
図表1 著者が始めて出会ったクリティカルパス(1995年3月シカゴ)
わが国でクリティカルパス(以下、パス)が導入されたのが1990年代半ば、それからはや30年が過ぎた。今ではパスを使うのが当たり前で、その意義について改めて思い起こすことが少なくなってきた。そこで本章ではパスの原点にもう一度立ち返り、その本質を振り返って、パスの課題と将来への展望を一緒に考えてみよう。
1.パスとの出会い
著者が最初にパスに出会ったのは、今から約30年前の1995年3月のシカゴだった。それは旧国立医療・病院管理研究所に勤務していたとき、米国シカゴに本部のある米国の医療機能評価機構であるジョイントコミッション(Joint Commission:JC)の10日間の研修に参加したときのことだ。研修では主に座学で病院の機能評価のためのスタンダード集を学んだ。その研修の最終日にシカゴ郊外のコミュニティポスピタルを見学して、初めてパスに出会った。
今でもその時のことをよく覚えている。整形外科の病棟を見学したときに、看護師さんがパスを使っていた。当時、米国ではケアパスと呼んでいた。「これは一体何なの?」と近くにいた病棟看護師さんに聞いてみた。そうしたら「これはケアパスといって、疾患別に作る診療プログラムです」という返事だった。看護師さんによると「年配の医師は、こんな定型的なプログラムで縛られるのは嫌だと言う人が多いけど、若いレジデントには好評だ」という話だった。それに「アウトカムが明確になっているため、みんなで目標を共有できるので、看護師は熱心に取り組んでいる」と言っていた。
図1はその見学先の米国イリノイ州のセントラル・デュページ病院の病棟で使っていた頸椎手術のパスだ。アウトカムや退院計画も入っている。今でも使えそうなパスだ。
2 米国におけるパスのルーツ
さてパスのルーツは製造業における工程管理技法に由来する。製造業の分野ではこれまでに工程管理やプロジェクト・マネジメントの技法が数多く開発されてきた。たとえばそのひとつに「ガント・チャート」がある。ガント・チャートは時間を横軸にして、各工程を縦軸にして、工程の所要期間に比例した長さで表した工程管理図で、1917年ヘンリー・ガントが造船作業に使用したのが最初であるといわれる。このガント・チャートが実は、現在、臨床で応用されているパスの原型である。
また「クリティカルパス」という用語は1960年代の米国で工程分析技法であるPERT(Project Evaluating Review Technique)に由来する。PERTというのはガント・チャートと同様、複雑なプロジェクトの工程を効率的に管理する技法として始まった。PERTは1950年代にアメリカ海軍がポラリス原子力潜水艦を製造するときに開発したという。その後、PERTは1960年代にデュポン社などで、一般企業の民生品の製造工程の管理にも応用されるようになる。このときにPERTでは、複雑な工程計画や管理計画をより視覚的にわかりやすく、矢印線によるネットワークの形で表現したアロー・ダイヤグラム方式が開発される。さて、このPERTのアロー・ダイアグラム上では、製品納期の上でボトルネックになる工程を「クリティカルパス(臨界経路)」よんだ。これがクリティカルパスの語源だ。
さて、こうした工程管理技法を病院臨床に応用したのは、米国のボストンのニューイングランド・メデイカルセンターの正看護婦のカレン・ザンダー氏で、1984年のことであった(図表2)。以来、パスは米国では疾患別・ 処置別にケアに係る医療チーム全員で、診療ガイドライン等に基づいて作成する診療計画表として広く使われるようになった。
図表2 カレン・ザンダー氏

ザンダー氏が、病院医療にこうした技法を導入した背景には、ちょうどこのころ米国で、疾患群別の包括支払い方式であるDRG/PPSが導入されたことが大きく影響している。DRG/PPSの制度環境下では、あらかじめ疾病別に決められた入院日数の中で、あらかじめ決められた定額支払い額のもと、すべてのケアプロセスを組み立てなければならない。このために入院医療の工程でも、事前に定まった入院期間内に従来のケアの質を維持しつつコストを抑えたケアの組み立てが要求されるようになった。このような事情から、米国ではパスを以下のように定義している。「パスとはDRGが決めている入院期間内に標準的な結果を得るために患者に対して最も係わる医師、看護師がおこなうべき手順と時間のリスト」(マッケンジー1989年)。
私事にわたるが、ちょうどDRG/PPSが導入されたこの時期、著者も旧厚生省の留学でニューヨークで病院留学をしていた。病棟研修をした内科病棟では、レジデントがまだ始まったばかりこの制度を要約したDRGブックという小冊子を胸のポケットに入れて持っていた。この小冊子には疾患別の入院期間を示してある。驚いたのはその入院日数の短さだ。結核の入院日数がなんと14日というくらいの短さだ。「結核を14日で退院させても大丈夫なの?」と指導医に聞くと、「大丈夫だ、抗結核薬を投与しているので、退院しても周りに感染させることはない」という。
3 わが国でのパスの歴史
さて、わが国でのパス導入の最初となったのは、1996年ごろの東京都済生会中央病院の脳梗塞パスと考えられる。以前、東京都済生会中央病院に在籍していた看護担当副院長の山崎絆先生に脳梗塞パス開発のお話を伺ったことがある。山崎絆先生は、「4日間の脳梗塞のパスを作るのに、当時は3カ月ぐらいかかった」と言っていた(図表3)。このように1990年代の中ごろから少しづつではあるがパスに関心を持つ病院が増えてきて、関連する文献も国内で発表されるようになってきた。
図表3 東京済生会中央病院の脳梗塞パス(1996年)

著者も先述した米国のシカゴの研修から帰国した後に、1995年に国内の雑誌にこの視察報告を兼ねてパスを紹介した(文献1)。しかし、1995年当時には、まったく反響はなかった。ところがその後数年して、突如として1998年ごろよりパスブームが国内で始まる。ブームの最初の火付け役は急性期病院の看護師さんたちだった。パスによる業務の標準化、業務改善が現場の看護婦さんたちの心をとらえた。そして次に病院の院長や副院長などの経営層が、パスの平均在院日数短縮効果やチーム医療効果、患者への説明ツールとしての効果に注目しはじめた。さらに1998年10月からの国立病院における疾病群別の定額払い制のDRG/PPSの試行が開始されたこと、2000年4月の診療報酬改訂で「詳細な入院診療計画」としてパスの様式が保険収載されたこと、2003年4月からの大学附属病院における診断群別包括支払い(DPC/PDPS)がスタートするなど、制度的な要因も重なってパスブームが一挙に加速してきたといえる。
こうしたブームの先駆けの一つとなったのが、クリティカルパス研究会だ。著者と当時NTT東日本関東病院の新任の看護部長だった坂本すが氏と一緒に1999年に立ち上げた。最初、お茶の水で開いたクリティカルパス研究会には50名ほどの看護師さんが集まった。この研究会がもとになってその後、日本医療マネジメント学会が発足し、同学会は現在の会員数が8000人にまで成長した。また1998年には坂本すが氏と一緒に日本で最初のパスの教科書である「基礎からわかるクリティカルパス作成活用ガイド」(日総研出版1998年、文献2)を出版したのも、いまでは懐かしい思い出だ。この本はなんと1万部以上も売れた。
4 DPCとクリティカルパス
前述したように2003年4月からの大学附属病院における診断群別包括支払い(DPC/PDPS)がスタートした。このDPC/PDPSが国内でのパスの普及に大きな影響を与えた。
著者もその当時勤務していた国際医療福祉大学グループの関連病院の国際医療福祉大学三田病院(東京都港区)にDPCが導入されたのを契機に、DPCに対応したパスの導入を同病院で行った。DPC対応型のパスの作成のポイントは以下である。まず各科の診療部長や病棟師長を診療科別に集め、DPC分析ソフトを用いて各診療科の患者数の多い上位3疾患について、パスの見直しを行った。DPC対応型のパスでは、まず在院日数をDPCの疾患別の平均入院期間Ⅱ以内に収めることから始めた。それにはそれまでの術前・術後の在院日数と診療内容を見直さなければならない。このためそれまで術前検査を入院で行っていのを、外来に移行した。さらに術後入院日数についても、早期離床を促し、術後絶食期間を見直して早期経口摂取を行うなど、術後から退院までの期間を短縮した。さらにDPCの包括部分について医薬品や医療材料の見直しを行った。注射薬でジェネリック医薬品があるものは、ジェネリック医薬品や安価な医療材料に置き換えた。また入院中の検査も最小限に抑えることにした。また術後化学療法を外来への移行させた。このようにDPCによってケアプロセスを各診療科、各疾患ごとに大幅に見直しを行った。
そしてDPC分析ソフトを使って、見直し後に疾患別の原価計算をしてどれくらいDPCによる黒字が算出されるかを検証した。われわれはこれを赤字のパスを黒字化するということで、「赤パス黒パス」作戦と名付けて実施した。図表4は白内障手術の赤パス黒パス作戦の例である。白内障手術の在院日数の短縮と、医薬品や検査などの診療プロセスの見直しを行って黒字化した。
図表4

このような準備のもと国際医療福祉大学三田病院では、2008年7月からDPCに突入した。それまでにDPC対応型パスに置き換えたことによって、在院日数の短縮や使用薬剤や医療材料、検査見直しで黒字パスが増えて病院の経営改善にも大きく貢献した。図表5にDPCにおけるパスの見直しの一覧を示す。
図表5 DPCにおけるパスの見直し
- 在院日数の見直し
・術前・術後在院日数の見直し
- 医薬品の見直し
・注射薬・内服外用薬の見直し、絞込み
・注射薬のジェネリック医薬品への置き換え
・化学療法の外来移行
・患者持参薬の使用
- 検査・画像診断の見直し
・検査、画像診断の絞込み、外来への移行
- 医療材料の見直し
- 術後ケアプロセスの見直し
・術後絶食期間の分析
・早期離床
・早期経口摂取
5 ERASパスの導入
このようなパスによるケアプロセスの見直しの一つにERAS(イーラス)が上げられる。ERASとは術後回復促進プログラムのことで、”Enhanced Recovery After Surgery” の頭⽂字をとった⽤語だ。ERASはデンマークの外科医のケーレット教授が提唱し、2001年頃から北欧や英国を中⼼に活用が始まった。具体的には多職種が連携するチーム医療を中⼼にした集学的な周術期管理プログラムで、⽇本でも2009年頃から行われはじめ、われわれもパスの見直しの時に参考にした。
では、改めてERASとは何かを見ていこう。ERASの定義は提唱者のケーレット教授もその運営に参加している「ERASソサエテイ」の公式ホームページでは以下のように述べている。「ERASとは術後回復強化プログラムのことで、外科手術患者の早期回復を達成するための周術期の集学的ケアパスのことである」。ERASはいわば術後の回復を促進させるための、周術期のさまざまな工夫のパッケージで、術前・術後の絶飲食期間の短縮、十分な術後鎮痛、早期離床を軸として、外科医・麻酔科医・看護師・栄養士などの多職種によるチーム医療で成り立っているプログラムのことだ。また手術室看護師による術中の患者保温の徹底や、病棟看護師による早期離床のサポートや声かけ、麻酔科医による最適な鎮痛方法の選択が必要不可欠ともいえる。
ERASの適応疾患は、もともとは大腸がん手術から始まったが、現在はその適応が拡大して、以下の手術が適応となる。大腸がん、胃がん、食道がん、肝臓がん、婦人科、心臓血管外科、泌尿器科、呼吸器外科などが挙げられる。
ではERASの具体的なステップと17のプロトコールを以下に見ていこう。ERASのステップは大きく、術前、術中、術後の3ステップからなる。
(1)術前のポイント
- 入院前カウンセリング
ERASでは従来からの手術説明に加えて、退院目標や社会復帰目標等を提示した上で、患者の目標や要望を聞いて、これをチーム全体で共有することに重点をおく。
- 消化管の術前処置は行わない
従来の術前処置には下剤と浣腸による消化管処置が欠かせなかった。しかしERASでは下剤を使っての術前処置に科学的根拠がないことから、下剤をできるだけ使用しないこととした。著者もかつて経験したことだが、高齢者に術前処置で浣腸をおこなったところ排便後にショックになって手術の延期をしたことがあった。
- 絶飲食の見直し
従来、手術前には前日から絶食で当日は絶飲食で脱水予防のために末梢静脈の点滴輸液をすることが当たり前だった。これをERASでは廃止し、その代わり炭水化物飲料を術前に与えることとした。点滴を止めたことで、看護師の手間がはぶけて医薬品費の節減にもつながった。
- 前投薬なし
従来は手術の前日に睡眠薬、当日に麻酔前投薬を行っていたが、ERASでは必要に応じて前日に最小限の下剤を与えるが、それ以外の前投薬は廃止して、患者は歩いて手術室へ向かう。おかげで朦朧とした状態で手術室にはこばれて、人違いをされるという、手術室の患者誤認事故も防げる。
(2)術中のポイント
- 経鼻胃管なし
従来は手術後にも経鼻胃管を留置することがあたりまえだった。しかしERASでは手術室で患者が麻酔から覚醒する前に経鼻胃管を抜去する。経鼻胃管を抜くことで、術後の呼吸器合併症や術後の悪心・嘔吐を予防する。以前は患者の大きな苦痛は、術後の経鼻胃管の留置だった。これがなくなっただけでも患者にとっては福音だ。
- 硬膜外麻酔による鎮痛
従来の術後疼痛管理では、鎮痛剤や麻薬を投与してきたが、ERASでは硬膜外麻酔による鎮痛を主体とする。これにより腸管運動を抑制せず早期の経口摂取や離床が可能となる。
- 短時間作用型麻酔薬の使用
従来は長時間作用型の麻酔薬が使用されていて、術後の覚醒が不良であった。これに対してERASでは短時間作用型の麻酔薬を導入することにより、覚醒が早く早期の経口摂取や離床が可能となった。
- 輸液、塩分の過剰投与・摂取を避ける
従来は点滴による水分補給で水分過剰となり、腸管運動が抑制されたり、創傷治癒の遷延が起きていた。このため輸液、塩分の過剰投与、摂取を避けることで腸管の運動を良くして術後回復を促す。
- 排液ドレーン留置なし
従来は手術後の後出血や縫合不全の監視のために観察用の排液ドレーンを挿入していた。ERASではドレーン留置は感染機会を増やすし、痛みを増強するので、排液ドレーン留置は行わないこととした。排液ドレーンの長期留置ほど不合理な外科習慣はない。どうしても必要なら閉鎖式排液ドレーンをもちいて、それも短期間で抜去することだ。それで遺残膿瘍がみつかったらCT下でドレナージすればよい。
- 体温管理・温風式保温
従来は術中の患者体温保持の注意が不十分であった。ERASでは手術室で患者を低体温から守ることに注力する。低体温は出血量を増やし、また術後や創傷感染や治癒にも関連しているので極力、保温に留意する。
(3)術後のポイント
- 離床促進
従来は「痛い、動けない、食べられない」ために患者は数日間、寝たきりで離床が遅かった。これに対してERASは「痛くない、動ける、食べられる」ために、患者は看護師やリハビリセラピストの援助のもと、手術当日あるいは翌日から離床歩行を開始する。
- 麻薬非使用の鎮痛
従来はモルヒネなど麻薬系の鎮痛剤も使われていた。ERASでは麻薬系鎮痛剤は使わない、鎮痛は非ステロイド系鎮痛剤かアセトアミノフェンを使用する。
- 悪心・嘔吐の予防
従来は術中麻酔や術後の麻薬系鎮痛剤で術後の悪心・嘔吐が多かった。ERASではこのため術中から悪心・嘔吐を予防する薬剤を使用する。また患者にとって悪心・嘔吐は早期の離床や食事開始を遅らせることになるので、十分に注意を払う。
- 腸管ぜん動運動の促進
従来は腸管ぜん動運動に対しての対策はあまり行わなかった。ERASでは腸管ぜん動運動を促進するために早期経口摂取や腸管ぜん動促進剤を使用する。
- カテーテル早期抜去
従来はカテーテル早期抜去をあまり意識しなかった。ERASでは手術室で経鼻胃管を抜いたり、術後も尿道カテーテルや点滴の早期抜去を励行する。とくに尿道カテーテルは尿路感染の原因にもなるので、早期抜去することが重要だ。
- 周術期経口栄養
従来は術前・術後の長期にわたる絶食と点滴による栄養補給が続いていた。これをERASでは術直前まで食事摂取をおこない術前点滴は経口補水とし、術後は早期に経口摂取を開始することとする。たとえば術後第一日から固形食、術後食を開始し、早期に形態・量をアップしていく。
- 予後・遵守状況の調査
従来は必ずしも行われていなかったが、ERASでは患者の術後を調査・追跡、フィードバックしてERASのプロセスの改善を図っていく。
このERASによる効果も報告されている。たとえば2011年9月より大腸がん手術にERASを導入した手稲渓仁会病院(札幌)では、大腸がん手術において在院日数が3.1日短縮し、その医療費も1入院あたり平均約20万円の削減効果が認められた。その内訳は在院日数の短縮効果のほか、1症例あたり平均8300円の医薬費品費の節減したことにあるという。
こうしたERASの効果から、我々はERASを診療報酬の評価を外科系学会社会保険委員会連合(外保連)を通じて国に要望したことがある。ERAS加算(「周術期早期回復加算(仮称)」)として厚労省保険局医療課に要望した。しかし結局、実現はしなかった。ただERASのような画期的なケアプロセスの見直しをパスに取り入れていくことは今後とも大事である。パスの真骨頂はこうしたケアプロセスの見直しにあるからだ。
6 パスのアウトカム研究
さてパスの意義はケアプロセスの見直しにある。こうしたケアプロセスの見直しによってもたらせたアウトカムの研究も欧米では盛んだ。ここからはパスのアウトカム研究について見ていこう。まずアウトカムとは一体なんだろう。アウトカムとはパスによって期待される成果、達成すべき目標、予測される結果、あるいはゴール、エンドポイントのことを指す。このパスのアウトカムには4種類のアウトカムがある。①臨床的アウトカム、②在院日数アウトカム、③財務的アウトカム、④患者満足度である。➀臨床アウトカムには、合併症、身体機能、自覚症状、患者理解などがある。②在院日数アウトカムはその短縮、あるいは延長である。③財務アウトカムとしては医療費や患者自己負担分が挙げられる。④患者満足は満足度調査によって得られる患者満足度あるいはクレーム等が挙げられる。
欧米ではパスのアウトカム研究、アウトカム評価研究が盛んだ。いくつかの事例を見ていこう。
事例1 股関節・膝関節の人工関節置換術パス
オーストラリアの股関節と膝関節の人工関節置換術パスのランダム化研究を紹介しよう。パスを使用した92人のパス群と通常診療をおこなった71人の2群間の比較研究だ。結果はパス使用群では座位、歩行できるようになる期間が通常診療群よりも早かった。在院日数はパス使用群7.1日、通常診療群では8.6日でパス使用群で短かった。合併症発生率はパス使用群で11%、通常診療群で28%でパス使用群で低かった。再入院率はパス使用群で4%、通常診療群では13%で、やはりパス使用群で低かった。
出典MM Dowsey et al. Clinical pathways in hip and knee arthroplasty:a prospective randomoized controlled study.Medical Journal of Australia 1999 170 :Kr-62
事例2 人工膝関節手術のクリティカルパス
米国の人工膝関節手術パス前後の比較研究である。パス使用前後で、在院日数5.1日から1.9日と短縮した。術中の手術足の阻血時間(タニケット時間)はパス使用前61分から使用後56分に7分の短縮が見られた。また医療費はパス使用前後で1000ドル以下削減が見られた。
出典 Scranton, P. E. Jr. (1999). The cost effectiveness of streamlined care pathways and product standardization in total knee arthroplasty. Journal of Arthroplasty, 14(2), 182-6.
事例3 小児心臓手術パス
米国の小児先天性心臓手術において、パス群でNICU滞在時間が短縮し、臨床検査数が減少し、入院日数が4.9日から3.1日に短縮した。医療費は通常診療群では1.6万ドルがパス群では1.4万ドルに減少した、両群では、肺合併症などの合併症率は変らなかった。
出典 Price, M. B.,et al Critical pathways for postoperative care after simple congenital heart surgery. American Journal of Managed Care, 5(2), 185-92.1999。
事例4 市中肺炎のクリティカルパス
カナダの市中肺炎の患者1743人のパス群と通常診療群の2群間比較研究である。在院日数はパス群5.0日、通常診療群で6.7日であった。パス群で抗生剤の単剤使用が64%と多かったのに対して、通常診療群で27%と少なかった。死亡率、再入院率、合併症発生率、QOL指標では差異がなかった。
出典 TJ Marrie et al. A controlled trial of a critical pathway for treatment of community-acquired pneumonia. JAMA 2000 283:749-775。
我が国でもこうしたパスのアウトカム研究が必要だろう。
7 クリテイカルパスの課題と未来展望
以上、パスのこれまでを振り返ってきた。パスの本質は繰り返しになるが、診療プロセスの見直しと、そのアウトカムの検証だ。いわばパスは診療プロセスのPDCAの改善サイクルを回すためのツールと言える。P(計画)はパスを作成すること。疾患別・処置別、プログラム別に現状を見直して多職種チームでパスを作ることである。作成にあたっては診療ガイドラインやERASのようなプログラムを参照する。D(実施)はパスを実運用することだ。C(チェック)は、実運用の結果(アウトカム)をチェックする。A(アクションプラン)でさらなる診療プロセスの改善を行う。
しかし課題はパスの見直しが行われていないことだ。10年前に作った患者用パスがそのまま電子カルテの資料フォルダーに眠っている。パスが形骸化してマニュアルの化石となっている。もう一度、資料フォルダーから化石化したパスを掘り起こして、作成の原点に返ってパスを見直そう。パスの原点は診療プロセスの見直しとそのアウトカム評価だ。最近ではDPC分析ソフトも進化しているので、診療プロセスの見直しも分析ソフトの上で簡単に出来る。そしてそのアウトカム分析も分析ソフト上でできる。
DPC分析ソフトを使って国際医療福祉大学三田病院で行った「赤パス黒パス」作戦が懐かしい。またERASのようなケアプロセス改善プログラムと出会って、心が沸き立つ思いをしたことも懐かしい。現場でのこうした改善の積み重ねが、ケアの質と安全を高め、患者さんに安心と利益をもたらす。
もう一度、初診に立ち返ってパスの見直しを行おう。
参考文献
1 武藤正樹 PI委員会とクリテイカルパス-米国病院看護部の新しい取り組み-
看護部門Vol.9,No.1 日総研出版 1996年
2 武藤正樹ら「基礎からわかるクリテイカルパス作成活用ガイド」日総研出版 1998年
3 ERAS Society ホームページ Home – ERAS® Society
