
厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年7月24日
改正医療法の国会審議が2025年10月に予定されている。改正医療法では新たな地域医療構想も審議の予定だ。この国会審議に先立って、早くも7月から「社会保障審議会医療部会」や「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」で、新たな地域医療構想のガイドラインの検討が始まった。ガイドラインは秋ごろ、中間とりまとめを行い、医療法成立後、12月~3月にかけて国よりガイドライン及び、第8次医療計画6年の後期部分の医療計画指針(外来、在宅、医師確保)が、都道府県に発出予定だ。都道府県ではこの通知を受けて、2026年4月より新たな地域医療構想の作成準備に取り掛かり、2027年4月から実施予定だ。
今回は新たな地域医療構想の国のガイドラインについて見ていこう。
1 地域医療構想とは
まずこれまでの地域医療構想をおさらいしておこう。2014年成立の医療介護総合確保推進法において、現在の地域医療構想は2025年を目標年として定められた。地域医療構想ではこれまでの一般病床、療養病床の病床区分を、医療資源投入量の多い順に高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの機能区分に分けた。そしてこの機能区分ごとに2025年の人口動態から必要病床数を定めた。
こうして決められた病床必要数の総数は2025年には119.1万床でその内訳は高度急性期13.1万床、急性期は40.1万床、回復期は37,5万床、慢性期は28.4万床とした。この病床数を2015年と比較すると、高度急性期、急性期は若者の人口が減るので、2025年には約3割減、回復期は高齢者が増えるので約3割増となる。
しかし実際のところ地域医療構想は思った通りには進まなかった。2024年の速報値では、一般病床・療養病床の総数は117.8万床と2025年の必要病床数119.1万床と下回っていた。しかし内訳をみると高度急性期は15.8万床、急性期は51.5万床、回復期は20.7万床、慢性期は29.9万床で、高度急性期・急性期はなお14.2万床過剰、回復期は16.8万床がまだ不足と言う状態である。国の目標達成は未達に終わりそうだ(図表1)。
2 新たな地域医療構想
こうした中、新たな地域医療構想がその目標年を2040年に定めて検討が開始された。新たな地域医療構想では、これまでの地域医療構想に対して以下の3つの変更点が示されている。1つ目は、これまでの入院医療だけの地域医療構想から、外来・在宅、介護との連携等を含む地域医療介護構想とも言うべき構想となる。2つ目の変更点は、これまで高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能のうち、回復期機能を「包括期機能」と改めることにした。包括期とは高齢者救急を受け入れ、リハビリを施し、在宅復帰を行うと言う機能を担うという意味である。
3つ目の変更点は、今後の地域における連携・再編・集約化をイメージできるように病床機能による医療機能と共に、医療機関機能に着目した分類を加えることとした。医療機関機能は以下のように5つとなった。①高齢者救急・地域急性期機能 ②在宅医療等連携機能、③急性期拠点機能、④専門等機能、⑤医育及び広域診療機能。(図表2)。
図2

厚労省 第8回新たな地域医療構想等に関する検討会 2024年9月6日(一部、著者加筆)
3 圏域見直しと必要病床数の推計
さらに新たな地域医療構想では、全国をまず人口動態の変化パターンで以下の3つに分けた。大都市型、地方都市型、過疎地域型の3つだ。大都市型では生産年齢人口は減るが、高齢者人口は増加する。地方都市型では生産年齢人口は減るが、高齢者人口は微増となる。過疎地域型では生産年齢人口も減るが、高齢者人口も減少する(図表3)。
図表3

厚労省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会 2024年8月26日
このように人口動態が大きく地域パターンごとに異なるため、新たな地域医療構想では、全国一律の対応は困難だ。特に過疎地域型では、人口減少のため二次医療圏も人口が20万人を割り込み、近隣の圏域との統合が必要になる。また新たな地域医療構想では入院ばかりでなく、外来、在宅医療といった市町村や日常生活圏を対象にした圏域設定も必要となる。このため新たな地域医療構想では、地域ごと、また入院、外来・在宅ごとに圏域設定を変えていく必要がある。このため地域別、入院、外来・在宅ごとの圏域見直しに関するガイドラインが必要だ。
そしてこれまでの地域医療構想で行ったと同様、病床機能区分別に高度急性期、急性期、包括期、慢性期の2040年時点における必要病床数の推計も改めて行う必要がある。必要病床数の推計は、これまでの「医療資源投入量」を基本としつつも、他の要素も勘案して検討することになるだろう。とりわけ高齢者医療では医療資源投入量に現れない医療従事者の手間がある。これをどのように推計するかが課題だ。そして今後一層入院受療率が下がる可能性もあり、人口構成の変化や入院受療率の傾向、地域における急性期医療の連携・再編、集約化の取り組み、リハビリの一環した効果的、効率的な提供、さらにDXなどによる生産性を向上を踏まえた上で、2040年の必要な病床数の推計を行うことが必要だ。
そしてその推計にどの時点のデータをもとにするかも問題となる。コロナを境として患者の受療行動が変わった。このためのどの時点のデータを基に2040年データを推計するかが大問題だ。
4 2040年へ向けた介護サービス
2025年年4月、厚労省は「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会の中間とりまとめを公表した。2040年の介護サービスはどのような姿になるのだろう?中間取りまとめでは以下の方向性を示している。
中間とりまとめでは以下の3つの地域ごとの特性に応じた介護サービスの提供体制を検討すべきとしている。「中山間・人口減少地域」、「大都市部」、「一般都市等」。
「中山間・人口減少地域」では中山間地、離島では、高齢者人口も減っていく。このため介護ニーズが減り、また介護人材不足により、介護サービス事業者も撤退していく。「大都市部」では介護ニーズが2040年以降も急増するため、限られた介護人材での効率的なサービス提供が必須となる。「一般市等」では、サービス需要が当面増えるが、その後、減少に転じる。このためサービス提供量をどのようにコントロールしていくかが課題となる。
中山間・人口減少地域について詳細を見ていこう。中山間とは山地と平野の中間地帯のいわゆる里山地域だ。この地域の人口がすでに減少局面に入っている。また離島、半島も同様だ。こうした地域では高齢者人口も減り、介護サービスの需要が減るため、介護サービス事業所はどこも赤字だ。そしてサービスの撤退も目立つ。
また半島の先端も同様だ。能登半島は2025年1月の能登地震に見舞われて以来、北部では若者が戻らず、急速な高齢化が進行化して、すでに「2040年」を先取りしている。離島も同様だ。離島ではすでに介護サービス事業者が撤退して、介護サービスの確保が困難となっている。このため離島ではやむを得ず特例として人員基準を満たさなくても居宅介護サービスや地域密着型介護サービスの提供を可能としている。
検討会ではこうし現状を踏まえて構成員から以下のような意見が相次いだ。「中山間地域でも、(離島と同じように)介護事業所の撤退が始まっており、介護報酬や人員基準、さらには補助金等の特例を設けて柔軟に対応しなければ立ち行かない」、「能登北部でも人員基準を思い切って柔軟化する特例をすでに設けている」とした声が挙がった。今後、離島特例のような基準緩和を中山間地域や半島にも広げていくことになるだろう。
さてこうした2040年の人口減の地域の介護サービスの提供体制はいかにあるべきか?そのキーワードは以下の4つだ。規制緩和、地域密着、多機能複合型、連携だ。大幅な規制緩和で人員基準等を緩和する。身近な市町村の地域密着事業で対応する、通所、宿泊、訪問など機能の複合化、そして介護福祉施設の連携とそれを一歩進めた社会福祉地域連携推進法人だ。このように介護に関しても地域別、人口動態に応じた対応が必要となる。こうした介護サービスの提供体制に関するガイドラインも必要ではないのか?
5 医師偏在対策
地域医療構想では、医療人材計画も重要なポイントだ。これから生産年人口が2025年から2040年にかけて1200万人も減少する。一方、高齢化に伴い医療介護福祉に携わる就労者の必要量は増加する。このため2040年、およそ57万人の医療介護福祉分野の就労者不足が見込まれる。
一方、足元の課題は医師の地域偏在対策だ。すでに過疎地域では診療所の医師が高齢化し診療所の閉院があいついでいる。保険制度はあっても医療介護福祉を提供する人が居ないためサービス提供ができないという状況だ。とくに医師数は全国で34万人と増えているのだが、その地域偏在がはなはだしい。
2019年3月の「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」では医師偏在について中間とりまとめを行った。これまで医師偏在の指標としては人口10万人当たり医師数が長らく用いられてきた。これに対して中間とりまとめでは新たな医師偏在指標を以下のようにより提案した。①医療ニーズ及び将来人口・人口構成の変化、②医師の性別・年齢分布、③患者の流出入等、④医師偏在の種別(区域、診療科、入院・外来)、⑤へき地等の地理的要件を考慮。これらの条件から新しい医師偏在指標が示された。
この新たな医師偏在指標については、以下の傾向がある。人口高齢化の高い地域では医師需要が高くなる。患者流入の多い地域でも医師需要が高くなる。一方、医師の高齢化率が高い地域では、医師供給が低くなるという傾向だ。このように作られた新指標は、従来の人口10万当たり医師指標より、医師偏在の実態をより正確に反映していると考えられる。
この新しい医師偏在指標をベースとして都道府県や各地域別の医師潜在状況を数値化することで地域ごとの見える化を計った。まず医師が十分に充足されている上位16都府県を医師多数都府県とし、下位16県を少数県と位置付けた。最も医師が充足している東京は医師偏在指標で「353.9」で、最も不足している岩手は「182.5」だった(図表4)。東京都と岩手は2倍の格差がある。さらに2次医療圏ごとについてみると、全国335カ所の二次医療圏のうち、上位3分の1の112医療圏を多数区域、下位3分の1の112医療圏を少数区域とした。2次医療圏で最も充足しているのは、東京都の港、千代田、中央、文京、台東の4つの区の属する区中央部で、医師偏在指標は「789.8」である。一方最も不足しているのは香川県の小豆「109.0」であった。なんと東京都の区中央部と香川県の小豆では7倍の格差がある。
図表4

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年7月24日
厚労省はこの医師偏在指標を3年ごとに策定される医師確保計画に合わせて見直すことにしている。それと同時に2036年における各都道府県で必要となる医師数を推計している。それによると医師偏在対策が最も進んだ場合でも12道県で合計5323人の医師不足が生じるとしている。一方偏在解消が進まない場合では34道県で2万3739人分の不足が見込まれる。一方東京などでは1万3295人の余剰医師人員が出ることも予想している。
医師確保計画では、まず2019年度中に各都道府県・2次医療圏が医師偏在指標を用いて現状を分析し、医師確保方針、目標医師数、具体的な施策をもりこんだ「医師確保計画」を策定し実施することとした。
具体的には医師少数の都道府県では他地域からの医師確保や、自地域に勤務する医師の養成を計画に盛り込む。また診療科別の医師偏在、特に産科、小児科については特別の確保策を定める。そして2036年度に医師偏在の解消を目指すとしている。こうした医師偏在ガイドラインも今回の新たな地域医療構想ガイドラインの一つである。
6 地域医療構想と医療計画の進め方
さて新たな地域医療構想のガイドラインの今後のスケジュールを図表5で改めて見ていこう。2025年度中にガイドラインの検討と取りまとめを行い、2026年度から各都道府県において新たな地域医療構想がデータに基づいた協議のもと実施に移される。この地域医療構想を上位概念として、第8次医療計画の後期が2026年より始まる。第8次医療計画の後期では2023年に改正医療法で法制化されたかかりつけ医機能に基づくかかりつけ医機能報告と、かかりつけ医機能の医療計画への搭載が大きな課題だ。さらに後期では2030年から始まる第9期の医療計画の指針作りも同時に行われる。
図表5

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年7月24日
以上、新たな地域医療構想、第8次医療計画後期のガイドラインや指針について見てきた。2025年は著者もその一員である団塊世代800万人が75歳以上の後期高齢者となる年だ。そして2040年は団塊ジュニアが65歳以上の前期高齢者となる年だ。そして2040年をピークとして日本の高齢者人口も減り始める。
2025年と2040年の間の15年間は日本の高齢化の最終局面に当たる。2040年を越えれば高齢者人口も減り始め、その後2050年にかけて人口は1億人を割り、高齢化率は40%台で定常化し安定化する時代が訪れる。この時代へ向けて、いかに医療介護福祉をソフトランデイングさせるかが問われている。
参考文献
厚労省 社会保障審議機会医療部会 2025年7月4日
厚労省 第8回新たな地域医療構想等に関する検討会 2024年9月6日
厚労省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会 2024年8月26日
厚労省 2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会 2025年1月9日
厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年7月24日
