週に1回、横須賀市の衣笠で訪問診のお手伝いをしている。先日、患者さんのお宅を訪問したら、脊損で寝たきりの男性がベッドの上で独りでおにぎりを食べていた。奥さんが糖尿病で入院したという。久しぶりに訪問したこともあったが、以前よりやせて一回りも二回りも小さく見えた。
さて在宅の高齢者の低栄養問題が深刻だ。「お年寄りは食が細くなってあたりまえ」と在宅で栄養介入がなされていない。また一人暮らしの認知症の高齢者は食事が冷蔵庫に用意されていても食事と気が付かず食べていない。さらに高齢者に一人暮らしでは偏食も心配だ。
このように地域では高齢者の低栄養が進行している。しかし地域包括ケアシステムのなかには「栄養」という概念が最初からすっぽり抜けているのが問題だ。病院では医療チームに必ず栄養士がいて、日常的に栄養士の介入がある。しかし地域の中では栄養士の姿が見えない。実際に管理栄養士が訪問して行う居宅療養管理指導はその算定件数が全国で1か月あたり9000件未満と、訪問看護の9百万件の0.1%と少ない。
その理由は簡単で地域で在宅を訪問してくれる管理栄養士がいないからだ。このため日本栄養士会は地域の中の栄養士の拠点である栄養ケア・ステーションの普及を図っている。栄養ケア・ステーションとは食・栄養の専門職である管理栄養士・栄養士が所属する地域密着型の拠点のことだ。 地域住民の方はもちろん、医療機関、自治体、健康保険組合、民間企業、保険薬局などを対象に管理栄養士・栄養士を紹介し、必要に応じたさまざまなサービスを提供する。栄養ケア・ステーション数は2023年4月現在、全国512か所、栄養士5095人まで増えてはきた。最近では保険薬局の中に認定栄養ケア・ステーションを設けるところも増えてきた。しかしその数は十分ではない。
こうした栄養ケア・ステーションについては診療報酬でも後押しをしている。医師の指示を受けて栄養ケア・ステーションの管理栄養士が訪問栄養管理指導を行うこともできるようになった。2024年診療報酬改定でも、在宅療養支援診療所や在宅療養支援病院が栄養ケア・ステーションとの協力の中で、訪問栄養食事指導を行うことを勧めている。
ただ現行の制度では、医師の指示のもと栄養ケア・ステーションの管理栄養士が訪問しても診療報酬は医師に支払われ、管理栄養士は医師との業務委託契約のもと報酬を医療機関から受け取る。これでは手続きが煩雑だ。栄養ケア・ステーションから診療報酬を保険者に直接請求し受け取れるようにしてはどうか?地域の高齢者を低栄養から守るためにも、栄養ケア・ステーション数の拡大が必要だ。