
図表1 厚労省 中医協資料 2016年1月27日
敷地内薬局問題が既存の医療モールの課題へと波及している。今回は2025年10月24日の中医協における敷地内薬局の議論を振り返ってみよう。
1 敷地内薬局の経緯
(1)敷地内薬局の発端
敷地内薬局が出来た発端は、2014年10月総務省の行政相談に、以下のような相談が上がったことが始まりだ。「(病院と薬局が)フェンスなどで仕切られていると、身体が不自由な人、車いすを利用する人、子供連れ、高齢者にとっては不便なので、いったん(病院から)公道に出て(薬局に)入りなおすという杓子定規な考え方は見直してほしい」。
隣り合う病院と薬局がフェンスで仕切られているのは、「医薬分業」の考え方の中で、病院と薬局は同じ建物、敷地内に併設してはならないという「構造上の一体禁止」という規制があったからだ。
この規制は1952年の厚生省令の「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」(療養担当規則)の以下の規定に基づく。「保険薬局は、保険医療機関と一体的な構造とし、または保険医療機関と一体的な経営を行ってはならない」。
(2)規制改革会議の公開デイスカッション
以上のような経緯を受けて、2015年3月に内閣府の規制改革会議(岡素之議長)の公開ディスカッションが「医薬分業における規制の見直し」をテーマに開催された。焦点となったのは、医療機関と薬局を構造的に分離する規制、すなわち「フェンス問題」であった。
ディスカッションでは、同会議の健康・医療ワーキンググループの翁百合座長が「薬局と病院が物理的に離れている必要はない」との考えを示し、参加者に意見を求めた。日本薬剤師会の森昌平会長は「一体的な構造になると薬局が機能面で特定の医療機関のものになってしまう恐れがある。面分業は国民の利益につながる」と反対の主張を行った。しかし規制改革会議委員で弁護士の林いづみ氏は「医薬分業が実施され、質の向上や薬価差益抑制にどれだけ効果があったのか」と逆に疑問を呈し、面分業については「経営の独立性が確立されていれば、構造上の独立は関係ないはず」と規制の在り方に否定的な考えを示した。
こうした意見に対し、厚生労働省担当官は「面分業は必要と考えている。また敷地内薬局は門前薬局を助長することになりかねない」、「医薬分業を健全に進める上で、経営上の独立だけでなく構造上の独立を求めていることをご理解いただきたい」との従来の見解を繰り返した。日本医師会は会員に院内調剤を行っている診療所も多いことから、敷地内薬局には反対する意向はない。
(3)規制改革会議答申と厚労省
こうした議論を経て、2015年6月の規制改革会議の答申では、「薬局の構造規制によって医療機関から薬局に移動するには公道等を経由する必要があり、高齢者や車椅子の患者などに不便を強いているとの指摘がある」として、薬局の構造規制を改めるように求めた。そして「厚労省が2015年度に検討し、結論を得て2016年度に措置を行うこと」とタイムリミット付きの検討を求めた。
この結果、厚生労働省側がついに折れて、2016年1月の中医協総会において前述の療養担当規則に定めていた「敷地内薬局禁止」に関する規制を緩和することを決めた。そして2016年3月に厚労省は「保険薬局の独立性と患者の利便性の向上の両立」を図る観点から1996年の療担規則を以下のように見直すとした。
「原則、保険医療機関と保険薬局が同一敷地内にある形態も認める。ただし、保険医療機関の建物内に保険薬局があり、当該保険医療機関の調剤所と同形態なものや両者が専用通路で接続されている形態は引き続き認めない。また、保険医療機関と同一敷地内に保険薬局がある形態であっても、当該薬局の存在や出入口を公道等から用意に確認できないもの、当該医療機関の休診日に公道等から当該薬局に行き来できなくなるもの、実際には当該医療機関を受診した患者の来局しか想定できないもの、さらに保険薬局の経営上の独立性の確保の実行ある措置として、指定の更新時に、不動産の賃貸借関連書類など『一体的経営』に当たらないことを証明する書類の提出を求める」とした。
具体的には図表1で示すように、フェンスを取りはずすことはもとより、敷地内で上記の条件を満たし、地方厚生局が認めれば敷地内薬局を2016年10月から認めることとした。
(4)敷地内薬局の調剤基本料
敷地内薬局を2016年に解禁して以来、初めてとなる2018年4月の診療報酬改定では、敷地内薬局の調剤基本料の新点数である「特別調剤基本料」が決まった。新点数は薬局の調剤基本料の中でも最低の10点となり、その後消費税引き上げで11点となった。その要件は「病院である保険医療機関と不動産取引等特別な関係がある薬局で、その病院の処方せんが95%を超える」ものとした。
当時の改定に当たった薬剤企画官は「医薬分業を行うことと、理想的には地域包括ケアという地域単位の中で面的な分業を行う我々の方向性から(敷地内薬局は)真っ向から逆行する。このため最も厳しい評価とした」と述べた。2020年の診療報酬改定ではさらに11点を9点に引き下げ、処方せん集中率も70%と厳しくした。
(5)診療所敷地内薬局
2020年の改定では、病院ばかりでなく診療所の敷地内の保険薬局にもこの調剤基本料を適応することとした。ただこのときは従来からある医療モールなどの同一建物内にある薬局については除外とする除外規定がただし書きでつけられた(図表2)。
図表2

厚労省 2020年診療報酬改定の概要 2020年3月
そして特別調剤基本料は11点が9点に引き下げられ、2022年改定でさらに9点が7点に引き下げられ、2024年には7点が特別調剤基本料Aの5点となる。
特別調剤基本料Aにおいても先の調剤モールに配慮して、「ただし書き」で当該薬局の所在する建物に診療所が所在する場合は除外とされた(図表3)。
図表3

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
2 敷地内薬局の現状と経営状況
さて敷地内薬局は全国でどれくらいあるのだろう?日本薬剤師会の調べでは、全国の敷地内薬局は、2023年6月時点で371件あるという。その内、病院敷地内薬局の数は、307で、その病院の経営主体別内訳は以下だ。国公立病院98件、公的病院53件、社会保険病院10件、その他病院(民間など)146件。
つぎに敷地内薬局の経営状況を見ていこう。敷地内薬局の調剤基本料が毎回の改定毎に引き下げられ、2022年改定では9点が7点へ、そして2024年改定では5点にまで切り下げらた。しかし敷地内薬局の経営実態は、2022年改定を経ても損益率、損益額はともに増加している(図表4)。
図表4

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
またその薬局の収益構造についても、敷地内薬局の費用としては、医薬品費用とその他の費用のうち土地賃借料、建物賃借料の費用が、他の基本料を算定している薬局よりも突出して高い(図表5)。中には土地賃借料で1億超のところもある。それでもなおかつ損益率、損益額がアップしていることは、敷地内薬局が高収益のビジネスモデルとして成功しているということを意味している。
図表5

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
3 敷地内薬局の除外規定のすり抜け
そして2020年、前述のように病院内敷地内薬局に加えて診療所の敷地内の薬局に対しても同様の調剤基本料を与えることにした。この時に、従来の医療モールの調剤薬局をこの適応から除外した。するとなんとこの適応除外を逆手にとって、医療機関の敷地内薬局が診療所を誘致して医療モール内薬局に変身したのだ。これで調剤基本料の最も低い敷地内薬局からより高い医療モール内薬局等になれる。実際に2020年の診療報酬改定以降も特定調剤基本料Aの薬局と特別な関係のある薬局の開設数が増えている。増えているのは特別調剤基本料Aとそれ以外の医療機関と特別の関係にある薬局の開設数だ(図表6)。
図表6

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
しかも医療機関と特別な関係にあり、処方せん集中率が50%以上であるものの、特別調剤基本料Aを算定していない保険薬局の数は、特別調剤基本料Aを算定している保険薬局の数の2倍以上であった。そしてその内訳は調剤基本料1が約半数と最も多かった。これは同一建物内に複数の診療所がある場合(いわゆる医療モール)、それぞれの診療所が独立して開業している場合、薬局が特定の医療機関に依存していないとみなされる場合には調剤基本料1が算定できるのだ(図表7)。
図表7

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
来年2026年の診療報酬改定を議論する中医協では、この敷地内薬局の要件の「すり抜け」が問題となっている。厳しい意見としてはこの適応除外を廃止してはという意見も出ている。そうなると、これまでの医療モール内の調剤薬局も敷地内薬局の扱いになって、最低の特別調剤基本料Aに引き下げとなってしまう。このただし書きを削除するかどうかが、次回改定の敷地内薬局の最大の論点となっている。
ちなみに総合入院体制加算・急性期充実体制加算を取得する病院については、敷地内薬局が認められていない。この敷地内薬局については「ただし書きを適用しない」との対応がすでに行われている。
4 これまでの医療モールの対応
さてこの「ただし書き」が適用されなくなるとなると困るのはこれまであった既存の医療モールだ。この医療モールにも2つのタイプがある。一つは一つの敷地内に複数の戸建てクリニックが並ぶもの(ビレッジ型)と、一つの建物内に複数の医療機関が入居するもの(ビル型)だ。このビル型、ビレッジ型では診療所が同一建物に存在する場合と特別な関係のあるなしで、特別調剤基本料Aの該当、非該当が決まる。またビル型でも同様だ(図表8)。
ただし書きが適用されなくなると、困るのはこれら特別調剤基本料Aが非該当となる薬局だ。
図表8

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
またビル型の延長で、オフィスビルやマンション内に複数医療機関が存在する場合はビル型と同様、困るのは特別調剤基本料Aが現在は非該当の薬局だ(図表9)。
図表9

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
こうした非該当に対して、ただし書きが除外された場合、一律、特別調剤基本料Aを適応しても良いのかと言う議論がある。
また離島等で薬局を行政が誘致する場合などは、「敷地内薬局と扱わない」と言う特別ルールも検討されている。確かに離島、へき地で住民の薬局アクセスを確保するために自治体病院が保有する自治体敷地に薬局をわざわざ誘致した場合は「自治体病院などの敷地内薬局」となり、特別入院基本料Aとなり薬局の経営が維持できなくなっては元も子もない。こうした事態にどのように対応するかが課題だ(図表10)。
図表10

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
5 特別の関係にある医療機関への情報提供
ところで、病院と薬局との密接な情報連携を促していくことが医療の質の向上には必要だ。たとえば抗がん剤使用患者について、保険薬局が薬学的管理、指導・服用状況、副作用の有無等についてフォローアップし、その情報を医療機関に提供することを評価することだ。これには特別薬剤管理指導加算2がついている。
また喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者については、保険薬局が、吸入薬の説明、練習用吸入器を用いた指導を行いその結果を医療機関に情報提供をしている。そしてこれれを評価する吸入薬指導加算もついている。
ところがこうした診療報酬項目は特別調剤基本料Aを算定する敷地内薬局では特別な関係を有する保険医療機関に情報提供を行ったとしても算定することはできない(図表11)。
図表11

厚労省 中医協資料 2025年10月24日
こうした課題についてどのように考えるかが今後の議論だ。
以上、敷地内薬局問題が医療モールに波及する現状の課題について見てきた。今後、人口の少ない地域においては単一開業の診療所だけでは成り立たない。このため診療所の集約化や医療モール化は避けられないだろう。こうした人口の少ない地域における医療モール問題と都市部の医療モールとは分けて考えていくべきだろう。
敷地内薬局の課題についての中医協の今後の議論に注目したい。
参考文献
厚労省 中医協資料 2016年1月27日
厚労省 中医協資料 2025年10月24日
