
昨日の外来も混んでいた。診察前に採血検査のある患者さんが10人近くもいる朝だった。順調に診察が進んでいるさなか、検査科からパニック値のファックスが外来に届いた。「INR9以上!!」とある。「エ~!?」と思って慌てて電子カルテを開ける。INRとはInternational Normalized Ratioの略語、血液がどれくらい固まりにくいかを世界共通の基準で示す指標だ。血液が固まるまでの時間(プロトロンビン時間)の国際標準だ。
患者さんは85歳の高齢男性で、僧帽弁が人工弁の方だ。人工弁の方は血栓ができやすい。これを防ぐためにワーファリンを服用している。このワーファリンを服用することで血液が固まりにくくなる。この固まりにくさをモニターするために毎回、外来受診時にINRを測定しているというワケだ。
前回の検査ではINRは2程度で許容範囲だ。ところが今回は9に跳ね上がっている。固まりにくいどころの話ではない。出血危険域だ。あわてて患者さんを外来に呼び込んだ。「変わりないですか?便の色も尿の色も普通ですか?」と尋ねた。患者さんは娘さんと一緒に来院されている。「普段と変わりません」と言う。
人工弁でワーファリンを服用している患者はときどき見かける。みなさんINRでモニターされている。しかしここまで高い値を示した患者さんは初めてだ。「最近抗菌剤を飲みましたか?食事量も変わりませんか?」と聞く。高齢者の場合、尿路感染でニューキノロン系の抗菌剤を飲むと、腸内細菌叢が変わって、血液凝固に関係するビタミンKが減ることがある。ビタミンK不足がINR高値を生む。でもこの患者さんの場合は抗菌剤も服用していないし、食欲も普通だ。実はINR高値の原因が不明なことも多い。
早速、当日の急患当番の竹永先生に携帯で電話して、患者さんを診てもらうことにした。すると「入院です!」と言って入院手続きを取ってくれた。ひと安心だ。悪くすれば脳出血するかもしれない。患者さんや娘さんも突然「入院です」と言われてびっくりしたことだろう。人工弁でワーファリン、INR高値という教科書にもでてくるような話に朝からお目にかかってこちらもビックリだった。
