
本稿では一般用医薬品(OTC)の規制緩和の歴史と新たな課題としてのOTC医薬品のオーバードース問題を取り上げる。両者は一見すると相対立する問題のように見える。規制緩和は医薬品のアクセスを促進し、オーバードーズ規制はアクセス制限につながる。これらの問題にどのように対応すればよいかをその歴史的経緯を振り返りながら考えていこう。
1 セルフメディケーションとOTC医薬品の歴史
(1)セルフメディケーションの定義
セルフメディケーション(Self-medication)は、個人が自らの健康を管理し、軽度の症状や慢性疾患に対して、安全性・有効性が保証された医薬品を適切に使用して対処する行為である。1978年、WHOとユニセフが共催したアルマ・アタ宣言は、世界初のプライマリ・ヘルスケア宣言として「人々が自ら健康管理に参加する権利と責務を持つ」と明示した。
また1998年にはWHOがセルフメディケーションを「責任あるセルフメディケーション」として定義した。「責任あるセルフメディケーション」とは、「単なる自己判断による服薬ではなく、用法・用量、効能・副作用、相互作用、禁忌、専門家への相談時期などの情報に基づく自己管理行動である」。この時、すでにオーバードーズに対する配慮が定義には込められている。
一方、日本は実はセルフメディケーション先進国だ。日本では、江戸〜明治期に富山の置き薬に代表される薬の家庭における配置販売が発展し、医療アクセスの乏しい地域で、人々の健康を守る手段となった。1877年の「売薬規則」により有害な薬の排除が制度化され、続く大正〜昭和初期には1914年「売薬法」が制定され、薬剤師・医師による調製の限定、毒薬・劇薬の使用制限、誇大広告の禁止などが導入され、家庭薬の品質と安全性が制度的に確立され始めた。
そして1950年代後半には「セルフメディケーション」という和製英語が配置薬業界から誕生した。東京大学の石坂哲夫と全国配置家庭薬業協会長の曽我正雄が提唱し、富山の配置薬を日本の簡易医療の象徴として普及させた。これはWHOの定義に先立つ30年も前のことである。
(2)OTC医薬品の歴史
次いで、日本では1961年の薬事法改正で、医薬品が「医療用医薬品」と「一般用医薬品(OTC)」に分類され、OTC制度が正式に始動する。これにより現代的な意味で一般家庭での薬使用が法的に整備された。
1970〜90年代には前述のWHOのプライマリ・ヘルスケア理念が日本にも波及し、欧米で進んだOTC薬拡大と国際的なセルフメディケーションのトレンドを受けて、日本でも高齢化・医療費増加を背景に、セルフメディケーションに政策的関心が高まった。こうしてセルフメディケーションは、国際的理念と日本独自の配置薬文化が融合し、個人の健康管理を支える社会的仕組みとして定着していった。
2 OTC医薬品の規制緩和の歴史
OTC医薬品の歴史は前述のように1961年の薬事改正から始まる。その歴史的変遷を見ていこう。その歴史は規制緩和の歴史でもある。
(1)コンビニで薬を!
OTC医薬品については、1995年ごろからコンビニエンスストアのような一般小売店でもその販売を可能にしようとする動きやネット販売の動きが始まる。これを見ていこう。
1995年の村山内閣のとき「コンビニで薬を!」を合言葉に消費者の利便性向上を目指す提案が、政府の行政改革委員会のテーマに取り上げられる。行政改革委員会の医療に関する意見の中の、「薬局以外の一般小売店による医薬品販売」である。
しかし当時の厚生省はこれについては「医薬品の販売は薬剤師が常駐して服薬指導をする薬局でしか認められない」という見解だった。しかし度重なる規制緩和の要望に対して、厚生省がとったのは、医薬品のカテゴリーに以下の「医薬部外品」という新たなカテゴリーを設けることだった。具体的には「ビタミン含有保健剤、健胃清涼剤、外皮消毒剤等の15種類の製品群は医薬部外品として薬局以外の一般小売店でも販売を可能とする」ということだった。同時に厚生省が行ったのは、15の製品群から医薬品成分を除くことまたは軽減させる措置を取ることだった。
次に1998年の橋本内閣の規制緩和委員会が攻め込んだのは、以下の点である。当時の薬事法のもとでは離島などの特例販売業や置き薬の配置販売業では、「薬剤師の関与がなくても一般用医薬品の販売が認められている。それにもかかわらずなぜ小売店でこれらの医薬品の販売が認められていないのか?」という点だった。
この一般用医薬品販売に関する規制緩和については、厚生省の薬務局と規制緩和委員会との間でしばらく押し問答が続く。薬務局の見解では「医薬部外品15製品群以上の緩和はできない」。それに対して規制緩和委員会側は、「販売後、長期間経過しその間の副作用などの事故がほとんど認められないものを一般小売店で販売できるように見直しを検討すべき」として平行線が続く。こうした中、厚労省は2002年年末の答申で以下のように譲歩してきた。「今後とも、一定の基準に合致し、かつ保健衛生上比較的危険が少ない等の専門家の評価を受けた医薬品については、一般小売店において販売できるよう2002年度中に専門家による検討を開始し、2003年度を目途に結論を得るようにする」。
(2)小泉総理裁定
そして2003年5月、この医薬品の小売業での販売問題は、当時の規制改革担当大臣の石原伸晃大臣のイニシアテイブのもと経済財政諮問会議とも連携し、当時の小泉純一郎総理の政治判断にゆだねられることになった。具体的には2003年5月の次官折衝、6月の大臣折衝を経て、最終的には2003年6月18日に小泉首相を交えての会談で、「薬は医薬品として普通の店で売れるようにする」という小泉総理裁定が決定した。そして2003年6月27日の経済財政諮問会議を経て以下の閣議決定に至る。「医薬品の一般小売店における販売については、利用者の利便と安全の確保について2003年中に十分な検討を行い、安全上特に問題がないとの結論に至った医薬品のすべてについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする」。
この2003年6月の閣議決定を受けて、厚労省は「医薬品のうち安全上特に問題のないものの選定に関する検討会」を設置し、検討を始めた。薬局以外の薬剤師のいない小売店で医薬品を販売するためには薬事法の医薬品・医薬部外品の定義規定から変えなければならない。そして薬事法を改正するには絶対反対の日本薬剤師会と医薬系族議員の反対をなだめなければならない。このように切羽詰まった状況の中で、厚労省が取ったのはこれまでのコンビニ等で販売が可能な医薬部外品と薬局・薬店で販売されていた医薬品の中から、改めて安全上特に問題がない約350品目を抽出し、コンビニ等で入手可能にする案だった。
この考え方を受けて、2004年から具体的に安全上特に問題がない350種類の新たな医薬品分類に関する議論が進む。この新たな分類に属する医薬品については、薬剤師必置義務をはずすことにする。この場合必置に変わる措置として薬剤師による電話相談の在り方や、薬剤師に替わるものとしてある種の教育の実施と資格制度(「登録販売者」)を設けることになった。
(3)2006年薬事法改正~医薬品の新たなリスク分類~
そして2004年12月の厚労省の「医薬品販売制度改正検討部会」とのその下部組織「医薬品のリスクの程度の評価と情報提供の内容に関する専門委員会」に検討の舞台を移し、1年半に及ぶ検討の結果、新たな一般用医薬品のリスク分類案が報告され、2006年の薬事法改正につながった。このため2006年の薬事法改正は半世紀ぶりの大改正となった。
なかでも画期的であったのは、一般用医薬品を以下のリスクの程度に応じて、高リスクの方から低リスクに向けて、第1類、2類、3類医薬品という分類に分けたことだ(図表1)。そしてその区分に応じて薬剤師や登録販売者が関与し、適正使用のための情報提供を行うことになった。そして同法が施行される2009年6月1日を目指して薬事法施行規則を改正した。この施行規則の改正によりコンビニなどでも、登録販売者を置けば一般用医薬品の販売ができるようになるなど、医薬品販売の規制緩和が実施された。
図表1

1995年の村山内閣のときの行政改革委員会規制緩和小委員会の「コンビニで薬を」から始まって15年の年月をかけて得られた規制改革の実現だった。
(4)一般用医薬品のネット販売
しかし同時にもう一つの課題「一般用医薬品のネット販売」問題が起きる。このネット販売の規制とその解禁の経緯を見ていこう。2006年の薬事法改正を受けて、その2009年の実施を目指して薬事法施行規則を改正する作業が厚労省内で始まる。その一つの検討会である「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」が設置され、2008年7月に報告書がまとめられた。この中に「情報通信技術を活用する場合の考え方」が盛り込まれた。これによると改めて「薬剤師との対面販売の原則」が強調されたうえで、「第1類医薬品については販売時の書面による情報提供が必要であることからネット販売は適当ではない」との判断を検討会は示した。またテレビ電話を活用した販売については、「本来であれば薬局や店舗において薬剤師や登録販売者が24時間対応できることから、経過措置としてそれらの体制が整備されるまでは、第2類医薬品と第3類医薬品のテレビ電話での販売を引き続き認める」との見解を示した。
しかし厚労省が最終的に取りまとめた省令案では、第1類医薬品と第2類医薬品についてはネット販売不可、第3類医薬品は可となった。
厚労省がこの省令案に対してパブリックコメントを求めたところ、ネット業者から反対する意見が相次いだ。合わせて規制改革会議もこの省令案に対して、2008年11月に、「薬事法にネット販売を禁止する規定がないこと」や、「消費者の利便性を阻害すること、ネット販売等が店頭での販売よりも安全性が劣ることが実証されていないこと」を挙げ、ネット販売に関する規制の撤廃を要求する。
しかし2009年2月にこうした反対の声を押し切って、薬事法施行規則の改正省令が交付された。しかし規制強化に反対する声が根強かったため、厚労省は「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を設置し、ネット販売の議論を継続した。最終的には厚労省は2009年6月の改正薬事法の全面実施直前の5月29日に以下のような見解を示した。「薬局のない離島居住者に対するネット販売」と「改正法以前から購入している継続使用者に対して同じ薬局・店舗が同一の医薬品を販売する」場合は2年間に限り第2類医薬品のネット販売を認めるというものだった。
(5)ネット販売訴訟で国が敗訴
この動きを察知して、「楽天」子会社のケンコーコム株式会社をはじめとする一般用医薬品の通信販売事業者らは2009年5月25日に、この省令は営業の自由を保障した憲法に反するとして、省令の無効確認を求める行政訴訟を提起した。提訴の理由は①改正薬事法には医薬品のネット販売を禁止する規定はなく、省令で禁止するのは法律の委任の範囲を超えて違法であること。②医薬品のネット販売が制限されるのは、憲法第22条第1項に定められた営業の自由を何ら合理的な根拠なく侵害すること。
この訴えに対して東京地裁はこれを却下したが、東京高裁は一審判決を一部取り消し、販売権を認める逆転判決を出した。そして最高裁も2013年1月に、通信販売を禁止するの規定は2006年の改正後の薬事法の趣旨に適合するものではなく、改正後の薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である旨の判決を出した。上位の薬事法に規定していないネット販売を下位の省令で規定することは法の趣旨を逸脱しているとの判断だ。
国の敗訴となるこの判決を受けて、厚労省は新たな対応を迫られることになる。2013年2月、厚労省は「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」を設置し検討を開始する。一方、第二次安倍内閣時の規制改革会議では、成長戦略を議論していた産業競争力会議と連携しながら、一般用医薬品のインターネット販売規制を緊急性、重要性の高い案件として議論を重ね、2013年6月、「規制改革に関する答申」を取りまとめた。この答申で、一般用医薬品の販売について「インターネット等ですべての一般用医薬品の販売を可能とし、これらの制度的枠組みを遅くとも2013年9月までに整える」ことを求めた。
こうした中、2013年8月厚労省はスイッチ直後品目及び劇薬の医学、薬学的観点からの特性等について検討するために「スイッチ直後品目等の検討・検証に関する専門家会合」を開催し、スイッチ直後品目等について、インターネット販売に慎重な対応をなお求めた。
このような厚労省内の動きに規制改革会議は再び強く反応する。2013年10月、規制改革会議の岡素之議長は記者会見で、対面販売とネット販売について「合理的な理由なく(対面販売と)差をつけられることについてはあるべきではない」と反対の表明を上げた。また楽天の三木谷浩史社長は、「科学的な議論もなく、一律に規制を行うのは違憲であり、はなはだ遺憾だ。対面販売の方がインターネット販売よりも安全だという主張も話にならない」と政府の方針に強く反対する考えを示した。
(6)要指導医薬品
その後、政府内でスイッチ直後品目等の取り扱いについて閣僚級の協議が行われたが、2013年11月5日、結局は厚労省の方針通りのインターネット規制で、関係閣僚の合意がなされることになった。劇薬とスイッチOTC直後品目については「要指導医薬品」という新たなカテゴリーを設置し、3年を上限とする安全調査を終えるまではネット販売を認めないこととした。それ以外の一般用医薬品についてはすべてネット販売を認めるという薬事法改正法案が出来上がった。
そして薬事法改正法案が2013年11月国会提出される。同改正薬事法では、医師の処方せんが必要な医療用医薬品もネット販売を認めず対面販売でなければならないと明記した。そして薬事法は2016年6月に改正され、一般用医薬品のネット販売が解禁された。
3 スイッチOTC
次に医療用医薬品から転用された一般用医薬品(OTC)、いわゆるスイッチOTCについて見ていこう。
(1)スイッチOTCの歴史
スイッチOTCの制度的経緯について見ていこう。スイッチOTCとは、長らく医療用医薬品として用いられた成分が、OTC医薬品に転換(スイッチ)された医薬品のことである。ちなみにOTC医薬品とは一般用医薬品のことで、薬局・薬店・ドラッグストアなどで医師の処方せん無しに購入できる医薬品のことである。
さて我が国ではスイッチOTCは1983年から承認が始まった。当時の承認方法は申請者が医薬品医療機器総合機構(PMDA)に申請を行い、審査等結果通知を厚労省医薬食品局の審査管理課に送る。審査管理課は薬事・食品衛生審議会薬事分科会一般用医薬品部会に審問し、その答申を受けて承認書を申請者に交付するという流れである。つまり企業による薬事・食品衛生審議会への直接申請行っていた。
1983年に最初に承認されたスイッチOTCは以下の2成分である。ソイステロール(大豆油不けん化物)で血清高コレステロール改善薬とピコスルファートナトリウムでラキソベロンの商品名でよく知られている液状滴下型の便秘薬である。
その後2008年度からは消費者等の社会の声を反映するため、日本薬学会によるスイッチOTC医薬品候補品目選定し、関係医学会100学会との意見調整を経て、薬事・食品衛生審議会で議論するという方式も導入された。
そして後述するように2014年の日本再興戦略により海外の事例も参考に、産業界・消費者等による多様な主体からの意見を反映するため、「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(評価検討会議)がスタートした。
2024年1月現在でのスイッチOTC医薬品は93成分ある。93成分の中には解熱鎮痛剤のイブプロフェン、消炎剤のインドメタシン、そのほか胃腸薬のファモチジン、鎮痛剤のカルボシステイン、水虫薬、花粉症薬のフェキソフェナジンなど幅広い種類にわたっている。図表2にその有効成分リストを示す。
図表2 スイッチOTC93成分(2024年1月)
アシクロビル アシタザノラスト Lーアスパラギン酸カルシウム アゼラスチン アモロルフィン アルミノプロフェン アンブロキソール イコサペント酸エチル イソコナゾール イソチペンジル(歯痛・歯槽膿漏薬に限る。) イトプリド イブプロフェン イブプロフェンピコノール インドメタシン ウフェナマート エキサラミド エコナゾール エバスチン エピナスチン エプラジノン・エメダスチン オキシコナゾール オキシメタゾリン オキセサゼイン カルボシステイン クロトリマゾール(膣カンジダ治療薬に限る。) クロモグリク酸 ケトチフェン ケトプロフェンゲファルナート シクロピロクスオラミン ジクロフェナク シメチジン ジメモルファン スルコナゾール 精製ヒアルロン酸ナトリウム セチリジン セトラキサート ソイステロール ソファルコン チオコナゾール チキジウム チメピジウム・テプレノン テルビナフィン トラニラスト トリアムシノロンアセトニド トリメブチン トルシクラート トロキシピド ナプロキセン ニコチン ニザチジン ネチコナゾール ピコスルファート ビソキサチン酢酸エステル ビダラビン ヒドロコルチゾン酪酸エステル ビホナゾール・ピレンゼピン ピロキシカム ファモチジン フェキソフェナジン フェキソフェナジン塩酸塩・塩酸プソイドエフェドリン(花粉、ハウスダ スト(室内塵)などによる鼻のアレルギー症状を緩和することを目的とす るものに限る。) フェルビナク ブチルスコポラミン フッ化ナトリウム(洗口液に限る。) ブテナフィン プラノプロフェン フラボキサート フルチカゾンプロピオン酸エステル フルニソリド プレドニゾロン吉草酸エステル プロピベリン ブロムヘキシン ベクロメタゾンプロピオン酸エステル ベタメタゾン吉草酸エステル ヘプロニカート ベポタスチン ペミロラストカリウム ポリエチレンスルホン酸 ポリエンホスファチジルコリン ミコナゾール メキタジン・メコバラミン ユビデカレノン ヨウ素・ポリビニルアルコール(目の殺菌消毒薬に限る。) ラニチジン ラノコナゾール ロキサチジン酢酸エステル ロキソプロフェン ロペラミド ロラタジン
さて私事にわたるが著者もスイッチOTCのファンの一人だ。一度、日曜日に胃痛で自宅近くのドラッグストアに駆け込んだ。薬剤師さんにファモチジンのOTCがないか聞いた。薬剤師さんは店の奥まで案内してくれて、丁寧に説明してくれた。「ファモチジンのOTCは3種類あります。10錠1200円と1000円の2種類に加えて、わが社プライベートブランドのファモチジンは10錠900円でお勧めです」という。即座にプライベートブランドのファモチジンを購入して1錠10㎎を2錠服用したら、たちどころに胃の痛みも消えて、以来、そのドラッグストアに事あるごとに足を運んでいる。日曜日でクリニックや調剤専門薬局が休みの中、胃痛で訪れたドラッグストア体験が忘れられない。
(2)スイッチOTCの要件
スイッチOTCとは医師から処方される医療用医薬品のうち、副作用が少なく安全性の高いものを医療用医薬品からOTC医薬品に転用(スイッチ)した医薬品のことである。スイッチOTC化が承認されるための基本要件としては、「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」における中間取りまとめでは以下のように示している。
人体に対する作用が著しくないものであって、使用者の状態やその変化に応じて、医師による薬剤選択や用量調整等(多剤との併用も含む)を必要としない医薬品であること。
以下のいずれかのような医薬品であること。
・使用する際に使用者自身が症状から判断することが可能であり、使用者自身が適正に購入し短期間使用できる医薬品であること。
・初発時は、使用者のみでは自己判断が難しい症状であるものの、一定期間内の診断情報、服薬指導等といった医師、薬剤師による一定の関与により、使用者が適正に購入し使用できる医薬品であること。
・原疾患以外の症状をマスクするリスク等を含め、医療機関への受診が遅れることによって生じるリスクについて、講じる対策により許容可能なリスクにできること。
・スイッチOTC化した際に懸念される公衆衛生上のリスク(医薬品の濫用等)について、講じる対策により許容可能なリスクにできること。
なお、医療用医薬品からスイッチOTCに切り替わったばかりスイッチOTCはスイッチリスクが不確定なためスイッチ後3年間は要指導医薬品として取り扱われることになっている。
(3)日本再興戦略と新たなスイッチOTC承認スキーム
さてこうしたスイッチOTCをさらに普及させるため、第2次安倍内閣の2014年日本再興戦略でスイッチOTCの承認スキームの見直しが提案される。日本再興戦略ではスイッチOTC促進を目指すために、以下のように新たな承認スキームを提案した。
「海外のスイッチOTCの承認状況及び消費者・学会等からの要望等を定期的に把握し、消費者当の多様な主体からの意見がスイッチ化の意思決定に反映される仕組みを構築することとしてはどうか?」。実際に海外のスイッチOTCの承認状況をみると、日本では未承認のプロトンポンプ阻害薬(PPI)のオメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、片頭痛薬のゾルミトリプタン、緊急避妊薬のレボノルゲストレル、鼻炎ステロイドのフルチカゾンなどが承認されている。こうした海外事情を参考にスイッチOTCの承認を拡大してはどうかというのが日本再興戦略の趣旨だった。
これを受けて、薬事・食品衛生審議会の要指導・一般用医薬品部会(以下、部会)は2015年5月に、医療用医薬品成分のスイッチOTC化を促進させるためのそれ迄の旧評価スキームから新評価スキームへの変更を了承した。それまでの旧評価スキームでは、前述のように日本薬学会がスイッチOTCの候補成分を選定し、日本医学会など100以上の関係医学会から意見を聴いた上で、同部会において転用にふさわしい成分の可否を検討するという手続きを踏んでいた。また同時に旧スキームでは前述のように製薬企業が独自に直接、同部会に申請することも可能となっていた。
これを一般からの意見も反映できる仕組みにするため、関連学会や団体、消費者などから候補成分の要望を受け付けるようにした。また、スイッチ化のプロセスを透明化するため、医学・薬学の専門家、消費者などで構成される「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(「評価検討会議」)を新設し、公開で議論を行い、選定されたスイッチ候補品目についてパブリックコメントを募集し、同部会に報告するとした。
(4)エパデール問題
こうした経緯からスイッチOTC促進のために2015年に設置された評価検討会議ではあった。しかしこの評価検討会議がスタートしてから、日本再興戦略のスイッチOTC促進の趣旨とはまるで反対方向に事態が動きだす。この間に何があったのだろう?実はこの評価検討会議の運営に大きな影響を与えたのが、旧評価スキームで提出されたエパデール(イコサペント酸エチル)の審議過程だった。
エパデールは2008年に持田製薬が部会にスイッチOTCとして部会に直接申請を行ったものだ。審議の過程で医師会系委員から以下のクレームがあり審議はもめた。「脂質異常症には糖尿病や脂肪肝などが隠れている場合があり、(スイッチOTC化は)それらの早期発見を妨げる可能性がある」。そしてその後の審議を経て2012年に同部会で、なんとか以下の条件下で承認されることになった。「一定数の症例データが蓄積されるまでの間、適正使用調査を実施する。3年間の安全性に関する製造販売後調査を行う」。
この旧評価スキームで行われたエパデールの議論のプロセスが新評価スキームで設置された「評価検討会議」にも大きな影響を与えた。具体的には2013年9月の日本医師会の当時の中川俊男副会長の以下の発言にもそれが表れている。「日医としては、基本的には生活習慣病治療薬がOTC化されるのはなじまないと考えており、新たなセルフメディケーションにおける一般用医薬品の在り方の検討の場(評価検討会議)では、そうした考え方で臨みたい」。
(5)逆方向に動き出す評価検討会議
さてこのような背景でスタートした評価検討会議は、前述したように日本再興戦略でのスイッチOTC促進の設置趣旨とはまるで反対方向に動きだす。まずその会議メンバーであるが、薬事・食品衛生審議会薬事分科会一般用医薬品部会(以下、部会)では薬系委員が全体の3分の1を占めている構成を、評価検討会議では16名の委員の内訳は薬剤師は3名に減らされ、医師が10名、歯科医師1名、消費者1名、マスメデイア1名というように医師の委員が大幅に増やされた。またエパデールの審議について、医師会委員によると部会で「強硬採決」された経緯から、評価検討会議では「全員一致」をルールとすることとした。さらに旧評価スキームでは「企業がいきなり学会や医会の意見も聞かないで申請を出すのは問題」という医師会委員の発言から、企業が直接要望を部会に挙げることは不可となった。ただし評価検討会議に消費者・学会と並んで企業が要望を出すことは認めることとした。しかし、これにより事実上、企業が部会に直接申請を挙げることは出来なくなった。
2015年に新評価スキームに移行してからの評価検討会議の審議状況を見ると、スイッチOTCの承認件数が2014年以来、急速に落ち込んでいることが問題となった。
図表3

評価検討会議において否となった、薬剤にはオメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールなどのプロトンポンプインヒビター(PPI)、マクサルト、イミグラン、レルパックス、アマージ、ゾーミックなどの片頭痛薬、レボノルゲストレルの緊急避妊薬、ダラシンT、アンテベートなどにきびや湿疹薬、カルシポトリオールの角化症、疥癬薬、エペリゾン塩酸塩の肩こり薬、ドネペジル塩酸塩、ガランタミン臭化水素酸塩、メマンチン塩酸塩、リバスチグミンなど抗認知症薬がある。
評価検討会議となって以来、これまでと異なる作用や効能が新しい新規性の高い製品は一品目も承認されていない状況にある。これら否となった品目の多くは海外ではすでにスイッチOTCとして承認されているものばかりである。またパブリックコメントでは、圧倒的に賛成の声が寄せられた緊急避妊薬レボノルゲストレルも結果的には否決された。また評価検討会議では濫用の恐れのない医薬品についても濫用が指摘され、インターネット販売が法律で認められているにもかかわらず、「インターネット販売における不適切な販売の懸念」を理由にスイッチ化が見送られた例もある。国際的にもセルフメディケーションの推進が重視されるなかで、スキームが変更された14年以降は、これに逆行するようにスイッチOTCの承認品目数は減少の一途をたどった。
(6)規制改革推進会議医療・介護ワーキンググループ
こうした事情を受けて日本OTC医薬品協会は、2020年2月の内閣府規制改革推進会議の医療介護ワーキンググループにおいて、以下のように訴えた。評価検討会議の議論は「反対理由を見つけるための議論となっているため、論点がすり替えらえることがある」と指摘、またスイッチOTC化の判断基準を明確にすることを求めた。さらに評価検討会議の在り方についても、「必要性、リスク等について議論し、厚労大臣に意見具申する会議体」とすることを求めた。また、評価検討会議の委員には、消費者や医療経済専門家、医療保険支払側などを委員に加え、全会一致による可否の決定を辞めるよう訴えた。
これに対して、医療・介護ワーキンググループでも、日本再興戦略2014年におけるスイッチOTC促進の趣旨とは全く逆方向に評価検討会議が進んでいることに委員らから強い懸念が表明された。当時、著者も医療介護ワーキンググループの専門委員の一人だった。この評価検討会議の進め方には大いに違和感を感じたことを覚えている。
実際、2014年に評価検討会議が設置されて以降、製薬企業が直接スイッチOTCを申請できなくなったほか、会議体の構成が医師委員に偏重し、会議の結論も全員一致が原則となっているのはおかしな話だ。こうした背景のため、スイッチOTC化される承認品目数が大きく減少、特に新規性の高い医薬品については全て否決されている状況にあることについては医療・介護ワーキンググループの委員すべてが懸念を表明した。
(7)厚労省の対応
そして規制改革推進会議医療・介護ワーキンググループとしては以下のような具体的な提案を行った。「セルフメディケーションの促進策を検討するための、厚労省の部局横断的な体制を構築すべき」、「スイッチOTCを促進するための目標を設定し、PDCA管理をすべき」、「評価検討会議の役割はスイッチOTC化を行う上での課題・論点の整理を行うことであってスイッチOTC化の可否を決定するものではないことを明確化すべき」「評価検討会議のメンバーも消費者等の多様な主体からの意見が反映できるように(医師に偏重した)メンバー構成も見直すべき」「全会一致が原則とされている合意形成の在り方を見直し、賛成、反対意見を列記して、薬事・食品衛生審議会に提示すべき」「製薬企業が直接厚労大臣へスイッチOTCの製造販売の承認申請を行うことも可能であることを明確化すべき」「スイッチOTCの製造販売承認時に課している患者のセルフチェックシート作成、販売実態調査の実施などの販売条件設定についての考え方を明確化し、真に必要であるものに限定すべき」。
こうしたワーキンググループの提案に対して、2020年11月に開催された医療・介護ワーキンググループにおいて厚労省は、以下のように回答してワーキンググループの提案を概ね受け入れた。「評価検討会議では、スイッチOTC化を行う上での課題、論点を整理して、薬事・食品衛生審議会に意見として提示し、可否の決定は行わないこととする」、「評価検討会議のメンバーに消費者代表をはじめ、産業界や流通・販売の関係者などから複数名の委員の追加を行う」「部局横断的な組織を作り、スイッチOTCの普及促進をはかる目標値を検討する」。
こうした厚労省の対応により、ようやく評価検討会議でのスイッチOTCの承認が加速し始める。とくに評価検討会議で否決された緊急避妊薬のレボルノゲストレルのスイッチOTCが再検討結果、スイッチOTCとして認められ、その試験運用が2023年11月から全国143薬局で始まり、2025年10月20日承認取得となった。しかしこのレボノルゲストレルの承認には初回申請から数えてなんと9年もの歳月を要した。
4 オーバードース問題
(1)OTC医薬品オバードースの現状
ここからはOTC医薬品のオーバードース問題を見ていこう。かつて乱用が問題となっていたのは、戦後まもなくの覚せい剤のヒロポンや少し前まではシンナーや違法ドラッグが中心だった。ところが、2016年ごろから若者たちの間でOTCの乱用であるオーバードース問題が顕著となってきた。全国の精神科医療施設における薬物依存症の治療を受けた10代患者の「主たる薬物」の推移をみると図表4のようである。2016年ころよりOTC医薬品による薬物関連性精神疾患が急増していることがわかる。
図表4

またオーバードーズに関連する救急搬送も増えている。2022年の全国における医薬品の過剰摂取が原因と疑われる救急搬送人員の調査をみても、20代の若者中心に、若年層のオーバードースによる救急搬送が急増している。
こうしたオーバードーズ対策の必要性から、2025年に薬機法が改正された。改正薬機法によれば、若年者による市販薬乱用防止を目的に販売規制が強化された。まず、指定乱用防止医薬品を定め、この医薬品の未成年者(18歳未満)への大容量包装や複数購入を禁止することにした。また販売時には薬剤師または登録販売者による対面確認と年齢確認を義務化した。高校生など乱用リスクの高い層には特に慎重な対応が求められることになった。
次に、複数購入時の確認義務が法制化され、販売業者は氏名・年齢・他店での購入状況・購入理由を記録・報告する責任を負うこととした。違反時には指導・罰則が設けられる。さらに、オンライン販売でもテレビ電話などを用いた「対話式確認」が義務化され、店舗販売と同等の購入者確認・注意喚起が必要となった。施行は公布から1年以内(2026年5月まで)を予定し、厚労省が詳細な省令で対象年齢や「大容量」の定義を定める。薬局・販売業者には最新情報の把握と体制整備が求められる。
上記の指定乱用防止医薬品は以下の6成分である。エフェドリン(興奮作用を持つ成分)、コデイン(鎮咳去痰薬に使われる opioid 系成分)、ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に使われるコデイン類似成分)、ブロモバレリル尿素(鎮静作用を持つ鎮静薬成分)、プソイドエフェドリン(エフェドリン類似の鼻粘膜充血除去成分)、メチルエフェドリン(エフェドリン類似の気管支拡張成分)。
これら6成分を含む市販薬が指定濫用防止医薬品にあたり、具体的には総合感冒薬(風邪薬)、咳止め(鎮咳去痰薬)、鼻炎用内服薬、眠気を誘う鎮静薬など複数のOTC医薬品が該当することになった。特に乱用の頻度が高いOTCはブロン/エスエスブロン錠(鎮咳薬)、パブロンゴールドA(感冒薬)、ウット(鎮静薬)、ナロンエースT(鎮痛薬)である。成分としてはジヒドロコデイン含有群、デキストロメトルファン含有群、ブロムワレリル尿素主剤群、アリルイソプロピルアセチル尿素含有群、ジフェンヒドラミン主剤群、カフェイン単剤群である。
5 処方薬のオーバードースとデータベース
実はOTC医薬品のオバードースが問題になっているが、処方薬のオバードースがさらに問題だ。その実態が電子処方せん普及とともに明らかになっている。電子処方せんの管理サーバーに蓄積された調剤データから処方せん薬の乱用の実態が見えてきた。有名なのが、睡眠導入剤ノゾルビデムの乱用だ。電子処方せんのデータベースによると、複数医療機関を受診し、通常の用法用量から考えられないほどのゾルビデムの処方を受けている患者がいることがわかった。なんと105か所の医療機関から合計量31,390㎎を1か月に処方されている患者だ。一般に30日の処方量は1回10㎎としても300㎎だ。なんと100倍量を処方されていたことになる。
こうした実態が明らかになるのは、電子処方せんデータベースのような医療用医薬品データベースのおかげだ。このためOTC医薬品のオーバードース対策にもOTC医薬品データベースの構築が急がれる。
OTC医薬品データベースは日本医薬品情報学会のOTC医薬品情報フォーマットのように、OTC購入日、使用者、商品名、成分、販売した薬局等の情報をデータベース化する。これにはドラッグストアで購入時にマイナンバーカードを提示して行う。こうしたOTCデータベースがあれば、電子処方箋データベースが明らかにしたように複数医療機関での処方履歴が分かるのと同様、複数の薬局でのOTC購入履歴も明らかになる。これでOTC医薬品のオーバードースを予防できる(図表5)。
図表5

さらにこのOTCデーターベースと処方薬のデータベースを連結すれば、OTC医薬品と処方薬の同一成分の重複投与も検出できる。重複投与で多いのが、バイアスピリンやロキソプロフェンナトリウムなどだ。
またOTCデータベースができれば、現在利用者数が5万人程度に頭打ちのセルフメデイケーション税制の申請も容易になり、その普及に拍車がかかるだろう。
以上より電子処方せん管理サーバーに蓄えられた医療用医薬品のデータベースとOTCの販売記録をデータベース化したOTCデータベースを統合した医薬品データーベースの開発が待たれる。
6 OTC医薬品の規制緩和とリスク
OTC薬の規制緩和は、医療アクセスの拡大とオーバードーズ(OD)リスクの増加というベネフィットとリスクの関係を生み出す。規制緩和により患者の利便性が高まり、セルフケアの促進、医療費の抑制、医療機関の負担軽減などの社会的利益が得られる。一方で、OTCオーバードーズが問題となっている。たしかにOTCへのアクセスの容易さがオーバードース問題の背景にはある。
しかしオーバードース問題は、アクセスばかりが要因ではない。単にアクセスが広がるから起きるのではなく、主に三つの要因が関係する。第一に、エフェドリン、コデインなどの指定乱用防止医薬品の六成分の大量摂取による急性毒性。第二に、衝動性や精神健康問題による自殺企図。第三に、多店舗購入やECサイトでの複数注文による大量入手の容易さである。つまり、OTCオーバードーズの本質は「特定成分×大量入手×衝動性」の組み合わせにある。
したがって、OTCへのアクセスを広げても、リスクの高い成分のみを制度的に管理すれば両立は可能である。スイッチOTCの普及にはさらなる規制緩和が求められるが、同時にオーバードーズ対策も不可欠である。販売数量制限、購入履歴の連携、精神疾患患者への支援体制などを組み合わせることで、安全性と利便性の両立が現実的に実現できる。 OTC政策は「規制緩和か制限か」という二項対立ではなく、科学的リスク評価に基づく選択的管理へと歩を進めるべきであり、医療アクセスの公平性と公衆衛生の安全性を両立させる制度設計が必要であるといえる。
参考文献
鈴木良男「コンビニで薬を」 ARCリポート 2006年3月
厚労省政策レポート 一般用医薬品販売制度の改正について 2009年6月
内閣府規制改革推進会議医療・介護ワーキンググループ(2020年2月)
厚生労働科学研究 全国の精神慰労機関における薬物関連精神疾患の実態調査 2024年
