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秋の味覚


 秋の柿のシーズンになると旧横浜病院で経験した食餌性イレウスの症例を思い出すことがある。地方会でいくつかの症例をまとめて報告したこともある。

 ある秋の日、70歳の大の柿好きの女性が嘔吐と腹痛でやってきた。秋になると庭の柿木にたわわになる柿を食べるのが楽しみな女性だ。一日に3-4個食べていたらしい。この女性が突然、嘔吐と下腹痛で救急外来にやってきた。お腹のレントゲン写真をとると明らかに腸閉塞。CTをとると回盲部に異物がある。早速緊急手術になった。出てきたのは案の上、柿胃石だった。

 柿胃石は柿渋の主成分であるシブオールが胃酸で可溶性から不溶性に変化し、これが食物のかすと一緒に凝固して胃の中でできるといわれている。これがたまたま胃の出口の幽門を通過して小腸に入って回腸の末端に詰まったものだった。この女性は手術で事なきをえたが、昔から柿胃石が原因でおきる胃潰瘍や腸閉塞は多かった。いくらおいしいからといって柿の食べすぎに注意したいものだ。

 あと、食餌性イレウスの変わりどころでは昆布イレウスにも出会ったことがある。40歳代の女性、車の運転中、信号待ちの間に都コンブを食べようとした。都コンブの箱をあけてコンブを口に入れようとしたときに信号が青に変わった。あわてて車を発進させたとたん、口にくわえていた都コンブ一束を丸呑みした。その後、3日目に突然の嘔吐と下腹痛で救急外来にやってきた。やっぱり回盲部に異物影がある。手術で回腸末端を開くとなんと、5-6倍の大きさに膨れ上がった都コンブの一束がでてきた。コンブが体内で水分を吸収して膨張して腸に詰まったものだ。信号待ちの間に都コンブを食べるのは体によくない。

 そのほか、魚骨イレウスにもお目にかかった。5月の初鰹の時期、かつおをさばいてしょうが醤油で日本酒で一杯はたまらないが、かつおの骨が曲者だ。かつおのシーズンをだいぶ過ぎて下痢と腹痛でやってきた40歳代の男性。腸間膜の腫瘍の疑いで手術になった。開腹すると回腸の腸間膜に鶏卵大の腫瘤がある。切除して中をあけてみるとかつおの太い骨を中心にできた膿瘍だった。2センチぐらいのかつおの骨が腸管を突き破って腸間膜内に膿瘍を作ったものだった。かつおの骨とわかったのは手術後に、本人が「あつ、そういえばかつおを食べたあとに骨がのどにひっかった気がした」と言ったからだ。魚骨がさらに肛門まで達して肛門周囲膿瘍を作ったという例もある。さかなの骨の丸呑みには気をつけたいものだ。

 それにしても、食べ物にまつわる珍談奇談はつきない。こういうわたしも数年前に秋のきのこシーズンに紫しめじを食べすぎて2日間下痢が止まらなかったことがある。食欲の秋、心して秋の味覚をあじわいたいものだ。           

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