
図表1 中医協 2012年4月25日
一般社団法人 日本医療機器産業連合会(医機連)によると、2023年度の国内の医療機器の出荷ベースの国内市場規模は約4.5兆円といわれる。医療機器には画像診断装置(CT/MRI)、内視鏡、検体検査機器、治療用機器、カテーテル類、鋼製小物、衛生材料などが含まれる。
このうち医療材料は医療機器市場の中の衛生材料・衛生用品、処置用器具、縫合材料、カテーテル類などに該当する。これらの市場規模は、後述する特定保険医療材料(特材)が約1兆円、非特材がおよそ6000~8000億円規模と考えられる。
今回は2026年診療報酬改定と医療材料について見ていこう。
1 医療材料の評価
本題に入る前にまず医療材料の診療報酬上の評価の経緯と仕組みをおさらいしておこう。それは1993年の中医協建議から始まる。
(1)特定保険医療材料等に関する中医協建議
現在のような医療材料の診療報酬上の評価が始まるのは1993年の「特定保険医療材料等に関する中医協建議書」からである。それまでは医療材料の大半は医療機関の購入価格で保険償還がなされていた。これでは医療機関側にコスト意識が生じにくいこと、医療機関ごとに償還価格が異なること、また市場価格の形成に競争原理が働きにくく、適正な価格形成が困難である。このことからその見直しの必要に迫られていた。また厚生大臣告示によって価格設定がされている医療材料についても、その価格設定の統一的なルールがないことの問題点も指摘されていた。
こうしたなか1993年に前述の「建議書」が作成される。建議書の中で以下の保険医療材料の評価原則が定められた。
(2)保険医療材料の評価原則
評価の原則は「特定保険医療材料」(特材)と非特定保険医療材料(非特材)の2分類とすることである。
「非特定保険医療材料」は以下のように技術料に加算や包括で評価する医療材料とする。
- 技術料の加算として評価する医療材料
がん手術における自動吻合器、自動縫合器などや、在宅酸素療法における酸素濃縮器、酸素ボンベなどの医療材料の費用は技術料の加算として評価する。
- 技術料に一体化して包括評価する医療材料
眼内レンズ挿入術に使われる眼内レンズ,腹腔鏡下摘除術に使われる腹腔鏡などは技術料に包括して評価する。
- 技術料に平均的に包括して評価する医療材料
チューブ、縫合糸、伸縮性包帯、皮膚欠損用被覆材、一部のカテーテル類で、価格が安価で使用頻度も高いものは平均的に包括して評価する。
これに対して「特定保険医療材料」は、上記以外で価格が高額であるもの、または市場規模の大きいものについては、「特定保険医療材料」として価格設定を行うこととした。
このようにして医療材料は特定保険医療材料(特材)と、包括で評価する非特定保険医療材料(非特材)に分類されることになった。このうち特材は現状、21万品目、市場規模は1兆円とされる。一方、非特材は6000~8000億円規模といわれていて、両者を合わせて2兆円弱が国内における医療材料の市場規模と考えられる。医薬品の市場規模がおよそ10兆円なので、医療材料はその2割弱程度ということだ。
2 医療材料の価格算定方式
特材の価格算定方式について見ていこう。その方式は機能区分別算定方式だ。医薬品の場合は銘柄別算定方式をとっていて、個別の医薬品ごとに薬価が定まっている。一方、医療材料は製品数が多いので、その構造・使用目的・効果効能ごとに機能区分別算定方式をとっている。現状では機能区分は医療材料21万品目に対して1270区分となっている(図表1)。そして同一機能区分内の製品は同一価格で設定されている。
その新規医療材料の価格決定方式は、基本的には薬剤と同じだ。薬剤では新薬の場合、これまでの既存品と同じ様な薬効を持つ医薬品は類似薬効比較方式をとる。これと同様に、医療材料の場合には類似機能比較方式がとられる。同じような構造・使用目的・効能効果の既存区分と比較して医療材料の価格も設定される。類似区分がない場合は新薬でも用いられている原価計算方式が用いられる。
さらに薬剤と同じ様に新規機能区分に対して、画期性加算、有用性加算、改良加算が加わり、さらに市場性加算、先駆け加算、特定用途加算、経済性加算等の加算がつく。そして諸外国の価格を参照する外国価格参照方式もとられている。国内価格は外国価格の1.3~1.5倍以内に収めている。
3 保険医療材料の評価区分
以上の経緯から、保険医療材料全体の評価区分は包括評価(A)、既存機能区分(B)、新機能(C)、再製造(R)の4区分にわけられている。
包括評価はA1(包括)、A2(特定包括)、A3(既存技術・変更あり)の3区分となる。
A1は既存の診療報酬項目において包括評価する医療材料、例えば縫合糸、静脈採血の注射針など。A2は既存の特定の診療報酬項目において包括評価する。たとえば超音波検査装置と超音波検査など。
既存機能区分で、B1(既存機能区分)は、既存の機能区分により評価され、技術料とは別に評価する。たとえば冠動脈ステント、ペースメーカーなど。B2は機能区分の定義等の変更を伴う場合である。B3は期限付きの改良加算を付すことにより評価する加算だ。
新機能については、C1(新機能)は新たな機能区分が必要で、それを用いる技術評価されているもの、例えば特殊加工が施された人工関節など。C2(新機能・新技術)では当該製品を使用する技術が未評価の場合で、例えばリードレスペースメーカーの場合などである。
R(再製造)は2017年に新設された項目で、単回使用医療機器の再製造品がその適応だ。たとえば生理電極カテーテルの再製造品などだ(図表2)
図表2

中医協 2012年4月25日
4 2026年保険医療材料制度改革
2026年診療報酬改定の改定率は30年ぶりの3%以上のプラス改定となった。その改定率3.09%だ。一方、医療材料はマイナス0.01%改定だ。ほぼ据え置きと言ってよい。今回の改定の医療材料における改定トピックスを見ていこう。チャレンジ申請、プログラム医療機器、逆ザヤ対策だ。
(1)チャレンジ申請
チャレンジ申請がイノベーション評価の一環で改定トピックスに上がった。チャレンジ申請とは「製品の導入時には評価できなかった部分について、使用実績を踏まえて新規機能区分を再評価する仕組み」のことだ。
たとえは医療器械については、実際に患者が使用し、一定期間が経過した後初めて有効性が明らかになるというケースもある。たとえば、電池の大容量化で従来より非常に小型で長期間の使用に耐えうる心臓ペースメーカーが開発された場合、「電池交換にかかる手術の頻度がすくなくなり」患者の負担や医療費負担が軽減するという効果が期待できる。しかしこうした実績を評価するには実際にペースメーカーを埋め込み、一定期間が経過してからでないと検証ができない。こうした場合にこのチャレンジ申請を使って再評価を行う(図表3)。
図表3

中医協材料専門部会2025年9月26日
2018年にこの制度が新設されて以来、これまで34品目の医療機器等がチャレンジ申請があり、そのうち9品目(26%)がチャレンジ成功、5品目(15%)がチャレンジ失敗、5品目(15%)が申請取り下げ、15品目(44%)がデータ収集中となっている。
このうちチャレンジ申請成功例を図表4に示す。いずれもチャレンジ成功により改良加算、有用性加算が3~5%で加算されている。
図表4

こうしたチャレンジ申請には有用性を示すデータの提示が必要だ。データとしてはその客観性を担保するために、「査読付き論文として公表されたものの提出」を求めている。米国、フランスではこの有用性を示すために「比較試験(RCT)が最も望ましい、それが困難な場合にはバイアスのリスクを軽減する方法等を厳密に検討する」としている。
前述のチャレンジ申請では単群試験で他製品との比較はメーカー独自解析論文を提出する事例があり、この申請の取り下げられた。このようにデータによってはチャレンジの失敗するケースもあった。 こうしたことからチャレンジ申請手続きについては、事務局による事前確認を経て、保険医療材料等専門組織委員長が認めた場合にチャレンジ権を付与することとした(図表5)。
図表5

令和8年保険医療材料制度改革の概要 2026年3月5日
こうした状況のなか、業界側の要望としては以下がある。国内導入時点で既に開始されている海外の臨床研究の活用、リアルワールドデータ分析を含む後ろ向き観察研究、画像診断については過去に撮影された画像等を用いて正解データを作ったうえで検証する場合等に実施される後ろ向き研究についてチャレンジを認めてほしいとしている。
(2)プログラム医療機器
プログラム医療機器とはプログラム(ソフトウエア)が内蔵された医療機器(デバイス)のことだ。その区分は以下のようだ。
- 既存の検査、手術等の治療行為を支援するプログラムを内蔵した医療機器
たとでば大腸内視鏡にポリープを検出・強調するソフトウェアが付属している場合だ。これにより腫瘍性ポリープの検出率の向上や早期切除を可能とする。その評価としては大腸内視鏡検査当たりの腫瘍検出率が既存の検査方法より有意に向上することで評価し、病変検出支援プログラム加算の対象となる。
- 目的とする検査等の実施そのものに必要なプログラム医療機器
インフルエンザ診断のため、咽頭画像等解析ソフトを備えた内視鏡用テレスコープで、インフルエンザPCR法検査と比較して一致率で評価し、インフルエンザ診断補助として加算がついたものである。
- 治療用医療機器の制御に用いるプログラム医療機器
放射線治療制御ソフトのようにCT画像から腫瘍位置を解析し、照射線量、角度を最適化し、治療制度の向上、正常組織への被曝低減などの有効性が明確であるもの。
- 疾病管理等のため患者実施が医療機関外で使用するプログラム医療機器(SaMD)
SaMDとはSoftware as Medical Deviceのことで、サムディと呼ぶ。欧米ではSaMDとして独立した医療機器分野で近年、目覚ましい発展を遂げている。世界最初のSaMDは2010年に米国で販売された糖尿病治療支援ソフトであるBlue Starでスマフォに内蔵したアプリである。このアプリの使用群と対象群を比較したところHbA1cが1.5ポイントもアプリ群で低下した。
今回の診療報酬改定ではCureApp社の飲酒量低減治療補助アプリが国内で行われたRCTで本品使用群は、対象群と比べて12週時点での多量飲酒日数がベースラインから減少した。またアルコール摂取量がベースラインから70%以上も低下した。これによりプログラム医療機器等指導管理料の適用となった。
また今回の改定では、プログラム医療機器の評価体系が以下のポイントで見直された。一点目は「臨床アウトカムが明確に向上した場合のみ加算」へ一本化したことだ。既存技術の臨床的有効性が明らかに向上する場合のみ、関連技術料への加算としてする。業界から要望があった医療従事者の労働時間短縮のみでは加算しない。治療機器の制御など、技術全体に影響するものはC2(新機能・新技術)で評価するなど。
二点目はプログラム医療機器が以下のように多様化していることより、従来の加算枠では対応困難となった。プログラム医療機器は以下のように多様化している。AI画像診断支援、放射線治療計画支援、手術支援ナビゲーション、患者自己管理アプリなど。
このように中医協でもプログラム医療機器の「目的・機能が多様化しており、単一の管理加算では適切に評価できない」とされ、個別の技術に応じて評価する方式へ移行し、包括的なプログラム医療機器等管理加算は廃止され、プログラム医療機器等指導管理料と導入期加算に整理された。
特定保険医療材料として評価されるプログラム医療機器については、初再診料、プログラム医療機器指導管理料、その他の医学管理料を組合わせで算定できることを明確化した。またCureAppの飲酒量低減治療補助アプリは該当する医学管理料がなかったため、なくても算定できることした。またこうしたアプリが保険適用期間を過ぎても患者が使用する場合は、選定療養で保険診療と併用することを認めた。
(3)逆ザヤ対策
物価高騰、人件費高騰、円安によって医療材の逆ザヤ現象が生じている。逆ザヤとは医療機関の購入価格である市場実勢価格が保険償還価格を上回ることだ。卸業者の納入価格が上昇し、医療機関の購入価格が償還価格を超えてしまう。購入すればするほど医療機関に赤字が増えるというわけだ。
こうした逆ザヤはすべての医療材料の機能区分の395機能区分で31%に達している(図表6)。
図表6

令和8年保険医療材料制度改革の概要 2026年3月5日
とくに対象となる機能区分で、類似の医療材料の代替購入ができない場合、医療機関は逆ザヤになることが分かっていても購入せざるを得ない。つまり当該の医療材料のシェア率が高く独占的である場合、供給側の価格決定力が強すぎて、市場実勢価格に基づいて保険償還価格を引き上げることにはムリがある。このため不採算品再算定の仕組みをつかって赤字を回避し供給維持をこれまで行ってきていた。図表7のパターン1、パターン2がこれに該当する。
今回の改定ではこれに加えてパターン3のように同一機能区分内においてシェアが分散している場合には市場は競争的であり、実勢価格は市場均衡価格を示していると考えられる。このためこのパターン3については特例として市場実勢価格および物価変動等に基づき基準材料価格を改変できることとした。
図表7

などが検討され実施されている。
2022年の第2期の基本計画ではプログラム医療機器の研究開発の促進や医療機器の安定供給と言った論点も取り入れて基本計画を策定している。この第2期の基本計画がスタートし3年が経過したところで、2027年から開始される第3期の基本計画の策定へ向けて準備を行うことになった。今回その中間とりまとめが公表された。とりまとめの基本方針は以下の3つの柱である。
- 世界の医療を担う強固な医療機器産業基盤の確立
主要目標指標(KGI:Key Go令和8年保険医療材料制度改革の概要 2026年3月5日
5 医療機器促進法と第3期医療機器基本計画
2014年に「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律(医療機器促進法)」が成立した。この法律により医療機器基本計画が策定され、これまで2期にわたり実施されている。この基本計画では医療機器に関する規制の見直し、医療機器の製造販売の承認等の迅速化、ソフトウエアの使用拡大等による医療機器の種類の多様化に応じた品質等の確保、医療機器の適正な使用に関し、情報提供体制の充実、医師等への研修の充実、国民の理解の増進等、先進的な医療機器の研究開発の促進、医療機器の輸出等の促進al Indicator)としてはグローバルでの内資系企業の獲得市場額を2024年現状の10兆円から2040年には28兆円とする。
- 医療の未来を築く日本発の医療機器イノベーションの創出
医療機器企業による対日投資額を2024年時点1.9兆円から2040年に4.2兆円に増加、国内初の優れた医療機器の件数(C区分)の件数を2025年時点4件を2040年に8件に倍増する。
- 必要な医療機器にいつでもアクセスできる医療機器提供基盤のさらなる強靭化
医療機器企業による対日投資額は本方針でもKGIに該当、上記に加えて、供給不安・停止報告の継続的なフォローアップ(図表8)。
図表8

厚労省 第3期医療機器基本計画策定に向けた中間とりまとめ 2026年3月2日
以上、2026年診療報酬改定と医療材料について見てきた。中東情勢もあってナフサ由来の透析チューブなどの医療材料の不足が取りざたされている。医薬品と同様、医療材料も国際分業が進んでいて、原料や中間製品の海外依存が高まっている。また治療機器についてはとりわけ日本は海外に依存度が高い。こうしたことから医療材料についてもそのサプライチェーンマッピングを行い、どこに供給ボトルネックがあるのかを明らかにしていく必要がある。こうしたことから医療機器・医療材料の安定供給確保へ向けたリスク分類制度も今後必要となるだろう。
しばらくは医療材料から目が離せない。
参考文献
厚労省 中医協総会 2012年4月25日
厚労省 中医協材料専門部会 2025年9月26日
厚労省 令和8年保険医療材料制度改革の概要 2026年3月5日
厚労省 第3期医療機器基本計画策定に向けた中間とりまとめ 2026年3月2日
