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後発品産業構造見直し


図表1 健康保険組合連合会「後発医薬品の普及状況」2025年6月19日 

 後発品使用割合が90%を超えた。しかし2000年末から始まった後発品企業の品質不祥事に端を発する、後発品の供給不安は相変わらず継続している。いつになれば解消するのか?こうした中、国は後発品企業の多品種少量生産の製造工程の効率化と、産業構造の見直しを求めている。これに対する後発品に係る企業の取り組みについて見ていこう。

1 後発品90%時代の到来

 大手の企業などからなる健保組合の後発品使用割合が2025年1月に92.4%に達した。後発品の供給が出荷調整や欠品などで不安定の中、目を疑うような使用割合のアップだ。それも2024年9月から10月にかけて3.5ポイントも急に伸ばしている(図表1)。

 この急激なアップの背景は2024年10月から、後発品のある先発品に対して選定療養による自己負担増が始まったからだ。先発品から後発品への置き換えを促進するため、後発品があるにもかかわらずあえて先発品を使いたいという患者に対しては、病院の差額ベッド代と同じように選定療養という特別料金を徴収するようになった。

 特別料金は先発品の薬価と後発品の薬価の差分の4分の1を自己負担に上乗せしたものだ。この対象となる医薬品は、「発売より10年が経過して特許が切れた先発品」のうち、「後発品発売より5年経過したもの、あるいは後発品への置き換えが5割を超えたもの」で、約1000種類の薬剤が対象となった。

 この上乗せ分が効いた。とくに先発品と後発品の薬価差が大きい医薬品ほど上乗せ分が増える。たとえば皮膚保湿剤であるヒルドイド軟膏400㎎を先発品で処方すると、選定療養のおかげで後発品より1400円も高くなる。

 このため2024年10月になったとたん、外来でそれまで「絶対に後発品はいやだ」と言っていた患者さん(中年の女性が多い)が、「先発品が高くなったので、後発品でもがまんする」と言い出した。おかげで全国的に後発品の使用割合がアップした。都道府県で最も高い後発品使用割合の沖縄は95.1%となり、最低の徳島でも90.4%になった。このためすべての都道府県で90%超を達成した。国の後発品普及目標は2029年までにすべての都道府県で80%超としていた。この目標は選定療養のおかげで、4年も前倒しであっさりと達成された。

 この選定療養は18歳以下の小児医療費の無料化にも影響を与えた。無料の小児でも先発品を選ぶと選定療養費が上乗せされる。実はこの小児無料のおかげで、これまで小児の後発品の普及割合が低かった。子供たちの母親が「どうせ無料なら先発品を使おう」と思ったからだ。

 著者はかつて東京都港区の院内調剤を行う大学病院にいた。その大学病院で後発品への置き換えを行ったことがある。その時、真っ先にクレームが出たのが小児の患者さんの母親からだ。「なんで18歳以下無料なのに後発品を出すのか?」と言う。これに根を上げたが小児科の医者だ。「母親への説明が大変だから先発品に戻してくれ」と言う。

 しかし今回の選定療養の導入で、小児でも先発品を使うと選定療養費が上乗せになることになる。おかげで小児にも後発品が普及するきっかけとなるだろう。実は沖縄ではもともと後発品の普及率が高かった。その理由の一つは、沖縄が財政力の低さから小児医療費の無料化が6歳以下の小児に限定されていたことが挙げらる。

 さて国際的に見ると、これまで米国が後発品使用割合90%で世界第一位だった。これからは日本が米国を追い抜いて世界第一位の時代になるだろう。

2 後発品の供給不足の現状

 2020年12月の小林化工の品質不祥事から始まった医療用医薬品の限定出荷・供給停止は今年で5年目を迎える。最近の限定出荷・供給停止の推移をみると、順調にその割合が低下していた。しかし2024年10月の選定療養による後発品の需要が拡大したために、限定出荷・供給停止品目数は2024年9月の3066から2025年2月3351まで増加した。しかしこれも2025年3月に急速に改善して2360にまで低下し、その後も微減している。2025年3月に限定出荷や供給停止が減少したのは、後発品各社の増産による供給増と、3月になっての冬季の感冒などの季節性需要が落ち着いたからだろう。

 しかし、このように供給停止割合は減っているといっても、2025年5月現在でもその割合は4.4%、限定出荷割合は9.8%を示している(図表2)。

 一体いつになったら供給不安は解決するのだろう。

図表2 厚労省 医療用医薬品限定出荷・供給停止の推移(2025年5月)

3 安定供給への国の取り組み

(1)改正薬機法と安定供給マネジメントシステム

 2020年12月の小林化工の品質不祥事から端を発した供給不安がどうしてここまで深刻化し、その復旧が遅れているのだろう?その原因の一つは、いままで医療用医薬品の需給状況を全国的に把握する仕組みがなかったことが挙げられる。また医療用医薬品の需要に対して必要な供給量を適宜把握し供給を調整するシステムもなかったことが挙げられる。このため供給不足に対して戦略的な手立てを打つことができずに、その場限りの対応に追われていた。このことが今日の混乱を招いたとの反省がある。

 こうした反省に基づいて製造販売業者の生産計画や卸売り販売事業者の在庫量を把握し、需要状況と照らして供給不安を早期に発見し未然に防止すること、供給不安時には適正量の増産や限定出荷解除につなげる市場介入アクションが必要だ。そしてそれを確実なものとするための法整備が必要なことが明らかになってきた。

 こうした一連の仕組みを「安定供給確保マネジメントシステム」と呼ぶ。安定供給確保マネジメントシステムのポイントは以下だ。①製薬企業における安定供給確保に向けた体制整備、②需要動向や供給動向の把握から供給不安を迅速な把握するためのデータベースの構築とチェック体制、③供給不安に対して企業、卸、医療機関等への協力要請を行うなどのPDCAサイクルの回転だ。こうした安定供給確保のためのマネジメントシステムを2025年5月の改正薬機法で法令化した。

 そして薬機法改正では、製造販売業者において、こうした安定供給を管理するための責任者として「安定供給体制管理責任者」を設置することとした。「安定供給体制管理責任者」は、安定供給体制確保のための手順書の遵守のため体制整備や取組など、薬機法に位置付けられた安定供給確保のための取組を行うことを想定している。

(2)基金の設立

 また後発品の安定供給については、190社にも及ぶ後発品企業を1品目5社程度への再編統合し、1社あたりの製造キャパシテイを拡大し、不足時の増産余力を持つまでに生産能力を増大させる必要がある。こうした後発医薬品企業の再編については、2024年5月に公表された「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」(座長著者)の報告書に詳しい。この中で以下のような業界再編の可能性について言及している。

 「大手企業型の後発医薬品企業を買収し、品目統合や生産・品質管理を集約する等の効率化を実現してモデル」、「後発医薬品企業が事業の一部または全部について多の企業に譲渡するモデル」、「ファンドが介在して複数の後発医薬品企業や事業の買収を行い、統合していくモデル」、「複数の後発医薬品企業が、新法人を立ち上げて屋号を統一化する形当により、品目・機能を集約・共有していくコンソーシアム・モデル」、「長期収載品も含め、他企業の向上に製造委託を進める中で品目の集約化から事業再編を進めていくモデル」、「保管・配送の集約、需要の集約、共同購買等により、事業再編を進めていくモデル」。

 またこれまでの後発医薬品企業の「少量多品目生産」を品目統合により生産効率のアップも同時に図る必要がある。こうした品目統合や業界再編を通じた生産性向上へ向け、設備投資や再編事業の経費を支援するため「後発医薬品製造基盤整備基金」を創設することになった(図表3)。基金は国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法を改正し、同研究所に創設することとした。毎年70億円規模で5年間を予定している。

図表3

 厚労省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 2024年4月19日

4 業界団体の取り組み

 以上のような国の取り組みのもと、後発品製造に係る企業等よりなる業界団体も取り組みを加速させている。以下、日本ジェネリック製薬協と日薬連の取り組みをみていこう。

(1)日本ジェネリック製薬協の取り組み

 日本ジェネリック製薬協会(以下、GE薬協)は、ジェネリック医薬品の専業メーカー30社を会員とする業界団体だ。GE薬協では、2025年2月より「GE薬協産業構造あり方研究会」をGE薬協会員企業から20名のメンバーと外部有識者も加わり、発足させた。そして2025年6月に中間とりまとめを公表した。著者もこの研究会の一員として参加した。

 研究会ではいつまでに現状の供給不安が解消できるかを予測した。予測は後発品企業の供給実績数量の見込みと、潜在的需要量の見込みを比較することで行った。潜在的需要量とは長期収載品と後発品需要の合計だ。潜在需要は人口の高齢化で増加していく。また先発品の特許切れ品の増加で増えていく。後発品需要も後発品の使用率の上昇、先発品の特許切れに伴い増えていく。

 2023年度のジェネリック供給実績数量は928億錠であった。この数量は5年前の2019年より132億錠増えている。またジェネリック医薬品の潜在的需要予測は2029年度には1092億錠と見込まれた。これに対して、GE薬協の各企業のこれからの設備投資や増産計画アンケートの結果、以下が分かった。後発品企業からは2025年度から5年間で約2700億円の設備投資が行われ純増生産量として140億錠の追加供給を目指すと回答があった。これを2024年度の実績錠数と合わせると164億錠の生産量増が予想された。

 この結果、ジェネリック医薬品の使用割合を90%と見込んだとき、増産計画により、2029年で概ね潜在的需要と増産による供給は均衡すると考えられた。すなわち現状の供給不安は5年後の2029年には増産により現状の供給不安はほぼ解消すると考えらる(図表4)。

図表4

  日本ジェネリック製薬協産業構造あり方検討会中間まとめ(2025年6月)

 また研究会では品目の「片寄せ」についても検討した。片寄せとは業界内でも市場シェアが3%以下の品目について、企業間で品目統合(集約)を行い、効率的な生産を目指すことである。図表5で見るように、カルシウム拮抗剤で市場シェアが3%以下の品目に複数の企業が群がっているのが分かる。これはあまりに非効率だ。この品目の生産を1~2社に片寄せすることにより、1社あたりの市場シェア率を増やすことができる。こうしたシェア率の向上は生産現場の効率化だけでなく、原材料や資材の調達コストの削減も期待される。

図表5

日本ジェネリック製薬協産業構造あり方検討会中間まとめ(2025年6月)

(2)日薬連の取り組み

 前述した「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」(座長著者)の報告書では、業界再編の可能性の一つとして、以下のコンソーシアム方式を検討した。日薬連でもこのコンソーシアム方式への期待を以下のように述べている。

 「後発品企業各社の強みを生かして弱みを補うことを目的としたコンソーシアムの形成を推進することによって、後発品の開発から製造、品質管理、供給に至るバリューチェーン全体が強靭化され、結果として品目(屋号)の統合、整理が進み、品質管理機能の向上、少量多品種生産の実態の改善や新たな生産余力の創出が期待できる」。

 しかし同時にコンソーシアムの形成を推進するには以下の条件が必要と述べている。「独禁法、薬機法上の必要な措置(法改正あるいは柔軟な運用)がなされることが前提となる。また、採算性が著しく低い品目、あるいは不採算品目におけるコンソーシアムの形成に際しては一定の(国からの)財政的措置がなされることを期待したい」。

図表6

 こうしたコンソーシアム方式については、2025年6月にMeiji Seikaファルマとダイトは、後発品企業間による「新コンソーシアム構想」の実現に向けた協議を開始したと発表した。まずは、両社で品目を選定し、最適な製造所に集約を進める。両社の他にコンソーシアム構想に参画する企業とも連携し、品目統合(屋号の統一)や販売品目の集約を視野に議論を深めていきたいとのことだ。

 MeijjSeikaファルマの小林大吉郎代表取締役社長はメデイアの取材に対し、同社の描くコンソーシアム構想について、「基本概念は、各社の既存アセットを有効活用して生産拠点を整理することで、『少品種大量生産』へ移行することができる。さらに受け皿として、『機能統合法人』を立ちあげ、そこに営業・信頼性保証機能をアセットとして切り出し、品目統合(屋号の統一)をし、生産効率を上げるという考えだ」と抱負を語っている。

 以上、後発品の供給不安の現状と、国の取り組み、企業の取り組みを振り返った。国は後発品企業の産業構造の再編と安定供給確保のための5年程度の集中改革期間を設定している。この5年間に品目集約を計り、安定供給とあるべき後発品企業の産業構造の実現を期待したい。

参考文献

健康保険組合連合会「後発医薬品の普及状況」2025年6月19日

厚労省 医療用医薬品限定出荷・供給停止の推移(2025年5月)

厚労省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 2024年4月19日

日本ジェネリック製薬協 「産業構造あり方検討会中間まとめ」(2025年6月)