
図表1 厚労省 標準型電子カルテ検討ワーキンググループ 2023年12月14日
国の電子カルテ導入目標は「2030年までに全国の医療機関で電子カルテを導入」することだ。このため、2025年度中に「標準仕様(基本要件)」を策定し、2026年度までに「標準型電子カルテ」を完成することになっている。
しかし現状では電子カルテシステムの普及が道半ばだ。2023年時点では一般病院の65.6%、一般診療所の55.0%である。病院の規模別に見ると、400床以上病院では93.7%、200~399床では79.2%、しかし200床未満では59.0%だ。
さて標準型電子カルテとはクラウド型電子カルテを想定している。本稿ではこのクラウド型標準電子カルテの病院への導入の現状と普及促進策について見ていこう。
1 オンプレミスからクラウドへ
(1)オンプレミス型からクラウド型システムへ
これまで病院では電子カルテ、レセコン、部門システムなどの医療情報システムは主にオンプレミス型システムを採用してきた。オンプレミスのプレミスとは敷地や施設を意味する。このためオンプレミスとは敷地内や施設内と言う意味だ。
オンプレミスの課題はこれらの医療情報システムの設備や人員を自前で院内に準備する必要があることだ。またサイバーセキュリテイ対策も自前で行う必要がある。また診療報酬改定時のシステム改定作業も自前で行う必要がある。こうした経費が昨今の経営赤字に苦しむ病院の経営をさらに圧迫している。
また今後の生成AI等の最新技術や各種のサービスを取り入れるなどの機能拡張も自前で行わなければならない。生成AIにより支援を受けるAIホスピタルはすでに現実のものとなりつつある。こうした最新技術をその技術進歩に合わせて院内で自前で準備することは、もはや経営的に無理だ。
こうしたオンプレミスの制約を取り除く決定版が、外部にこれら電子カルテやレセコン、部門システムを一体的に移管する「クラウド型」の導入だ。クラウド型であれば、院内にそれまでの医療情報システムと設備を抱え込むことがなくなり経費の節減につながる。さらに診療報酬改定時のカスタマイズ作業や生成AIなどの機能拡張も低費用で行えるだろう。一方、クラウド化にも課題はある。クラウド化にあたっては初期費用がかかる。しかもその後はクラウドサービス利用料が発生する。
国は「医療DX令和ビジョン2030」の政策方針のもと、現在のオンプレミス型のシステムを刷新し、電子カルテ、レセコン、部門システムを一体的にクラウド型システムに移行することを計画している。目標は2030年のできる限り早い時期に、クラウド型を希望する病院が導入できる環境を整備するとしている。
(2)クラウド型システムへの移行プロセス
具体的には、複数病院で同じクラウド型システムを共同利用する方式や、クラウドのメリットを活かすためのマネージドサービスの活用を図る。マネージドサービスの例としては、システムの保守やアップデートをクラウド上で専門の業者が行うことで、医療機関は本業の経営に集中できる。またデータバックアップや不正アクセスなどを含む高度なセキュリティ対策もクラウド上で行う。そして必要に応じて利用範囲を拡大できる柔軟なスケーリング機能もクラウド上で行う。このようにクラウド化を行うことにより、初期費用を抑えつつ、月額料金で最新のシステムを維持することができる。
クラウド型システムへの移行は、まず国が標準仕様を示し、その標準仕様に準拠した病院情報のシステムを民間事業者が開発し、小規模病院やグループ病院等から段階的な普及を図る。国はこの標準仕様を2025年度をメドに完成させるとしている。
標準仕様に準拠した病院情報システムはインフラからアプリケーションまでを共同利用することとし、医療機関ごとに生じていた個別のカスタマイズ費用を極力抑制する。これにより病院情報システム費用の低減・価格抑制を行い、病院ごとに生じていたシステム対応負荷の軽減を図る。この標準仕様に準拠したシステムへの円滑な移行のため、データ移転の互換性の確保を計る。また国の電子カルテ情報共有サービス等とのクラウド間連携を進める。上記と並行して、医薬品・検査等の標準コード・マスタ、並びにこれらの維持管理体制の整備を進めると共に、現場における標準コード・マスタの利用の徹底を図る。
(3)クラウド化の課題
2024年12月の厚労省の「健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ」では上記のクラウド型電子カルテについて以下のような意見もあった。
「大規模な医療機関では部門システムや医療機器との接続が複雑であるため、まずは比較的病床規模が小さく、機能も少ない病院から進めるとよいのではないか?」、「クラウド型は必ずしもコストが下がるわけではなく、かえって高くなるケースもあるため、慎重な検討が必要」、「セキュリティパッチ等のサポート対応をクラウド事業者に任せることで、医療現場におけるセキュリティ対応への負荷軽減を期待できる。しかし一方、セキュリティ障害については、全面的なシステム障害発生リスクへの対策等、クラウドならではの検討が必要」、「ベンダー変更が難しい点への対応や、価格の透明性の確保が必要」、「開発されたシステムが国の標準使用に準拠しているかどうかの点検も必要」など。
2 クラウド型の標準型電子カルテ
(1)標準型電子カルテとAPI連携
ここからはクラウド上に配置する標準型電子カルテについて見ていこう。クラウドに配置した標準型電子カルテは国が進めている医療DXの一つである「全国医療情報プラットフォーム」のシステム群や、民間事業者が提供するシステム群(オプション機能)とAPI連携機能を実装すべく、検討中である。API(Application Programming Interface)連携とは、異なるソフトウェアやシステム間でデータをやり取りし、機能を共有する仕組みのことだ。APIを介して、アプリケーションやサービス間で情報を連携させ、機能拡張や業務効率化を計る仕組みだ。冒頭の図表1にそのイメージ図を示す。
現在、この標準的電子カルテの開発はデジタル庁を中心にプロダクトチームを編成し、医療機関システムの変革に意欲的な民間ベンダーの参加をつのり、モデル医療機関に適宜ヒアリングを行いながら実施している。2025年の現状では、標準電子カルテ「α版(試行版)」の要件定義を踏まえ、α版の開発事業者が決定し、4月中旬よりシステム開発に着手し、現在、設計仕様の検討を進めている。そしてこのα版を一部の医療機関を対象に試行し、それらの結果を踏まえて、「本格版」を電子カルテ未導入の200床未満の中小病院または診療所で実施する予定だ。α版では、支払基金にサーバーが置かれている全国医療情報プラットフォームと以下の連携機能を検証することになっている。標準型電子カルテと医療機関のレセコンシステム、部門システム、院外の外注検査センター等の院外システムとの連携機能の検証。
α版では全国医療情報プラットフォームとの連携により、オンライン資格確認等システムで閲覧可能な患者の特定健診等情報やレセプトから抽出される診療行為、薬剤情報、電子カルテ情報共有サービスから得られる傷病名、アレルギー情報、薬剤禁忌情報、感染症情報、検査情報、処方情報等について患者本人の同意のもと閲覧が可能となる。さらに診療情報提供書を紹介先医療機関に電子的に共有することも可能となる。さらに電子処方せん管理サービスで扱うリアルタイムの処方・調剤情報にもアクセス可能となり、重複投与の防止にも役立つようになる。
クラウド型の電子カルテでの本格実施においても、当初よりこうした機能が標準搭載されるため、これらの情報取得が容易となる。またその後のさまざまな機能追加、たとえばAI問診表、AI病名診断、AI画像診断、AI処方提案などの機能追加なども容易に行うことができる。
(2)標準型電子カルテ自体の標準化と本格実施
上記のような標準型電子カルテのAPI連携には電子カルテ自体、すなわち内部コードの標準化が必要だ。また医療DXや外部システムとの連携には、連携のための標準的なデータ交換規約であるHL7FHIR(エイチエルセブンファイアー)の搭載が必要だ。さらに標準化された電子カルテでは標準化されたデータ構造やコードマスタの標準化が必要だ。
このようにしてα版の標準型電子カルテは2025年中にモデル事業として実施し、その経験を活かして2026年には本格実施の予定である。なおα版では紙カルテとの併用版も試行することになっている。
さて2026年から標準型電子カルテの本格実施が始まる(図表2)。実施はまず200床未満の中小病陳で電子カルテが未実施の病院群より始まる。またすでに電子カルテが導入されている病院で、院内の医療情報システムが更新時期に入っている病院も対象となる。院内の医療情報システムの更新は5~7年ごとに訪れる。こうした更新時期にクラウド型電子カルテへの置き換えが起きるだろう。
図表2

厚労省 社会保障審議会医療部会 2024年10月30日
3 医療情報化支援基金
こうしたクラウド型標準型電子カルテを支援する補助金としては「医療情報化支援基金」が準備されている。医療情報化支援基金とは、2019年10月に創設された補助金制度の一つであり、医療分野のICT化を支援することが目的だ。この支援基金の対象は以下の二つである。①オンライン資格確認の導入に向けた医療機関・薬局のシステム整備の支援、②電子カルテの標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入の支援。
②の電子カルテの標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入支援では、前述の標準的な電子カルテ導入を支援するための補助金だ。目的は国の指定する標準規格を用いて相互に連携ができる電子カルテを医療機関が導入することだ。。
国が指定する標準規格には、前述したように以下の下記4項目を備えることが必要だ。「情報コード」、「情報フォーマット」、「データ格納方法」、「情報交換方式」。
このポイントとしては、下記2つが挙げらる。
➀医療機関間・システム間でのデータ交換に当たり、アプリケーション連携が非常にしやすいHL7 FHIRの規格を用いてAPIで接続する仕組みを実装するものであること。
➁標準的なコードとして、厚生労働省標準規格のうち、検査・処方・病名等の必要な標準規格を実装するものであること。
また、電子カルテからの抽出情報の標準化では、標準化する範囲についても下記の4文書、6情報の内容となっている。4文書とは「診療情報提供書」、「退院時サマリー(キー画像含む)」、「電子処方箋」、「検診結果報告書」。6情報とは感染症、災害、救急等の対応に万全を期すため、「傷病名」、「アレルギー情報」、「感染症情報」、「薬剤併用禁忌情報」、救急時に有用な「検体検査結果等の情報」、「生活習慣病関連の情報」。
また中小企業向けのIT導入補助金もある。対象は中小企業・小規模事業者等の業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金だ。電子カルテをはじめ、相談対応等のサポート費用やクラウドサービス利用料等も補助対象に含まれている。
また各自治体独自の支援制度があり、対象や金額は地域により異なる。具体的には導入費用の半額補助や、研修費用の支援などがある。病院経営の大赤字が続くこの時期、こうした補助金を総動員して標準型電子カルテの導入の検討を行ってはどうか?
参考文献
厚労省 標準型電子カルテ検討ワーキンググループ 2025年1月31日
厚労省 健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ 2024年12月2日
厚労省 医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム 2025年1月22日
厚労省 標準型電子カルテ検討ワーキンググループ 2023年12月14日
厚労省 社会保障審議会医療部会 2024年10月30日
武藤正樹 医療・介護DX~コロナデジタル敗戦からAIまで~日本医学出版社 2024年
