病棟の移行前の病棟イメージに重なる。厚労省の予想が的中したわけだ(図表6)。
図表6

このように移行した病院に移行後の感想を聞くと、以下のようだ。「経営が安定してきていると感じる」、「実際の患者の状態により即した入院料等であると感じる」、「他の入院料の病棟と組み合わせることで、患者の状態に即した医療を提供できていると感じる」、「高齢者救急の受け入れが進んだと感じる」、「高齢者の早期在宅復帰に貢献していると感じる」など概ね肯定的だ。
一方、地域包括医療病棟の基準を満たすのに困難な要件を施設調査票(A票:急性期病棟用)で聞いたところ、「休日を含めすべての日にリハビリテーションを提供できる体制の整備」が55%と最も多かった。次いで「当該保険医療機関の一般病棟から転棟した者の割合が5%未満」が43%、「常勤のPT,OT,STの配置」が40%であった。
施設調査票(B票:回復期病棟用)では、届け出を検討した医療機関は30.5%であり、実際に検討中の医療機関は7.5%だ。B票で地域包括医療病棟の届け出に当たり基準を満たすことが困難な項目を聞いたところ、「重症度、医療・看護必要度の基準①を満たすこと」、「在宅復帰率8割以上、転棟患者5%未満」、「休日を含めて、リハビリテーションを提供できる体制」の順で回答しており、A票の施設とは異なる傾向が見られた。
施設調査票(A票:急性期病棟用)の対象施設のうち、地域包括医療病棟を届け出ていない医療機関における今後の届け出について聞いたところ、検討した医療機関は約15%であり、実際に届け出を検討中の医療機関は3.7%だった。一方、地域包括ケア病棟を届け出ている施設(B票)では、届け出を検討した医療機関は30.5%であり、実際に検討中の医療機関は7.5%だ。なおA票の対象施設の約8割、B票の施設の約6割は届け出を検討していないと答えた。
著者が勤務する衣笠病院(194床)の病床区分は急性期一般入院料4病床(50床)、地域包括ケア病棟(91床)、回復期リハビリ病棟(33床)、緩和ケア病棟(20床)である。2024年診療報酬改定時に、急性期一般入院料4の病床の地域包括医療病棟の取得を検討したが、やはり施設基準の高さと地域包括医療病棟の1日点数3050点が見合わないことから諦めた経緯がある。次の改定でより施設基準が緩和されれば検討を考えようと思う。
4 地域包括医療病棟と連携
地域包括医療病棟の病床ケアミクス状況を見てみよう。地域包括医療病棟を有する病院の病床ケアミクス状況を見ると以下のようだった。同一医療機関内に急性期一般入院料1~6のいずれかを有する医療機関が約3分の2であり、地域包括ケア病棟を有する医療機関が半数以上だった。また約3分の2が同一医療機関内にDPC対象病床を有していた(図表7)。
図表7

厚労省入院外来医療等の調査評価分科会 2025年6月13日
また地域包括医療病棟入院料を届けている施設のうち、同一または隣接敷地内に約半数が訪問看護ステーションを有していた。また居宅介護支援事業を有する施設も多く見られた。
地域包括医療病棟を有する医療機関においては、救急搬送受け入れ件数、救急機能や在宅等との連携機能に関連する加算の1床当たりの件数は、いずれも急性期一般入院料の病棟を持つ病院群の方が急性期病床を持たない病院群より多かった。また救急件数や介護施設等との連携の状況も急性期病床を有する病院群の方が、急性期病棟の無い病院群より加算件数が多かった(図表7)。
図表8

厚労省 入院外来医療等の調査評価分科会 2025年6月13日
さらに地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟を有する200床以上の病院において、在宅療養後方支援病院はそれ以外の病院と比べると、救急や在宅等の連携に係るいずれの加算等の算定件数は多かった。また地域包括医療病棟を有する200床未満の病院において、在宅療養支援病院である病院はそれ以外の病院と比較し、救急や在宅等との連携に係る加算等の算定件数が多かった(図表9)。
図表9

厚労省入院外来医療等の調査評価分科会 2025年6月13日
地域包括医療病棟入院料・地域包括ケア病棟入院料1・2を届け出ている施設のうち、入退院支援加算1を届け出ている施設における連携機関数は25~50施設が最も多かった。
地域包括医療病棟を届け出ている施設の半数以上で、10以上の介護保険施設の協力医療機関を引く受けていた。協力医療機関を引き受けている介護保険移設の類型としては特別養護老人ホーム、有用老人ホーム、認知症グループホーム、介護老人保健施設が多く、届け出居ている病棟の種類による差は認められなかった。地域包括医療病棟を有する医療機関の約1割において7つ以上の障碍者支援施設と連携していた。
協力対象施設への利用提供内容としては、診療の求めがあった場合の診療、入所者の急変時等の相談体制の確保、入院を要する入所者の原則受け入れ医体制をを9割以上の医療機関が提供していた。訪問診療の提供は3分の1程度、配置医師としての勤務は4分の1程度の医療機関が実施していた。
逆に地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟を届け出ている医療機関において、協力医療機関となることを断った件数が1件以上ある場合の理由は、「診療の求めがあった場合の診療が困難」「入院必要時の受け入れ困難」、「すでに複数の介護施設と連携しており、これ以上の拡充が困難」を上げた施設が多かった。
また地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟届け出施設における地域貢献活動も見たところ、「地域ケア会議への参加」。「地域医療構想調整会議への参加」を実施していた。地域包括医療病棟を有する医療機関では、特に地域医療構想調整会議へ参加している割合が多かった。
著者が勤務する衣笠病院も地域包括ケア病棟91床を有している。以前は地域包括ケア病棟ではポストアキュートの患者を受け入れていたが、最近では介護保険施設の急変患者や高齢の救急患者の受け入れに軸足を移している。このため地域の16の介護保険施設と連携している。介護保険施設との連携で大事なことは、入所者の情報を事前に把握することだ。介護施設に定期的に訪問し、入所者の状態も把握する。これによって2024年診療報酬改定で新設された「協力対象施設入所者入院加算」の算定も徐々に増えている。
また夜間の人員の手薄な際の、介護施設からの急変患者の対応は大変だ。このため介護施設にはできるだけ日中の9~15時に受診してもらうように連携施設に要望している。また夜間の受け入れも充実させるため、経験豊かな50歳後半から60歳前半のベテラン医師ができるだけ当直を担当して迅速な受け入れを計っている。こうした結果、衣笠病院の地域包括ケア病棟の入院単価は2021年8月に3万6557円が、2024年8月には3万8473円にまでアップした。
以上、2024年診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟を振り返ってみた。その病棟数や病床数は徐々にではあるが増えつつある。ただ地域包括医療病棟の目指す方向性は正しいようだ。具体的には高齢者救急を受け入れ、急性期一般入院料1~6からの病床転換の受け皿となっている。ただ、地域包括医療病棟を有する病院のケアミックス状況を見ると、急性期病床を有する群と急性期病床を有さない群すなわち地域包括ケア病棟を有する群では、急性期病床を有する群に救急や在宅に係る加算が多かった。また在宅療養支援病院の取得の有無によっても異なった。在宅療養支援病院を有する病院群に救急や在宅に係る加算が多かった。
こうした現状から次の2026年改定では、地域包括医療病棟のさらなる普及を目指して、施設要件の見直しや、病床ケアミックスによる違いを考慮した加算の在り方の見直しが検討されるだろう。今後の入院外来分科会の議論に着目したい。
参考文献
地域包括ケア推進病棟協会資料より 2025年5月16日
厚労省入院外来医療等の調査評価分科会 2025年6月13日
厚労省 入院外来医療分科会 2023年6月8日
厚労省2024年診療報酬改定の概要 2024年3月5日