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薬機法改正


 図1 製造販売業における責任体制(厚労省)

 改正薬機法が、まもなく国会で成立するだろう。薬機法とは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」だ。2014年、薬機法は旧薬事法を改正し誕生する。薬機法はその後2019年に改正され、今回が薬機法になって2度目の改正だ。

 今回の改正は2021年から始まった後発医薬品の品質不祥事とそれに引き続く供給不安、そして新薬のドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス問題に示される革新的な創薬に後れを取る日本の現状、そして医薬品のオンライン販売による規制緩和、調剤業務の外部委託など多くの課題を背景とした改正だ。この改正薬機法を読み解いていこう。

1 薬機法改正の概要

 本稿では薬機法を以下の4つのポイントに沿って解説する。①医薬品等の品質及び安全性の確保と強化、②医療用医薬品等の安定供給体制の強化、③活発な創薬が行われる環境の整備、④医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化。順次これらについて見ていこう。

 なおこの法案改正の審議は、2024年2月から厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(座長 福井次矢、東京医科大学茨城医療センター病院長)により10回にわたり行われ、2024年12月に取りまとめられた。そして2025年4月国会に上程されまもなく成立の見込みだ。以下、主に上記の厚生科学審議会の検討資料を中心に薬機法改正のポイントを見ていこう。

2 医薬品等の品質及び安全性の確保と強化

 2021年2月の小林化工、同年3月の日医工の品質不祥事による企業の業務停止や業務改善は21社にまで及んだ。日医工の事例では、出荷試験で不適合となった製品について、別のロットで再試験を行ったり、不適合になった製品を再粉砕・再加工した後で試験を行ったりしていたことが明るみでた。こうした、本来の手順として認められていない不正な対応が日医工では2011年頃から10年近く続けられてきた。この間、当時の品質検査部門は社内で異議を申し立てたが、日医工の当時の田村社長以下上層部の出荷優先、売り上げ優先の方針には逆らうことはできなかった。

 こうした企業の品質ガバナンスは、実は2005年の薬機法の前身の薬事法の改正のころから懸念されていたことだ。この年の薬事法改正で、それまでは工場を有する製造業に製造承認を与えていたものを、工場を持たない企業にも製造販売業者として製造販売承認を与えることとした。これにより一挙に後発品の製造販売承認のハードルが下がって、多くの企業が参入した。工場を持たない多くの企業は工場を持つ企業との間で委受託契約や共同開発契約を結び、後発品の製造販売ができるようになり後発品市場が拡大する。

 しかし同年の改正薬事法では、こうした工場を持たない製造販売企業に対して、GQP/GVPなどの品質管理に関する遵守事項を設けて品質ガバナンスを徹底することを求めた。また工場を持つ製造販売企業についてはGMPの徹底遵守を求めた。なおGQPとはGood Quality Practiceの略で「製造販売品質管理の基準」、GVPとはGood Vigilance Practiceの略で「製造販売後における安全管理の基準」、GMPとはGood Manufacturing Practiceの略で「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」を意味する。

 そして2019年の改正薬機法では、「総括製造販売責任者」をトップに「品質保証責任者」「安全管理責任者」の3役を配置し、GQP・GVPに沿う業務を進めなければならないとした(図表1)。考えて見ればこうした薬事法、薬機法を徹底遵守していれば今回の不祥事は起きることはなかっただろう。

 しかし、事態はそうはならなかった。2021年からの企業品質不祥事の行政処分事例の中には、以下のような事例があった。3役などの責任役員が違法状態にあることを認識しながらその改善を怠る事例や、責任役員が率先して違法行為を行う事例も見受けられた。しかしこれまでの薬機法の規制は、総括製造販売責任者等の責任者による許可等業者への意見申述義務等、許可等業者内におけるガバナンスの整備にとどまり、責任役員主導の違法行為に十分に対応していなかった。

 このため今回の薬機法改正では、責任役員の法令遵守を担保するため、責任役員が原因で薬事に関する法令違反が生じた場合等、保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するために、当該責任役員の変更を命ずることができるようにした。

3 医療用医薬品等の安定供給体制の強化

(1)医薬品供給不安とその原因

 2021年の後発医薬品企業の品質不祥事より、後発医薬品の限定出荷、出荷停止が続いている。厚労省の2024年10月調査では、全品目に対する限定出荷、出荷停止などの割合は19%、3,103品目である。1年前の2023年12月調査の25.9%よりは減ったが、依然多くの医薬品の供給不安により、医療機関・薬局において医薬品の入手が困難な状況が続いている。そしてその回復のメドもたっていない。

 実はこうした供給不安の例はこれまでにもあった。2019年の中国の製造所からの原材料の出荷停止からセファゾリン注射剤が限定出荷となった例、2021年国内における新型コロナウイルス感染症の流行で人工呼吸器患者用の麻酔薬プロポフォールの需要が急増し、限定出荷となった例、2022年、やはり新型コロナの流行による解熱鎮痛剤、鎮咳剤、去痰剤の需要が増大して限定出荷となった例などである。

 こうした医薬品供給不足は以下のような様々な要因から起きる。製造メーカーのGMPに関連する製造上の問題、製造メーカーの製造キャパシテイ、自然災害による出荷停止、感染パンデミックなどによる需要急増、原薬等のサプライチェーンに起因する問題、薬価引き下げによる市場環境の悪化による企業撤退など。実はこうした供給不安の問題は後発品ばかりでなく先発品でも起きている。また我が国ばかりでなく先進各国でも起きている問題だ。

 しかし今回のようにこれだけの大規模でしかも長期間、供給不安が起きた例はない。日本の医薬品の歴史の中でも未曾有の事件だ。

 どうしてここまで深刻化し、その復旧が遅れているのだろう?その原因の一つは、いままで医療用医薬品の需給状況を全国的に把握する仕組みがなかったことが挙げられる。また医療用医薬品の需要に対して必要な供給量を適宜把握し供給を調整するシステムがなかったことも挙げられる。このため供給不足に対して戦略的な手立てを打つことができずに、その場限りの対応に追われていた。このことが今日の混乱を招いたとの反省がある。

 こうした反省に基づいて製造販売業者の生産計画や卸売り販売事業者の在庫量を把握し、需要状況と照らして供給不安を早期に発見し未然に防止すること、供給不安時には適正量の増産や限定出荷解除につなげる市場介入アクションが必要だ。そしてそれを確実なものとするための法整備が必要なことが明らかになってきた。

(2)安定供給確保マネジメントシステム

 こうした一連の仕組みを「安定供給確保マネジメントシステム」と呼ぶ。安定供給確保マネジメントシステムのポイントは以下だ。①製薬企業における安定供給確保に向けた体制整備、②需要動向や供給動向の把握から供給不安を迅速な把握するためのデータベースの構築とチェック体制、③供給不安に対して企業、卸、医療機関等への協力要請を行うなどのPDCAサイクルの回転だ。こうした安定供給確保のためのマネジメントシステムの具体について、以下のプロセスごとに見ていこう。同時にこれらの法整備の在り方について見ていこう。

 そのプロセスは大きく分けると「平時、供給不安発生前」と「有事、供給不安発生後」の2つのフェースよりなる。その中でさらに以下の3つの個別プロセスに分けられる。①個々の企業における安定供給確保、②需給状況の把握・調整、③供給不安解消策。(図表2)。

 これらについて今回の薬機法改正では、供給不安の迅速な把握のため製薬企業に報告徴収や医療機関等に協力要請を行うこと、安定確保医薬品の供給確保要請を行うこと、電子処方せんシステムや平時からの需給データを活用したモニタリングの実施等を法制化することにした。

図表2

厚労省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 2024年3月15日 

 なお今回、製造販売業者において、こうした安定供給を管理するための責任者として「安定供給体制管理責任者」が設置された。安定供給体制管理責任者は、安定供給体制確保のための手順書の遵守のため体制整備や取組など、法令に位置付けられる安定供給確保のための取組を行うことを想定している。安定供給体制管理責任者に 関する法律上の義務(製造販売業者への意見申述義務)等の関係規定は、総括製造販売責任者・品質保証責任者・安全管理責任者の3役を参考にしつつ、今後検討することになっている。

(3)基金の設置

 また後発品の安定供給については、190社にも及ぶ後発品企業を1品目5社程度への再編統合し、1社あたりの製造キャパシテイを拡大し、不足時の増産余力をもつまでに増大させる必要がある。こうした後発医薬品企業の再編については、2024年5月に公表された「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」(座長著者)の報告書に詳しい。この中で以下のような業界再編の可能性について言及している。

 「大手企業型の後発医薬品企業を買収し、品目統合や生産・品質管理を集約する等の効率化を実現してモデル」、「後発医薬品企業が事業の一部または全部について多の企業に譲渡するモデル」、「ファンドが介在して複数の後発医薬品企業や事業の買収を行い、統合していくモデル」、「複数の後発医薬品企業が、新法人を立ち上げて屋号を統一化する形当により、品目・機能を集約・共有していくモデル」、「長期収載品も含め、他企業の向上に製造委託を進める中で品目の集約化から事業再編を進めていくモデル」、「保管・配送の集約、需要の集約、共同購買等により、事業再編を進めていくモデル」。

 またこれまでの後発医薬品企業の「少量多品目生産」を品目統合により生産効率のアップも同時に図る必要がある。こうした品目統合や業界再編を通じた生産性向上へ向け、設備投資や再編事業の経費を支援するため「後発医薬品製造基盤整備基金」を創設することになった(図表3)。基金は国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法を改正し、同研究所に創設することとした。毎年70億円規模で5年間を予定している。

図表3

厚労省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 2024年4月19日

4 創薬環境の整備

(1)ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス

 2016年ごろから世界で販売される新薬のうち日本において未承認の医薬品の数が徐々に増え始めた。2023年時点で、ドラック・ラグである国内未承認薬は143品目あり、そのうち国内開発未着手の医薬品であるドラッグロスは86品目、60%にも及んでいる。ドラッグ・ロスの品目の内訳は、ベンチャー発が56%、希少疾病用医薬品(オーファン)が47%、小児用医薬品が37%(複数カウント)であった。また未承認薬であるドラッグ・ラグの最も多い疾患領域は抗悪性腫瘍剤である。次いで、消化管及び代謝用剤、全身性抗感染症薬、神経系用剤、血液及び免疫調整剤と続く。特に抗悪性腫瘍剤では、2022年小児に適応のある抗悪性腫瘍剤は米国では27品目も承認されているのに対して、日本ではたった2品目しかないというありさまだ。ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスのすざましい実態だ。

 ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの原因はなんだろう。主な原因は以下の2つ、日本固有の薬事規制と日本の薬価制度だ。日本の薬事制度について言えば、臨床試験開始にあたって日本人データを要求される場合がある。また書類や会議など規制当局に対する手続きで日本語での対応が必要である。また日本でも第2相試験のあと第3相試験を待たずに条件付き承認を行い、その後製造販売後調査で有効性、安全性のデータを収集するという制度があるが、欧米に比べてその件数が少ないなどの課題がある。

 また日本には、海外の企業が上市を敬遠する薬価制度環境がある。それは欧米と比べて薬価が低いこと、革新的新薬でもその価値評価が十分ではないこと、薬価制度の変更が多く、複雑であるため、上市した後の開発経費の回収見込みが立たない事、特許期間中の薬価維持が欧米に比べて低いことなどである。また投資環境や薬価評価が大手製薬企業に偏重していて、ベンチャーが育ちにくいことなどが挙げられる。

 以上から今回の薬機法改正では、前述の条件付き承認制度の見直しについて以下を行った。「医薬品等を早期に使用するベネフィットが、有効性が確認されていないリスクを上回るものに承認を与える」こととした。また追加データの内容によっては承認を取り消すこともできるものとした。また承認にあたってはリアルワールドデータの活用も認めることとした。

 次に小児用医薬品の新薬開発の計画策定を努力義務化することにした。これは前述したように小児用薬がドラッグ・ロスの大半を占めていることから行われた。小児用医薬品は治験において症例集めが困難だ。また小児用薬の市場が小さいことなどから、これまで開発の対象とはされてこなかった。これを今回、その計画策定を努力義務化し、行った場合には再審査期間を従来の10年から12年に延長することにした。

(2)革新的な新薬の実用化を支援するための基金

 これまでも医療系ベンチャーを支援する仕組みがなかったわけではない。たとえばMEDIXOメディソ)は、医療系ベンチャー・トータルサポート事業の総合ポータルサイトで、ベンチャー支援をする会社やコンサルタント会社などが集まっていて、医薬品・医療機器・再生医療等製品の実用化を目指すベンチャーや個人を支援している。

 今回はこうした支援に加えて、創薬シーズを早期にスタートアップさせる支援やスタートアップ後の研究開発支援や資金提供を行う基金を作ることになった。具体的には創薬クラスター内で不足している動物実験施設やインキュベーションラボの建設などのスタートアップ支援を行うための基金だ。この基金は「革新的医薬品等実用化支援基金」と呼ばれ、前述の国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所に設置する。基金規模は1000億円規模になる見込みだ。

5 医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化

 薬局機能についても改正薬機法では以下の課題について踏み込んだ改正を行っている。①零売、②オーバードーズ、③要指導医薬品、④デジタル技術を活用した医薬品販売、⑤健康サポート薬局、⑥調剤業務の外部委託など。

(1)零売

 「零売」とはもともと分割販売や小分け販売のことを意味する販売用語だ。現行法では医療用医薬品は図表4のように分類されいて、医療用医薬品は医師の診断を経て処方せんや指示に基づいて使用されることが前提だ。しかし通知により災害などやむを得ない場合には例外的に薬局での販売を認めていた。これが零売だ。しかし一部零売薬局では、本来診療が必要な疾病でも医師の診断を経ず医療用医薬品を購入できるかのような広告を行っているケースもあった。このため「やむを得ない場合」の具体を省令で定め、販売に際しては販売量は最小限とし、原則、患者の状況を把握する薬局が対応し、薬歴確認、販売状況の記録を義務付けるとした。

図表4

厚労省 医薬品の販売制度に関する検討会 2023年2月22日

(2)オーバードーズ

 最近、若年者を中心に風邪薬等の一般用医薬品の濫用が広がっている。こうした濫用の周知・啓発に加えて、多量・頻回購入の防止を徹底する必要がある。いわゆるオーバードーズ対策だ。こうした一般用医薬品の販売に当たっては、薬剤師に他の薬局等での購入状況、必要な場合の氏名、年連、購入理由を確認させる。また販売方法については、20歳未満への大容量製品または複数個の販売を禁止することした。

(3)要指導医薬品

 医療用医薬品から一般用に移行して間もない医薬品、いわゆるスイッチ直後品では、一般用医薬品としてのリスクが確定していないことから、これまでや薬剤師による指導と情報提供を店舗において対面で行うこととされていた。これを今回の改正で、薬剤師の判断でオンライン服薬指導のもと必要な情報を提供した上でオンライン販売を可能とした。また要指導医薬品はスイッチOTC後から3年で一般用医薬品に移行していたが、今回の改正で、適正使用の観点から要指導医薬品に3年を超えて留め置くことを可能とした。

 たとえば今後生活習慣病のスイッチOTCが開始された場合は、この要指導医薬品に留め置いて薬剤師の対面またはオンラインによる販売が可能となるだろう。

 今回、一般用医薬品のリスク区分、第1類、第2類、第3類の区分の変更も検討の過程で一時考えられたが、これは従来通りに維持することとなった。

(4)デジタル技術を活用した医薬品販売

 コンビニエンスストアのように薬剤師が常駐していない店舗でも薬剤師がオンラインによる管理のもと、医薬品を保管し、受け渡すことを可能とした。この場合、販売は販売を行う管理店舗が行うことになる。オンラインで管理する薬剤師と販売を行う管理店舗は当面は同じ都道府県内どするが、いずれはその範囲は拡大されるだろう。

(5)健康サポート薬局

 都道府県知事が薬局を認定する制度も見直す。現行では「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の2つがあるが、これに健康サポート薬局を「健康増進支援薬局」として加えた。健康増進支援薬局は、患者が継続して利用するために必要な機能および個人の主体的な健康保持増進への取り組みを支援する機能を有する薬局とした。

(6)調剤業務の外部委託

 改正薬機法では、調剤業務のうち、業務に著しい影響を与えない定型的な業務を「特定調剤業務」として位置付けた。そして特定調剤業務については知事等の許可を受ければ一定の要件を満たす他の薬局に業務を委託できるとした。この特定調剤業務に該当するのが、調剤業務の外部委託である。この外部委託については「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」でその在り方について議論し、2024年の検討会で報告された国家戦略特区で一包化の業務を他薬局に委託した事例がすでにある。

 調剤業務の外注化については、2024年4月の内閣府の規制改革推進会議の医療健康ワーキンググループでの議論が発端だ。当時、著者は同ワーキンググループの専門員を務めていてこの議論にも加わった。それ以来、5年を経て調剤業務の外注化が薬機法改正にまでつながったことに感慨深いものがある。

 以上、2025年の薬機法改正について概観した。今回の薬機法改正が、これからの日本の医薬品業界に与えるインパクトの大きさはこれから徐々に明らかになっていくだろう。

参考文献

厚労省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 2024年3月15日 

厚労省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 2024年4月19日

厚労省 医薬品の販売制度に関する検討会 2023年2月22日

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