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零売薬局


 「零売(れいばい)」とは処方箋医薬品を処方箋なしに薬局が患者に小分け販売することだ。零売は明治時代から行われていた。これが2025年の改正薬機法で原則禁止となった。

 そもそも零売という言葉そのものが奇妙だ。もともと明治時代の薬品営業薬取扱規則(薬律)の時からの言葉だ。零(れい)と言う言葉にはゼロと言う意味と、細かなと言う二つの意味がある。その後者の例としては零細(れいさい)、零落(れいらく)と言う使い方だ。ゼロではないがゼロに近いくらい細かいという意味だ。

 明治時代に始まった零売だが、もともとは薬局同士の医薬品の分割販売のことだった。いわばバラ売りのことだ。大包装の薬をばらして、薬局同士で融通しあったことに、そのルーツがある。薬の在庫を切らした薬局が、近くの薬局から購入して在庫に回すという方法だ。この零売が患者相手に販売することが可能になったのは以下の経緯からである。

 それは2005年の薬事法改正が始まりだ。薬事法改正で、薬局での医療用医薬品の販売は「原則として処方箋が必要」とされた。その一方で、「やむを得ない場合に限り、患者に対して必要最小限の数量を対面で販売することは妨げない」という例外規定が示された。この2005年の通知前後から、法律上の建前としての「例外的な患者への対面小売り(零売)」の枠組みが整えられてきた

 その後、2013年の薬事法改正で「薬局医薬品(処方箋医薬品以外の医療用医薬品を含む)」の区分が新設され、「必ず対面で販売しなければならない」というルールがより明確化された。この法整備やインターネット販売全盛への流れを背景に、「病院に行く時間がない人が、薬局で薬剤師のカウンセリング(対面)を受けて病院の薬を買う」というビジネスモデルとしての零売薬局が都市部で急増し、広く認知されるようになった。

 零売対象医薬品としては医療用医薬品のうち「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」と呼ばれる医薬品で、比較的安全性が高く一般の薬に近い成分を含む約7,000品目だ。解熱鎮痛薬・痛み止め(ロキソニン、カロナール、各種湿布や痛み止めの塗り薬) 、アレルギー性鼻炎薬(花粉症などのアレグラ、アレジオン、クラリチン、オロパタジンなど)、ビタミン剤・滋養強壮(ビタミンC、ビタミンE、トランサミン、アリナミンFなど)、 胃腸薬・整腸剤(ガスター、ビオフェルミン、ミヤBM、酸化マグネシウムなど)、皮膚科薬(ヒルドイド、一部のステロイド軟膏・非ステロイド軟膏)、点眼薬・鼻炎薬(ドライアイ用の目薬、花粉症用の点眼・点鼻薬)、漢方薬(ツムラなどの医療用漢方エキス製剤、葛根湯、防風通聖散など)。

 この零売医薬品リストをみて著者は「な~んだこれってOTC類似薬のことじゃないか」と思った。「零売を解禁すれば、いまのOTC類薬の議論などしなくてもすむのでは?」とも思った。

 ところがそうはいかない。2010年代〜2020年代前半にかけて「零売薬局」が都市部で増え始めたのだ。なかにはセルフケア薬局や零売薬局という看板をかかげた薬局が現れ始めたのだ。確かにニーズもある。「病院に行く時間がない」「市販薬(OTC)より医療用医薬品を安く・手軽に買いたい」というニーズの高まりだ。一方で、本来「やむを得ない場合(不測の事態で手元に薬がない等)」の例外であるはずの零売を日常的に大々的に行う薬局が増えたことで、安全性・適正使用の観点から問題視する声が強まりだした。

 これを受け、厚生労働省は2022年に適切な販売方法についての再周知を行った。さらに2025年の薬機法改正で零売に対する規制を強化した。 これまでは主に「通知」ベースで運用されてきた零売だが、医薬品の安全性や適正使用を盾に「零売は原則禁止」を法律の条文として明確化したというわけだ。

 なんとも紆余曲折をたどった、零売の道のりだ。

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