訪問診療ではいろいろな職業の方ともお会いできる。横須賀の訪問診療で入れ墨を彫る彫り師(ほりし)の患者さんと在宅でお会いした。訪問に行く前に「ご自身も入れ墨をいれているけれど、話題にはしないように」と注意を受けて、お宅に訪問した。マンションの一室に彫師の男の方はパートナーの女性の方と暮らしていらっしゃる。
眼光するどく、いかにも丁寧な物腰で職人肌の方とお見受けした。ご挨拶もしっかりされている。診察のとき極彩色の素晴らしい入れ墨が目に入った。話題にしてはいけないと言われていたので、ほめるわけにもいかず、ちょっとドキドキしながら診察を終えた。最後に患者さんとそのパートナーの方から丁寧にお礼を言われ、ちょっとどぎまぎしながら看護師さんと一緒に最敬礼でお辞儀をしてマンションを後にした。外にでて同行の看護師さんから「先生は合格でした」と言われた。以前に訪問した医者は不合格で「2度と来なくていい」と出入り禁止になったという。
以前に長野の地方都市の国立病院に勤務したいたとき、地元の拘置所に留置されている方の診察を担当していたことがある。その時も入れ墨を入れたその筋の方からなぜか気に入られた。その方がしばらくして刑が確定して刑務所に入ってから、本人から電話がかかってきた。「どうしました?」と尋ねると、「刑務所の医者がよく診てくれない」と不満を言って、事細かく病状を訴えてこられた。話を聞いてもらいたかったのだろう。しばらく話したあと、電話は切れた。
医者をしていると入れ墨の方に出会う機会も多い。最後に入れ墨の方に注射をするときのポイントを上げておこう。入れ墨の部位に注射するのは避けよう。入れ墨の部位は入れ墨という異物のため皮膚免疫が落ちている。このため化膿しやすいからだ。一度、入れ墨の場所に注射して膿疹を作ってクレームになったことがある。