トップ

>

レポート

>

セルフケア・セルフメデイケーション有識者検討会

レポートの投稿

セルフケア・セルフメデイケーション有識者検討会


 第1回の「セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」(以下、有識者検討会)が1月に開かれた。セルフメディケーション税制やスイッチOTCの普及推進環境を整備するための会議で、4年ぶりに再開された。著者も委員として参加した。今回はこの有識者検討会の設置の経緯と目的について見ていこう。

スイッチOTCとは、長らく医療用医薬品として用いられた成分が、OTC医薬品に転換(スイッチ)された医薬品のことである。ちなみにOTC医薬品とは一般用医薬品のことだ。

一般用医薬品(OTC医薬品)が制度的にスタートしたのは1961年だ。この年、薬事法によって、医薬品は承認申請上の分類として「医療用医薬品」と「一般用医薬品」に大別された。この年から一般用医薬品の歴史が始まる。この一般用医薬品のその後の歩みは内閣府の規制改革会議と厚労省の間の攻防の歴史でもある。

まず1995年の村山内閣のとき「コンビニで薬を!」を合言葉に消費者の利便性向上を目指す提案が、政府の行政改革委員会のテーマに取り上げられる。「薬局以外の一般小売店による医薬品販売」である。

しかし当時の厚生省はこれについては「医薬品の販売は薬剤師が常駐して服薬指導をする薬局でしか認められない」という見解をかたくなに押し通した。

これが2003年の小泉内閣時に「安全上特に問題がない医薬品のすべてについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする」ことで突破される。これがもとに2006年の薬事法の大改正が行われる。一般用医薬品を以下のリスクの程度に応じて、高リスクの方から低リスクに向けて、第1類、2類、3類医薬品という分類に分けた。そしてこれらを一般小売店での販売も認めることになる。そして裁判闘争の結果、ネット販売も可となった。

ただ2013年には、医療用医薬品から一般用医薬品へ切り替わった直後のスイッチOTCについては、「要指導医薬品」という新たなカテゴリーを設置し、3年を上限とする期間は薬剤師の対面による販売とし、ネット販売を認めないこととした。なおスイッチOTCは1983年から承認が始まり、これまでに解熱鎮痛剤のイブプロフェン、消炎剤のインドメタシン、そのほか胃腸薬のファモチジン、鎮痛剤のカルボシステイン、水虫薬、花粉症薬のフェキソフェナジンなど幅広い種類にわたっている。2024年1月現在でのスイッチOTC医薬品は93成分を数えている。

このスイッチOTCの承認を巡っても、規制改革推進会議と厚労省の攻防が繰り返されている。まず2014年の第2次安倍内閣の時の日本再興戦略では、スイッチOTCの承認スキームの見直しが提案される。日本再興戦略ではスイッチOTC促進を目指すために、以下のように新たな承認スキームを提案した。

「海外のスイッチOTCの承認状況及び消費者・学会等からの要望等を定期的に把握し、消費者当の多様な主体からの意見がスイッチ化の意思決定に反映される仕組みを構築することとしてはどうか?」。この結果、「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(「評価検討会議」)を新設しその推進を計ろうとした。

しかし評価検討会議が発足すると、事態はまるで反対の方向に進みだす。理由は医師会系委員の抵抗だ。2013年9月の日本医師会の当時の中川俊男副会長の以下の発言にもそれが表れている。「日医としては、基本的には生活習慣病治療薬がOTC化されるのはなじまないと考えており、新たなセルフメデイケーションにおける一般用医薬品の在り方の検討の場(評価検討会議)では、そうした考え方で臨みたい」。このため評価検討会議がスタートして以降、スイッチOTCの承認件数が激減する。

こうした評価検討会議の運営の在り方について、2020年2月に規制改革推進会議の医療介護ワーキンググループがかみつく。当時著者もその委員の一人だった。医療・介護ワーキンググループとしては以下のような具体的な提案を行った。「評価検討会議の役割はスイッチOTC化を行う上での課題・論点の整理を行うことであってスイッチOTC化の可否を決定するものではないことを明確化すべき」、「セルフメディケーションの促進策を検討するための、厚労省の部局横断的な体制を構築すべき」、「スイッチOTCを促進するための目標を設定し、PDCA管理をすべき」。

 こうしたワーキンググループの提案に対して、2020年11月に開催された医療・介護ワーキンググループにおいて厚労省は、以下のように回答してワーキンググループの提案を概ね受け入れた。「評価検討会議では、スイッチOTC化を行う上での課題、論点を整理して、薬事・食品衛生審議会に意見として提示し、可否の決定は行わないこととする」、「部局横断的な組織を作り、スイッチOTCの普及促進をはかる目標値を検討する」。

 この結果、2021年4月より医政局産情課に「セルフケア・セルフメデイケーション推進室」(以下、セルメ推進室)が訓令で設置される。

 前置きが長すぎた。今回の有識者検討会はこのような経緯で設置し、セルメ推進室が所轄することになった。

 有識者検討会で検討課題は以下である。ひとつは4年前2021年に設置された、「セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」の後継会議と言う意味合いだ。4年前のこの検討会では主にセルフメディケーション税制について検討している。セルフメデイケーション税制とはスイッチOTC医薬品を購入した場合、合計金額が年間8.8万円を超える場合には、その分を所得金額から控除する仕組みだ。しかし申請方法の煩雑さから申請した人は4.9万人しかいない。このセルフメデイケーション税制が今回の有識者検討会の検討課題だ。そしてセルフケア・セルフメデイケーションの推進と、そのための環境整備に係る事項が次なる課題だ。そして今回の有識者検討会ではこの夏までに税制の在り方やセルフケア・セルフメデイケーションの推進の工程表を取りまとめることだ。

さて第1回の検討会に委員として出席した著者は以下の3点について要望を行った。

ひとつは、医療用医薬品とOTC医薬品を統合した電子お薬手帳の必要性だ。医療用医薬品と同じ成分のスイッチOTCが増えてきた。現在93成分、これからますます増えるだろう。このため問題になるのが医療用医薬品とOTC医薬品の間の重複服用だ。バイアスピリン、ロキソプロフェンナトリウムなどの重複服用が実際に問題になっている。こうした重複服用の検出には現在の医療用医薬品のお薬手帳にOTC医薬品を統合したお薬手帳の電子版を作ることだ。これで重複服用の検出や警告ができる。またこの統合型の電子お薬手帳からスイッチOTCのセルフメデイケーション税制の申告もできるようになれば一層便利だ。

二つ目は生活習慣病薬のスイッチOTC化だ。生活習慣病薬のスイッチOTC化の要件は以下の2つだ。長期リフィル処方による生活習慣病の薬剤師による管理の安全性確認と、スイッチ後の要指導医薬品への留め置きだ。

今、著者は横須賀市にある衣笠病院の外来で、アトルバスタチン単剤の90日間3回リフィル処方と、薬局における自己採血によるコレステロール値チェックを組み合わせた臨床試験を行っている。目的は生活習慣病薬の長期リフィルの安全性の確認だ。90日間3回リフィルだと270日間を薬局の薬剤師の手で管理することになる。いまのところ薬剤師に任せても安全性に問題はない。こうしたことからアトルバスタチンのスイッチOTC化も可能と思う。しかし、課題はOTCはスイッチ直後3年は要指導医薬品として対面での薬剤師の介入が入る。しかしそれを過ぎるとネット販売も可能となる一般用医薬品となる。このため生活習慣病薬では3年を超えても要指導医薬に留めおく措置が必要だ。これが可能になれば、アトルバスタチンのスイッチOTC化も問題なく行えるだろう。

3つ目は保険者による加入者へのスイッチOTC切り替え通知だ。保険者によるOTC普及のための切り替え通知や切り替えたときのヘルスケアポイントも一部の保険者では実施している。この効果検証を行ってはどうか?今年も花粉症の時期が近付いている。花粉症の時期になると初診外来は花粉症の新患でごった返す。次から次へと花粉症の患者が訪れて外来は満杯になる。

 こうした花粉症の季節に備えて、保険者からOTCへの切り替え通知をお願いしたい。医師としても花粉症薬のOTCへの切り替えに患者説明などで協力したい。花粉症薬のOTC化は保険者の腕の見せ所だろう。多忙な勤務医の外来負担の軽減による働き方改革には保険者による花粉症のスイッチOTC化が欠かせない。