
図表1 厚労省 新たな地域医療構想等に関する検討会資料 2024年11月8日
「医療法」は、医療の提供体制を定める根幹をなす法律で、病院や診療所などの医療提供施設の開設・管理に関する事項などを定めた法律だ。医療法は戦後、1948年に制定されて以来、9回の改正を重ねている。今回、2025年2月14日に、医療法等の一部改正が閣議決定され、法案が国会に送られた。
今回の医療法改正のポイントは以下の3つ。「地域医療構想の見直し等」、「医師偏在是正に向けた対策」、「医療デジタルトランスフォーメーション(DX)推進」だ。これを順次見ていこう。
1 地域医療構想の見直し等
(1)新たな地域医療構想の変更点
2014年の医療法改正で、病床機能報告制度と地域医療構想の策定が行われた。このときの地域医療構想とは、団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目標年とした構想だ。地域医療構想では、それまでの一般病床、療養病床の区分を、医療資源投入量に応じて高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4の病床機能区分に分けてそれぞれの2025年における必要量を策定したものだ。
今回、この地域医療構想が、「新たな地域医療構想」に衣替えする。新たな地域医療構想は目標年を団塊ジュニアが前期高齢者となり、日本の高齢者人口がピークを迎える2040年だ。そしてこれまでの地域医療構想を以下の3つの点で大幅に変更を加えることとした。
1つ目はこれまでの入院医療だけの地域医療構想から、外来・在宅医療、介護との連携等を含む医療や介護提供体制全体にスコープを拡大することした。2つ目の変更点は、これまでの4つの病床機能、高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能のうち、回復期機能を「包括期機能」と名称を改めることにした。3つ目の変更点は、今後の地域における連携・再編・集約化をイメージできるようにこれまでの病床機能報告に「医療機関機能報告」を加えることとした。
というのもこれまでの高度急性期、急性期、回復期、慢性期という4つの病床機能では、高度急性期と急性期、急性期と回復期の間の区別がしにくい。また地域医療構想がスタートした後に地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟などの急性期と回復期の双方の機能を有する病棟が出来た。このため医療機関の機能を、病床機能からだけでは判別しにくくなっていたからだ。
(2)医療機関機能と報告制度
このため新たに医療機関機能を以下のように定めた。まず地域ごとの医療機関機能と広域な観点での医療機関に分けた。そして地域ごとの医療機関機能は以下の4つに分けた、①高齢者救急・地域急性期機能 ②在宅医療等連携機能、③急性期拠点機能、④専門等機能とした。そして大学病院本院などを医育及び広域診療機能を担う広域な観点の医療機関とした(図表1)。
これらの機能をより具体的に見ていこう。地域ごとの医療機関機能は以下の4つである。①高齢者救急・地域急性期機能は、高齢者の救急搬送を受けるだけではなく、入院早期からリハビリ等の離床のための介入を行う。必要に応じて専門病院等と協力・連携するとともに、高齢者が抱える背景事情も踏まえて退院調整を行う。これにより患者を早期退院につなげ、他施設とも連携しながら通所や訪問でのリハビリを継続できる。②在宅医療等連携機能は地域で在宅医療を実施し、他の医療機関、訪問看護ステーション、歯科医療機関、薬局、介護施設等と連携して、24時間の対応や在宅患者の入院対応ができる。③急性期拠点機能は持続可能な医療従事者の働き方や医療の質も確保するために、搬送体制の強化等に取り組み、一定の症例数を集約して対応する地域の拠点として対応する。④専門機能は地域によっては回復期リハビリや一部の診療科に特化した医療機関等が存在する。こうした専門機能発揮する役割だ。
そして広域な観点での医療機関機能は、大学病院のようにより広域で医師を派遣したり、医師を養成したり、三次救急やがんや小児などのより広域での診療の担う機能とした。
こうした新たな地域医療構想は医療法の一部改定が今国会で成立すれば、2025年度以内にそのガイドラインが国より提示され、2026年度には各都道府県で動き出す。まずは上記の医療機関機能の報告制度がスタートすることになる。そしてそれを基に地域医療構想地域ごとに設置された地域医療構想調整会議で審議され、地域ごとに医療機関機能が設定されることになる。
2 オンライン診療受診施設
(1)オンライン診療の定義
これまでオンライン診療は診療報酬上には定義があったが、医療法上にはその定義がなかった。このためその定義を定め、手続き規定やオンライン診療を受ける場所を提供する施設に係る規定を整備することになった(図表2)。
図表2

厚労省 医療法等の一部を改正する法律案の概要 2025年2月14日
図表2に沿って見ていこう。オンライン診療の定義については以下とした。オンライン診療とは「情報通信機器を活用して、医師・歯科医師が、遠隔の地にある患者の状態を視覚・聴覚により即時に認識した上で、当該患者に対し行う診断・診療」。そしてこのオンライン診療を行う医療機関に「都道府県への届け出」を義務付けた。
この「オンライン診療を行う医療機関」の管理者は、新たに定められる「厚生労働大臣に定める基準」を遵守することが求められる。この基準は「オンライン診療指針」で、「オンライン診療の実施場所」、「患者への説明事項」、「病状急変時の体制確保」などが含まれる。
「患者の容態急変」に備えてオンライン診療を行う医療機関は「患者の所在地近隣の医療機関と受け入れの合意」等を取得し、その過程で、地域医療に与える影響やその可能性について、地域の関係者と連携して把握することも求められる。さてこれまでオンライン診療指針は「通知」レベルであった。これを今回の医療法の一部改正において、厚生労働省告示等の法令レベルに格上げをする。
(2)特定オンライン診療受診施設
また今回、初めて「特定オンライン診療受診施設」を設けることとした。従来、オンライン診療を受診可能な場所、すなわち患者の居場所は、患者のプライバシ―が確保され、確実な本人確認が行える場所として、医療提供施設か居宅等のいずれかとされていた。これ以外で患者がオンラインで受診するには、その場所に診療所(クリニック)を開設することが必要だった。これでは要件ハードルが高すぎる。
これに対して内閣府の規制改革推進会議は「学校やデイサービス(通所介護)事業所などにおいて、『特定多数人』に対し、クリニックを開設することなしに、医師がオンライン診療を行える」ようにすべきと要請していた。今回、この要請に対して「特定オンライン診療受診施設」と言う形で、オンライン受診を可能とした。
特定オンライン診療受診施設とは、「施設にいる患者に対してオンライン診療が行われ、当該施設の設置者が、医師・歯科医師に対し『業としてオンライン診療を行う場』として提供しているもの」と定義した。具体的には公民館、郵便局、駅ナカブース、職場、介護事業所などが想定されている。これにより広範囲な場所でオンライン診療を受けられる環境が整うことになった。特に独居の高齢者などは、一人ではオンライン診療機器の操作ができないことがある。このため公民館やデイサービスに出向いた先で職員の手助けを受けながらオンライン診療を受けることができるようになる。
もっとも、単純にオンライン診療の場を広げたのでは、適正性・安全性を確保できない。そこで、この「特定オンライン診療受診施設」には次のような義務が課されることになった。「所在地の都道府県知事に対し、『特定オンライン診療受診施設』の設置を届け出る」、「特定オンライン診療受診施設の設置者は、『運営者』を置く」、「特定オンライン診療受診施設でのオンライン診療の実施の責任は、『オンライン診療を行う病院・診療所の医師』が負う」、「オンライン診療を行う医療機関の医師が、上述の『オンライン診療基準』を満たす義務を負う」、「オンライン診療を行う医療機関」の管理者(院長等)は、『特定オンライン診療受診施設』の運営者に対し、『オンライン診療基準への適合性の確認』を行う」、「特定オンライン診療受診施設の運営者は、この確認に対し応答する義務を負う」としている。
つまり「オンライン診療を行う医療機関」が、「特定オンライン診療受診施設」について「適切にオンライン診療を行えるプライバシー確保などの環境を確保できているか」を監督・確認したうえで、適切にオンライン診療を行うという仕組みだ。
3 美容医療
美容医療とは、見た目の改善や若々しさを追求するために行われる医療行為のことだ。例えば、皮膚のケア、しわの改善、ボトックス治療(ボツリヌス菌毒素注入治療)、レーザー治療、さらには美容整形手術などが含まれる。
美容医療の施術には外科的手技と非外科的手技がある。外科的手技では眼瞼形成、フェイスリフト、顔面輪郭形成などがある。非外科的手技には脱毛、ボトックス治療、セルライト治療(セルライトとは皮下の脂肪の塊)などがある。これらの美容医療の施術数がこのところ増えている。2019年には123万回であった施術件数が、2022年には373万件と3倍増だ。これに従って美容医療に関する消費生活センターへの相談件数も増えている。2018年には1741件だった相談件数が、2023年には5057件にまで3倍増だ。たとえば「ボトックス治療で顔面神経麻痺が残った」、「ボトックス注射で目の腫れと頭痛がでた」、「HIFU(ハイフ:高密度焦点式超音波)で頬に6㎝のやけどを負った」、「ひげ脱毛のレーザーでやけどして水膨れになった」など。
この他の相談事例としては、無資格者による診察・施術事例、メールのみによる診断・薬の処方、不十分な説明事例などが挙がっている。ただ美容医療は自由診療であるので、保険診療であれば適応される確認・指導監査の仕組みが適応されない。また保健所も「通報を受けたが、立ち入りに入っていいかどうかわからない」「立ち入りに入ってカルテを見ても診療の実態がわからない」、「安全管理の状況も体制等を把握できにくい」とのことだ。また美容医療の実態を知る関係者からは、「美容医療を行う当事者が、関係法令やルールを知らない」、「提供した医療の内容や契約内容について患者とトラブルになっている」「研修・教育体制が不十分」などの声も聞かれる(図表3)。
図表3

厚労省 美容医療の適切な実施に関する検討会報告 2024年11月24日
こうした事から今回の医療法改正では美容医療を行う医療機関の報告・公表の仕組みを導入することになった。具体的には安全管理措置の実施状況、専門医資格の有無、相談窓口の設置状況等について都道府県に報告を求め、そのうち国民に必要な情報を公表するなど。
また関係法令やルールに関する通知の発出、医療機関による診療録等への記載の徹底、オンライン診療指針が遵守されるための法的整理、関係学会によるガイドラインの策定、医療広告規制の取り締まり強化など。
また最近は「直美」と言って、初期研修直後の医師が美容医療を行うことも増えてきた。このため美容外科に従事する医師数は2010年に406人だったが、2022年には3倍増の1230人にまで増加している。この「直美」の在り方についても医師の診療科偏在の観点から課題となっている。
4 医師偏在対策
医師偏在を現わす偏在指標を用いて、都道府県や各地域別の医師充足状況を2024年1月現在で数値化して現状をみると、以下のようだ。まず医師多数の上位16都府県を医師多数都府県とし、少数の下位16県を少数県とする。これによると、医師が最多数であるのは東京都の偏在指数は353.9、最少数県は岩手県で182.5、その差は1.9倍である。医師不足は東北地方を始めとした東日本に広がっている。東北地方全体の診療所医師数は2040年にかけて54%の減少が見込まれる。
またこれを335の二次医療圏単位でみると、最多医療圏は東京都区中央部(港、千代田、中央、文京、台東)で偏在指数は789.8、最小医療圏は香川県小豆で109.0、その差はなんと7倍である。驚くべき医師偏在の実態である。
このため各都道府県の医師偏在指標が最も低い二次医療圏、医師少数県の医師少数区域、医師少数区域の可住地面積当たりの医師数が少ない二次医療圏などを、「重点医師偏在対策支援区域」として指定することとした。そしてこれらの区域において「医師偏在是正プラン」を策定することとした。
新たな医師偏在対策としては、重点支援区域の診療所の承継・開業・地域定着支援、重点支援区域に派遣される医師,従事医師への手当増額、重点支援区域の医師の勤務・生活環境改善、派遣元医療機関への支援など。また医師偏在への配慮を計る観点から、診療報酬の対応の検討、重点支援区域で働く医師の全国的な掘り起し,マッチング支援、総合的な診療能力を学び直すためのリカレント教育の推進、都道府県と大学病院等の連携パートナーシップ協定の締結など。
医師少数区域等で勤務経験を病院の院長等の管理者の要件にすでにしている。この管理者要件の対象医療機関を700病院から1600病院へ拡大する。また外来医師過多区域における新規開業希望者への地域での必要な医療機能、たとえば区域内で不足する在宅医療機能などの要請、勧告を行えるように規定の変更するとしている。
5 医療DX
医療DXの推進については以下の3つのポイントがある。①電子カルテ情報共有サービス、②公的DBにおける仮名化情報の利用・提供、③社会保険診療報酬支払基金の組織体制の見直し。
①電子カルテ情報共有サービス
電子カルテ情報共有サービスでは、医療機関が3文書(健診結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー)と6情報(傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報)を電子的に共有できるようにする。このため医療機関は3文書6情報を支払基金等に電子的に提供するように義務付ける。支払基金等は3文書6情報を電子カルテ情報共有サービス等以外の目的に使用してはならない。システムの運用費用は医療保険者等が負担するなどを取り決めた。
次の感染症危機に備えて、一部の感染症については、医師等が発生届を電子カルテ情報共有サービスを経由する方法により届け出ることができるように規定を設ける。そして感染症対策上必要な時は、厚労大臣から支払い基金等に対して電子カルテ情報等の提供を求めることができるようにする。
②公的データベース(DB)における仮名化情報の利用・提供
これまでの公的DB(医療・介護関係のDB)では、これまで匿名化情報の利用・提供を進めてきた。しかし、医学・医療分野の研究開発等においては、匿名化情報では精緻な分析や長期の名寄せによる追跡ができない。このため公的DBの仮名化情報の利用・提供を可能として、他の仮名化情報や次世代医療基盤法の仮名加工医療情報との連結解析を可能とすることにした。ちなみに匿名加工情報は「特定の個人を識別できないように個人情報を加工した情報であって、当該個人情報を復元できないようにしたもの」であり、仮名加工情報は、「他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できない」状態、言い換えると他の情報と照合すれば個人情報を復元しうる情報」のことだ。
このため仮名化情報の利用は相当の公営規制がある場合に認めることとし、利用目的や内容に応じて必要性やリスクを適切に審査することとした。仮名化情報の利用にあたっては、クラウドの情報連携基板上で解析等を行い、データ自体を相手に提供しないことを基本とすることなどを盛り込んだ。
③社会保険診療報酬支払基金の組織体制の見直し
社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)とは、健康保険制度における診療報酬の「審査」及び「支払」について、保険者等の委託を受けて実施する審査支払の専門機関だ。
今回、この支払基金の機能が大きくかわる。まず名称が「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」となった。そして国が推進する医療DX業務に大きくかかわることになった。具体的には厚労大臣が定める医療DXの総合的な方針である医療情報化推進方針に対して、支払基金は医療DXの中期的な計画(中期計画)を定めることとした。
また支払い基金の理事会(4者構成16人)に代えて「運営会議」を設置、法人の意思決定を行い、業務の執行を監督することした。そして、医療DX業務を担当する常勤理事(CIO)を設置することした。そしてセキュリテイ対策ついては、重大なサイバーセキュリテイインシデントや情報漏洩等が発生した場合に、厚労大臣への報告義務を設けることとした。
以上、医療法等の一部改正について振り返った。法案が国会で可決成立すれば、そのあとに詳細な省令、通知が続々と出てくる。今後はこれら省令、通知のフォローを順次していこう。
参考文献
厚労省 新たな地域医療構想等に関する検討会資料 2024年11月8日
厚労省 医療法等の一部を改正する法律案の概要 2025年2月14日
厚労省 美容医療の適切な実施に関する検討会報告 2024年11月24日