
報道によると2025年5月27日にフランス国民議会(下院)は終末期の患者の安楽死を認める「死の援助法」を賛成305、反対199で可決した。カトリックの国、フランスでは長らく安楽死を認めることはなかった。10年前の2016年に可決したクレス・レオネッテイ法でも、死に至るまでの深い鎮静(デイープ・セデーション)は認めたが、それが「安楽死」であるとは認めなかった。
今回、ついにこの一線を越える国民的な判断をフランスは行った。「死の援助法」の対象者は自身で死を決断できる能力があり、重篤で治療困難な病気に侵された終末期の患者で、苦痛を和らげることができないフランス国籍またはフランス在住外国人の成人のみである。死の援助法では患者は自ら薬を投与する必要があり、身体的に不可能の場合にのみ例外的に医師または看護師が投与できるとしている。
これは医療者による自殺ほう助を認めた法律ということだ。すでにこうした法律は2001年オランダ、2002年ベルギー、2009年ルクセンブルグ、2021年スペイン、2023年オーストラリアで認められている。まだ法制化はされていないが、スイス、オーストラリアでは容認されている。
今回のフランスのこの法案が上院に送られ可決されれば、フランスもこれらのヨーロッパの国々に仲間入りということになる。最後まで抵抗し続けていたフランスも自殺ほう助を認める国となる。
ただここに至るまでのフランスでは長い国民的議論があった。最初は2005年の消極的安楽死を認めたレオネッテイ法の成立から始まり、先述の2016年の「深い鎮静」を認めた二人の議員の名を冠したクレス・レオネッティ法へとつながる。そして今回の積極的な安楽死を認める法案へとつながる。それにはおよそ20年の歴史の積み重ねがある。
一方、日本での尊厳死に関する取り組みは、1976年1月に始まった。 当時、産婦人科医で国会議員でもあった太田典礼氏を中心に医師や法律家、学者、政治家などが集まり、日本尊厳死協会(当初の名称は日本安楽死協会)が設立された。それ以来、50年が過ぎたが、その法制化への議論は一向に進まない。成果はアドバス・ケア・プラニング(ACP)「人生会議」と呼ばれるガイドラインのみだ。
これから団塊の世代800万人が死亡する大死亡時代が来る。こうした時代を前に、終末期の権利法である尊厳死の国民的議論を再開したいものだ。