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コミュニテイホスピタルとは?


はじめに

新型コロナの長期化は医療機関をはじめ社会経済に大きな痛手を与えた。さらにそれに加えて800万人の団塊世代が後期高齢者となる2025年も目前だ。コロナでボロボロになった病院がさらに高齢化の津波に飲み込まれようとしている。その解決の糸口は何か?そして病院が打つべき先手とは何だろう?

とくに全国8200病院の中の7割を占める200床以下の中小病院5800病院の経営改善がまったなしだ。これらの病院が目指すのは地域包括ケアシステムの中核となる病院運営にしかない。そうした病院を「コミュニティホスピタル」と呼びたい。コミュニティホスピタルは地域に密着し、地域と共に歩む病院だ。そこでは総合診療医の活躍が期待されている。連載の第1回はコミュニティホスピタルとは何か、そして総合診療医の活躍事例を見ていこう。

1 コミュニティホスピタルと総合診療医

一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会(C&CH)では、コミュニティホスピタルを以下のように定義している。「コミュニティホスピタルとは、総合診療を軸に超急性期以外のすべての医療、リハビリ、栄養管理、介護などのケアをワンストップで提供する病院」のことだ。このコミュニティホスピタルのキーワードは「総合診療医」だ。

コミュニティホスピタルには総合診療医が不可欠だ。高齢化が進み、複数疾患を抱える患者が増えた。また医療ばかりでなく介護を必要とする患者も増えた。そして認知症も激増している。

こうした患者が抱えるさまざまな課題の解決に地域の中で立ち向かうのが総合診療医である。2018年4月の新専門医制度のスタートに伴い、19番目の基本領域に総合診療専門医が位置付けられた。ただその専門医としての総合診療医の具体的な姿がまだ不鮮明なこともあり遅々としてその普及が進まない。総合診療を専攻医として選ぶ医師の数は2020年は191人、2021年は206人とまだまだ少数派だ。

私事にわたるが、著者も1988年から89年にかけて当時の厚生省の留学制度で、米国の総合診療である家庭医療(ファミリープラクティス)の研修を受けた。ブルックリンの下町にあるニューヨーク州立大学付属病院の家庭医療科への留学だ。ファミリープラクティスのレジデントたちと一緒に、家庭医療科の外来、関連病院の救急外来、内科、外科、小児科、産科、精神科、そして初めての訪問診療の体験もした。こうした経験を通じて総合診療の幅広さや面白さとやりがいを体験した。こうした体験記を近著の「コロナで変わるかかりつけ医制度」1)にも記述した。

さてC&CH協会は、こうしたコミュニティホスピタルとそこで活躍する総合診療医を応援することを目的に2022年に作られた。すでにいくつかの地域では、C&CH協会のお手伝いで、コミュニティホスピタルが立ち上がり、地域住民が安心して、自分らしく生活していける環境を作り上げる事例も生まれている。たとえば東京都台東区にある同善病院(45床)は、回復期リハと機能強化型在宅療養支援病院の機能を持つ病院で、クリニックも併設している。しかし一時期、医師やスタッフの人材確保が安定しない時期があり、提供できる医療が地域ニーズから乖離し、経営も悪化したことがあった。こうしたなか2013年より経営体制を一新した。リハビリ機能を再強化し、クリニックについても総合診療医を院長に迎え入れ、地域ニーズに応えられるようにした。そして2022年4月に在宅医療の経験のある総合診療医3名を迎え、さらに地域貢献の一環として「あおぞらカフェ」も開設して地域住民に密着したコミュニティホスピタルとなった。

2 総合診療医の活躍事例

つぎに全国で活躍する総合診療医の事例を見ていこう。2018年に筑波大学医学医療系/同付属病院総合診療科の前野哲博教授の研究報告2)からみていこう。研究報告では、2018年に総合診療医の実態を全国の日本プライマリ・ケア連合学会が認定する家庭医療専門医を対象として調査している。調査は家庭医療専門医673名のうちの147名で実施された。それによると総合診療医は診療所から病院まで、都市部から町村部まで幅広いフィールドで診療しており、外来、病棟、訪問診療にわたる診療活動を行っていた。その扱う対象は小児から高齢者のすべての年齢にわたり、医学生・研修医への教育にも携わっていた。

研究報告では総合診療医の活躍事例集が興味深い。その中からいくつかの事例を見ていこう。

事例①小規模病院の経営改善事例

 福岡県飯塚市の頴田(かいた)町立病院(96床)は2007年に経営不振と常勤医の退職により、同市内の麻生グループの医療法人に経営移譲することとなった。移譲後は麻生グループの飯塚病院(1048床)の総合診療科から総合内科の経験を積んだ医師数名が交代で頴田病院に派遣されることとなった。また頴田病院では、飯塚病院と関係のある米国のピッツバーグ大学メディカルセンターの家庭医療科から指導医を招いて専攻医の教育に当たることになった。この結果、2018年までに10名の日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医が育ち、九州における最大規模の総合診療医の養成プログラムにまで成長した。

 またこうした教育プログラムのおかげで頴田病院には医師も集まるようになった。その数も2008年の3名から2017年には14名となり、総収入も2008年の5.8億円から2016年は21.6億円となり黒字化した。

事例②過疎地域の公立病院の地域医療再編への貢献

 過疎高齢化が進む奈良県南和医療圏にある3つの公立病院、県立五條病院(160床)、町立大淀病院(155床)、国保吉野病院(98床)が、2016年4月から地域再編する過程の中で総合診療医が果たした事例である。

 この医療圏では脳出血を起こした妊婦のたらいまわし事件をきっかけとして地域医療の再生が待ったなしの状態だった。こうした中、県立五條病院で2013年に従来の内科の枠組みを再編して、へき地医療で豊富な経験を持つ医師3名とレジデント4名で総合診療を実践する総合内科を立ち上げた。効果はてきめんで、救急車受け入れ台数は立ち上げ前の2012年と比べて47%、1503件とV字回復をした。地域のニーズをくみ上げた総合診療の取り組みで病院も活性化し、公的病院の地域医療再編への地ならしとなった。

事例③中規模病院の収支改善

 高知県安芸市のあき総合病院(270床)に2014年に総合診療医が着任した。赴任した総合診療医は、いわゆる「なんでも屋」として外来や、救急外来、当直、入院患者の診療を担当した。この結果、総合診療科の入院患者数は当初の年間300人から500人まで増えた。総合診療医は臓器別専門医が苦手とする脱水や発熱、誤嚥性肺炎、関節痛で動けなくなった高齢者、尿路感染、心不全、あるいは診断に苦慮する病状に対する診療を積極的に行った。また総合診療医が司会で行う毎朝の入院患者ミーテイングは学生や研修医に好評だ。こうして2012年の総合診療医の赴任後、救急搬入症例の増加、研修医を含む若手医師数の増加により、2013年(平成25年)より病院の収支が黒字化した。

事例④急性期病院の在院日数短縮

 京都府福知山市にある市立福知山市民病院(354床)は、2008年より総合内科を発足させた。総合内科の発足する前は、同院では呼吸器内科、神経内科、糖尿病内科は非常勤体制であった。このため常勤医不在の診療科の入院患者は非専門の他科の医師が対応していた。

総合内科の発足以後はこれらの非常勤科の入院患者を総合内科の医師が診療することで、入院期間が減少した。肺炎ではそれまでの21.6日から16.0日へ、脳梗塞では24.2日が19.9日に減少した。また整形外科の高齢入院患者に対して総合内科が内服薬の調整・整理、合併症・既存症の治療に介入したところ、整形外科の入院期間が49.3日から35.6日と大幅に減少した。総合内科が他科とのタスクシェアで在院日数が減少した事例である。

 また市立福知山市民病院の近隣にある国保病院(72床)が経営困難に陥った。この国保病院を2015年に市立福知山市民病院の分院化したとき、同分院に総合診療医を福知山市民病院より赴任させた。この結果、分院は福知山市民病院の後方病床として機能して、本院の平均在院日数が短縮した。また総合診療医が赴任した分院からの訪問診療はそれ以前と比べて月平均で14件から80件以上に増加し、地域包括ケアの推進にも貢献した。

3 期待される総合診療医とC&CH協会

以上、総合診療医の活躍ぶりについて見てきた。しかし総合診療医は前述したようにまだまだその数が足りない。それには中小病院に総合診療医や総合診療の専攻医を派遣したり、総合診療医で病院経営の改善をお手伝いする仕組みが必要だ。C&CH協会はこうした仕組み作りのお手伝いをするために2022年に発足した。その目的は表1のようで、コミュニティホスピタルを振興し、その担う医療の研究開発、そして総合診療医などの人材育成と地域づくりを目指している。

表1 コミュニティ&コミュニティホスピタル協会の目的

1 コミュニティホスピタルの振興を目的とする事業

2 コミュニティホスピタルが担う医療を研究し、開発・普及させる事業

3 コミュニティホスピタルを担う医療人材の育成事業

4 地域包括ケアを始めとする地域づくりを目的とする事業

5 医療人材のキャリア開発、働き方改革に資する事業

6 その他法人の目的を達成するために必要な事業 

コミュニティの再生、 振興、特に地域保活ケアづくりを目的とする事業など

そしてC&CH協会の具体的な事業としては、表2のように総合診療医を始めとした人材育成、紹介派遣や、参加会員間の交流、勉強会の開催などコミュニティホスピタルの普及啓発を行うことだ。

表2 コミュニティ&コミュニティホスピタル協会の事業

1 人材育成/紹介派遣/入職支援(理事長、経営担当理事、医師等)

・コミュニティ・ホスピタルを担う人材の育成、ネットワーク化

2 参加会員の交流、勉強会開催

・コミュニティホスピタルの経営支援

・コミュニティホスピタルへの経営参画、継承支援

3 コミュニティホスピタルの普及/啓発活動

・コミュニティホスピタルについての勉強会、セミナー開催、学会発表

・コミュニティホスピタルについての広報活動全般・

4 その他、医療人材のキャリア形成、働き方改革支援

・コミュニティの再生、振興、特に地域包括ケアづくり

・地域行政への支援、コーディネート

・上記を法人、個人のネットワーク化、育成、コーディネート

なおC&CH協会の理事メンバーは以下である。武藤正樹(代表理事)、井野晶夫、大石佳能子、大杉泰弘、亀田省吾、草野康弘、辻哲夫、本田宜久、渡辺明良(監事)。

おわりに

私が勤務している横須賀市にある日本医療伝道会衣笠病院(198床)は一般病床と回復期リハや地域包括ケア病棟を備えたケアミックス型の病院だ。そして併設施設に特別養護老人ホーム、老人保健施設、訪問診療クリニック、訪問看護ステーション、通所事業所を備えた地域密着型の病院だ。こうした衣笠病院を始めとした全国の中小病院は総合診療医を中核としたコミュニティホスピタルによる経営改善がまったなしだ。コミュニティホスピタルによる地域づくり、総合診療医を中核とした病院経営改善にご関心のおもちの方のご連絡をおまちしている。詳細はC&CH協会ホームページ3)を参照されたい。

参考文献

1)武藤正樹 コロナで変わるかかりつけ医制度 ぱる出版 2022

2)厚生労働科学特別研究事業「総合診療が地域医療における専門医や他職種連携等に与える効果についての研究」(研究代表者 前野哲博、筑波大学医学医療系/同付属病院総合診療科教授)報告書 2018年

3)一般社団法人コミュニテイ&コミュニテイホスピタル協会公式ホームページ 

   Htt://cch-a.jp

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