
図表1 中医協総会 2025年10月29日
2026年診療報酬改定における身体的拘束について見ていこう。2024年改定で導入された入院料通則の40点減算が、体制に関する基準と実施に関する基準の2段階に分かれ、さらに新たな身体的拘束最小化推進体制加算40点が加わった。
1 2024年診療報酬改定と身体的拘束
身体的拘束の診療報酬上の定義は、令和6年3月5日厚生労働省保険局医療課長通知によれば以下である。身体的拘束とは抑制帯等、患者の身体または衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限である。なお広義の「身体拘束」には以上の物理的拘束とともに鎮静剤等の薬物による拘束をも含めて使われることが多い。このため「身体的拘束」と「身体拘束」は使い分けがされているので注意が必要だ。
2024年度診療報酬改定では、身体的拘束は「入院料通則」(各種入院料を算定するにあたっての留意事項・基準)で、次のような見直しが行われた。すべての病棟について、身体拘束最小化チームを設け、身体的拘束等の最小化に取り組むとともに、緊急やむを得ない場合以外の「身体的拘束」を禁止する。これらに違反した場合、入院点数の1日につき40点の減算が行われる。しかしこの措置は経過措置期間が1年間設けられ、2025年6月1日から本格実施に移された。
身体的拘束最小化の基準としては以下が挙げられるた。
- 患者または他の患者等の生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束を行ってはならないこと。
- 身体的拘束を行う場合には、その態様及び時間、患者の心身の状況並びに緊急止むを得ない理由を記録しなければならない。
- 身体的拘束は、抑制帯等、患者の身体または衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行為の制限のことである。
- 身体的拘束最小化対策に関わる専任の医師及び専任の看護師から構成される身体的拘束最小化チームが設置されていること
- 身体的拘束最小化チームでは、身体的拘束の実施状況を把握し、管理者を含む職員に定期的に周知徹底すること、当該指針の見直しを行うこと。また当該指針には、鎮静を目的とした薬物の適正使用や③に規定する身体的拘束以外の患者の行動を制限する行為を最小化に関わる内容を盛り込むこと。
- 精神科病院における身体的拘束の取り扱いについては、精神保健及び精神障碍者福祉に関する法律の規定による。
2 身体的拘束の実施状況
厚労省の2024年の実態調査によれば、身体的拘束を実施している患者の割合はいずれの入院料においても0~10%をピークとして分布している。ICUなどの治療室、回復期リハビリテーション病棟、療養病棟では、ピークは右にあり左になだらかな分布している。
中でも30%以上の患者に身体的拘束を実施する病棟の割合が多いのは治療室で、その割合は28.9%、地域包括ケア病棟は13.4%、回復期リハビリテーション病棟は19%、療養病棟は23.8%である。また常時、手指・四肢・体幹抑制をしているのは地域包括ケア病棟で41%、回復期リハビリテーション病棟で43.1%、療養病棟では70.5%にも上っていた(図表1)。
また身体的拘束の実施日数を見ると、調査基準日から過去7日間における身体的拘束が7日間である割合は慢性期の病棟ほど多く、療養病棟では89.8%で最も高かった。さらに身体的拘束の実施理由を尋ねたところ、身体的拘束の実施理由は「ライン・チューブ類の自己抜去」または「転倒転落防止」が多かった。治療室、地域包括医療病棟、療養病棟では「ライン・チューブ類の自己抜去」が多く、急性期一般入院料、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期理場ビリテーション病棟では「転倒・転落防止」が実施理由として多かった。
また、患者の状態別で身体的拘束の実施状況を見ると、「認知症あり」、「BPSDあり」、「せん妄あり」の患者において身体的拘束の実施率が高かった。また要支援よりも要介護のほうが身体的拘束の実施率が高かった。
3 身体的拘束の最小化を目指して
身体的拘束に対する対策は、介護分野のほうが医療分野より一歩進んでいる。介護分野では身体的拘束の最小化においては以下の4つの方針と3つの原則を守ることが徹底している。
(1)身体的拘束最小化の4つの方針
身体的拘束廃止、防止へむけて「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き(2024年)では、以下の4つの方針を提示している。
①組織一丸となった取り組みの重要性
組織のトップが決意し、施設や事業所が一丸となって取り組むことが大事である。一部の職員だけが身体的拘束防止に取り組んでいても、組織のバックアップがなければ完遂することはできない。
②本人・家族・施設や事業所等での共通意識の醸成
身体的拘束は個人それぞれの意識の問題である。その弊害をしっかりと認識し、どうすれば廃止できるかを関係者みんなで議論し、共通の認識をもつことが重要である。
③身体的拘束を必要としないケアの実現
利用者本人についてもう一度、心身状態を正確にアセスメントし、身体的拘束を必要としないケアを作り出すことが重要である。
④常に代替的な方法を考えることの重要性
身体的拘束をせざるを得ない状態でも、本当に代替する方法がないのかを常に検討することが求められる。「仕方がない」、「どうしようもない」と見なされて拘束されている人についても、なぜ拘束されているのかを考え、身体拘束に代わる方法を探求することが重要である。
(2)身体的拘束を必要としないための3つの原則
介護現場では、「身体的拘束を必要としないケア」を実現するための3つの原則を示している。
第一に、身体的拘束が必要とされる要因を探り、その改善を図ること。拘束が行われる背景には、転倒やチューブ抜去などの危険行動、自傷行為、姿勢保持困難などがあるが、これらは多くの場合、心理的要因や環境要因に起因する。したがって、本人の理解を尊重し、原因を除去する工夫を重ねることで拘束の必要性は減少する。
第二に、生活リズムを整えるための5つの基本的ケア(①起きる、②食べる、③排せつする、④清潔にする、⑤活動する)を徹底する。これらを個々の状態に合わせて丁寧に行い、見守りや触れ合いを通じて不安や孤独を軽減することが重要である。医療専門職と連携し、健康状態を整えながら最適なケアを提供する。
第三に、身体的拘束の廃止・防止を「より良いケア」実現の契機とすること。拘束をなくす取り組みは、施設や事業所におけるケアの質向上や生活環境の改善につながる。身体的拘束廃止は目的ではなく、過程を通じて人間尊重のケアを深化させることが期待される。全体として、拘束を要する要因の理解と基本的ケアの徹底を通じ、本人の尊厳を守りながら安全で豊かな生活を支える理念が示されている。
4 身体的拘束最小化事例
以下、身体的拘束最小化に成功した事例を見ていこう。
事例1
神奈川県横浜市にある医療法人社団元気会横浜病院は、高齢者医療と認知症ケアを中心に発展してきた療養型医療施設だ。病床数は326床で医療療養病棟220床、認知症治療病棟50床、介護医療院56床を有し、内科・精神科・リハビリテーション科を標榜している。
同病院では、職員の意識改革と環境・物品の工夫により身体的拘束ゼロを達成した。行動観察と評価を通じて患者の心理や行動の理由を把握し、危険時以外の時間の過ごし方や環境整備を計画。説明・同意と情報共有を徹底し、改善を継続した。モジュラー型車椅子や超低床ベッドの導入により、患者が安全に自由に動ける環境を整備。職員は転倒やチューブ抜去への対応を見直し、歩行や自立を尊重するケアを実践した。その結果、入院1か月以内の拘束率は減少し、最終的に全例解除を達成した。
事例2
埼玉県ふじみ野市にある富家会富家病院は、281床の療養病棟、回復期病棟、障害者病棟、地域包括ケア病棟を有している。同病院が慢性期医療処置を徹底的に見直すことで身体的拘束ゼロを達成した取り組みを行った。同病院は「抑制廃止宣言」を掲げ、人間の尊厳を尊重し思いやりのあるケアを実践。末梢点滴、CVカテーテル、PEG、尿道カテーテルなどの処置を対象に「本当に必要か」を再検討し、短時間投与や定時導尿、バルーン不使用など拘束を伴わない方法へ転換した。職員間で情報共有を徹底し、患者の安全と自立を両立させる環境を整備した結果、2023年4月時点で抑制患者数は0名、抑制回避率100%を達成。慢性期医療の質向上と地域への理念普及を目指した実践例である。
事例3
神奈川県横浜市にある横浜市立市民病院は650床の急性期拠点病院である。同病院では管理職を含む多職種チームによる身体的拘束最小化の院内周知を進め、身体的拘束の減少を実現した取り組みを示している。臨床倫理委員会の下に「身体的拘束最小化チーム」を設置し、病棟ごとの方針策定、マニュアルや安全管理アルゴリズムの作成、職員・家族への説明を体系化。病院長メッセージや院内ポータルでの情報共有を通じて全職員の意識を統一した。さらにセーフティマネージャ会で多職種が意見交換し、看護師の拘束解除時の意識改革や医師・リハビリ・MSWの協働を促進。結果として、HCUでは見守り体制の改善により拘束率が大幅に低下し、一般病棟でも減少傾向を示した。倫理的視点とチーム連携による拘束最小化の成功例である。
事例4
福岡県宗像市にある宗像水交会総合病院は300床で一般154床、回復期リハビリテーション病棟49床、地域包括ケア病棟39床、地域包括医療病棟53床、ICU6床のケアミクス型病院だ。同病院が「身体的拘束最小化」を理念として組織的に意識改革を進め、拘束率を大幅に減少させた取り組みを示している。看護管理者が拘束最小化の目的を正しく理解し、スタッフへ共有したうえで、拘束を必要としないケア方法を検討。転倒防止やルート・ドレーン自己抜去予防なども拘束以外の代替策を多職種で協議し、人権擁護の視点から看護部全体の意識を変革した。取り組みの成果を共有することで看護師の自信と動機づけが高まり、患者の尊厳を重視するケアが定着。結果として、2024年9月以降は身体的拘束率が2%以下に改善し、理念の共有と実践が組織全体の行動変容を促した成功例となった。
4 2026年診療報酬改定と身体的拘束
(1)入院基本料等の通則見直し
2024年度改定で新設された身体的拘束最小化の基準を「体制に係る基準」と位置づけ、2026年度改定では新たに「実績等に係る基準」が追加された。体制基準では拘束理由の記録、最小化チーム設置、研修実施などが義務化され、未達の場合は入院料40点減算する。
実績基準では拘束実施割合15%以下、または原因廃止に向けた継続的取組(委員会開催、病棟での代替策検討、年2回以上の研修)を満たすことが求められる。実績基準のみ未達の場合は20点減算とされ、段階的評価が導入された。これにより、拘束削減の実効性を高め、チームによる継続的改善を促す仕組みが整備された。精神病床では関連法に基づく取扱いが認められる(図表2)
図表2

中医協総会 2026年2月28日
2026年度診療報酬改定では、身体的拘束の実施割合の算出方法が明確化された。計算式は「直近3か月間の入院料算定日数のうち身体的拘束を実施した日数 ÷ 同期間の入院料算定日数」で求める。なお、センサークリップのみの使用、処置・移動時に患者の同意を得て短時間安全確保のために固定具を使用する場合、または訓練中に安全確保目的でベルトを用いる場合などは拘束日数に含めない。ただし、患者の活動を制限する形で固定する場合は拘束として扱う。また、救命救急や集中治療室、精神病床など特定の入院料算定日や法に基づく拘束は除外される。これにより、拘束削減の実態を定量的に把握し、改善を促す仕組みが整備された(図表3)
図表3

中医協答申 20262月28日
(2)身体的拘束最小化推進体制加算の新設
2026年診療報酬改定では、包括期・慢性期入院医療の見直しの中で、身体的拘束の最小化を組織的に行う際の評価として導入がされた。理由は前述したように身体的拘束の実態が、その患者割合や実施日数において、地域包括ケア病棟や療養病床において際立っていたからだ。このため身体的拘束の新たな評価である「身体的拘束最小化推進体制加算(1日につき)40点」が導入された。対象病棟は療養病棟、地域包括ケア病棟等である。
40点と言う高額な点数が付いた。入院基本料のおよそ2%にも達する点数だ。その施設基準は以下だ。
病院長や看護部長が身体的拘束の最小化に向けて病院全体で取り組むことを表明し、職員に周知することだ。院内で身体的拘束最小化に関する講習が年2回以上実施されていること、身体的拘束に使用する用具が病棟外の1か所で管理されていること、身体的拘束を検討する委員会が3か月に1回以上実施していること、身体的拘束の最小化チームによる巡回が定期的に行われていること、身体的拘束を行わずにケアするための用具の導入について、職員が提案でき積極的な導入が図られていること、患者及び家族の意向を十分に聴取していること。加算を算定できる入院料を算定した日数に占める身体的拘束を実施した日数の割合が3%以下(届出から1年間は5%以下)であること。こうした身体的拘束の実施状況(実施割合)について院内掲示及びウエブサイトに掲載していること(図表4)。
図表4

中医協答申 2026年2月28日
以上、2026年診療報酬における身体的拘束について振り返ってみた。特筆すべきは地域包括ケア病棟、療養病棟で身体的拘束最小化推進体制加算40点が導入されたこと、また入院通則では身体的拘束実施率15%以下が導入されたことだ。今回の身体的拘束に関わる経過措置は前回改定と同様1年間の経過措置が設けられ、その実施は2027年6月1日より本格実施だ。1年間を使って、じっくりと身体的拘束の体制整備を行いたい。
参考文献
厚労省中医協総会 2025年10月29日
厚労省中医協答申 2026年2月28日
