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ゴミ屋敷


 訪問診療をしているとゴミ屋敷の住人とも仲良くなれる。A子さんは70代の生活保護の方で、エレベーターのない市営アパートの5階の部屋に一人住まいだ。娘さんが時々通って面倒を見てくれている。このA子さんのお部屋がゴミ屋敷だ。一緒に訪問しているクリニックの看護師さんによると、「これでもだいぶ片付いた方です。ベッドまで通れる道が出来ているから」と言う。

 廊下には所狭しとうず高く物が積まれていて、流しには食器の洗い残しが山となっている。ベッドの上にもカップ麵や野菜、新聞が散らかっている。A子さんの部屋に入るとまず自分が座る場所の確保が必要だ。A子さんのベッドわきの椅子の上を片付けて座る場所を作る。同行する看護師さんは座るとところがないので立ったままだ。

 でもA子さんはなかなかインテリで時事問題にも関心がある。私とはなぜか気があって、いつも行くと歓迎してくれる。梅雨の蒸し暑い時期に行くと、いつ洗ったのか分からないガラスのコップにジュースを入れてすすめて出してくれる。市営アパートの5階の部屋の開いた窓からは梅雨の曇り空が広がって、時折涼しい風も入ってくる。

 最初訪問したときはゴミ屋敷にびっくりしたけれど、何度か訪問するうちにゴミ屋敷に住むA子さんとのなにげない会話を楽しみにしている自分に気が付いた。

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