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高齢者のポリファーマシー


図表1 厚労省 「薬剤種類数別にみた処方せん枚数(受付回数)の分布」 2018年6月7日

 2025年、800万人の団塊世代が後期高齢者となり、高齢者のポリファーマシーが改めて注目されている。高齢者のポリファーマシー対策には、患者本人、医療従事者が患者特性にあわせて行う患者個別型のミクロ対策アプロ―チと、地域全体でポリファーマシーを行う地域アプローチの二つがある。

本稿ではこの両者について振り返ってみよう。

1 高齢者のポリファーマシーの現状

 ポリファーマシーとは単に服用する薬剤数が多いことではない。薬剤数が多いことに関連して、薬物有害事象のリスクが増加したり、服薬過誤が増加したり、服薬アドヒアランスが低下する等の問題につながる状態を示す。高齢者では6種類以上の薬剤投与により有害事象の発生が有意に増加するというデータもある。

 厚労省は2018年、全国の年齢別・薬剤種別の処方せん枚数の動向を公表している。これを見ていこう。図表1は年齢階級別、薬剤種類数別に処方せん枚数の分布をみると、75歳~100歳、すなわち後期高齢者になると薬剤種類数がしだいに増える。また10歳未満の小児でも種類数が多くなる傾向がある。

 またその都道府県別分布をみると、10種類以上の処方せん枚数の割合を年齢調整後で比較すると、最も少ないのが新潟県で3%弱、最も多いのは北海道で5%以上で、その差は2倍近くもある。ポリファーマシーも都道府県差があるようだ。理由はなんだろう?

2 ポリファーマシーが起きるワケ

 さて先述したようにポリファーマシーとは単に服用薬剤数が多いことではなく、多剤投与が患者有害事象などに繋がることを指す。たとえば東大病院老年科の2400人の患者データによると、6剤以上で患者有害事象の頻度が有意に増える。また東京都内に通院する患者165名の2年間の追跡調査では、5剤以上で転倒リスクが有意に増えることが判っている。

 では高齢者のポリファーマシーにより患者有害事象が起きるワケとその対策を見ていこう。それには6つのポイントがある。①加齢に伴う多病と多科受診、②服用方法の複雑化、③高齢者のADME、④処方カスケード、⑤潜在的不適切処方(PIMs)、⑥多剤服用患者の服用中断。

①加齢に伴う多病と多科受診

 加齢が進むと多病を抱えることになる。高齢者の上位疾患は循環器、脳神経、消化器、内分泌代謝、骨関節、呼吸器、腎泌尿器の順である。このため高齢者は数多くの診療科を受診することになる。このためたとえば4疾患を抱えただけでそれぞれの診療科から2~3種類の医薬品が処方されるとあっという間に10種類を超えてしまう。とくにパーキンソン病の患者がポリファーマシーになりがちだ。

 こうした高齢者の多病と多科受診への対策としては、高齢者は1人のかかりつけ医を決めておいて、かかりつけ医が服用薬の一元管理をすること、かかりつけ薬剤師による処方薬整理や減薬への取り組みを行うことがポリファーマシー対策に有効だ。

②服用方法の複雑化

 多病により様々な医薬品が投与されることで、服用方法が複雑化する。たとえば、高血圧、糖尿病、骨粗しょう症、変形性関節症、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の5疾患をかかえる79歳の女性患者を診ていこう。朝食前に抗コリン吸入剤を吸入し、骨粗しょう症のビスフォスフォネートを服用する。そして朝食後にカルシウム製剤とビタミンD製剤、降圧利尿剤、ACE阻害剤、糖尿病薬のSU剤、鎮痛剤のアスピリンと胃薬のPPIを服用する。昼食後は抗コリン吸入剤する。夕食後は糖尿病薬のメトホルミン、脂質異常症のスタチン、鎮痛剤のNSAIDを服用する。

 その他、適宜吸入気管支拡張剤を吸入する。これだけで内服薬10剤、吸入薬2剤だ。

 こんな複雑な服用方法を正確に守れる高齢者などはいない。とくに昼食後の服薬アドヒアランスが悪いことが知られている。また点眼薬の服薬アドヒアランスが低いことも良く知られている。服用方法の整理と単純化が必要だ。

 以上から高齢者に対する処方の原則は以下だ。

  • 可能な限り非薬物療法を推奨する
  • 処方薬剤の数を最小限にする。1疾患1薬剤が原則だ。
  • 服用法を単純化する。1日3回の服用を2回、1回に抑える。
  • 明確な治療目標とエンドポイントを意識して処方する。降圧目標、HbA1c目標などを明確にして、目標達成したら減薬を考える。
  • 生理機能に応じて用量を調整する。高齢者は腎機能が低下している。腎機能に応じた用量調整が必要だ。
  • 必要に応じて臨床検査を行う。検査結果をみながら薬剤用量を調整する。
  • 定期的に処方内容を見直す。
  • 新規症状出現の際はまず薬物有害事象を疑う。
  • 高齢者のADMEに注意

 ③高齢者のAEME

 ADMEとは吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)の頭文字を取った略語だ。高齢になると薬物の体内動態に係るこれらの機能が低下する。

 高齢化すると胃酸分泌が低下し、消化管血流が低下し、消化管運動も低下する。このため薬剤の胃内停留時間が延び、薬物の小腸からの吸収が遅くなる。このため薬物の血中移行が遅れて血中濃度のピーク到達時間も遅れ、効果発現に時間がかかる。

 血中に薬物が移行してからも、その体内分布が若者と異なる。高齢者は若者より脂肪量が多く、水分量が少ない。このため油脂性の薬剤、たとえばベンゾジアゼピン系の薬剤は体脂肪に溶け込んで、消失半減期が延長して効き目が長く続く。

 また代謝も高齢者では若者と異なる。肝臓の薬剤代謝速度は高齢者では遅い、薬物代謝酵素(CYP)の活性も高齢者では低い。またCYP誘導能も高齢者では低い。ただこの薬物代謝機能は高齢者でも個体差が大きいので注意が必要だ。

 腎臓からの排泄能も加齢とともに低くなる。加齢による腎機能低下は薬物代謝に最も大きな影響を与える。このため薬剤が排泄されないまま体内を回り続けるので、薬物血中濃度が若者より高くなりがちだ。このため薬物有害事象も高齢者では起きやすくなる。

 高齢者では最大血中濃度が増加しがちだ。これには投与量を減らす。また血中半減期が延長しがちだ。これには投与回数を減らすなどの調整が必要だ。そして肝機能検査や腎機能検査、場合によっては血中薬剤濃度の測定が必要だ。高齢者のADMEに留意しよう。

④処方カスケート

 処方カスケードとは、薬による副作用や有害事象を新たな病状と医師が誤認し、それに対処するために別の薬が処方されることをいう。このため薬の服用数が増え続け、薬による副作用がさらに増幅し、異なる薬との相互作用が生じたりする悪循環を招く。

 よくあるのが薬剤性の高血圧だ。外来で降圧剤を服用している患者さんが、急に家庭血圧が上がり始めた。聞いてみると腰痛で整形外科でロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)を処方されてから血圧が上がったことが判った。ロキソプエオフェンナトリウムは腎臓の血流を減少させて高血圧を誘発する。このロキソニン投与を知らないで降圧剤を増やしてしまうのが処方カスケードだ(図表2)。カスケードとは階段状の滝のことだ。新規の薬剤副作用が起きるごとに、つぎつぎと薬が増えていく。このときはロキソニンを中止してアセトアミノフェンに替えてもらった。

図表2

 処方カスケートを起こす薬は限りなく多い。とても覚えきれない。ぜひとも患者の処方せんをすべて集めて、その中から、処方カスケードの潜在リスクを洗い出してくれるAIを開発してほしいものだ。処方カスケート検出AIだ。

⑤潜在的不適切処方(PIMs)

 潜在的不適切処方とは、PIMs(ピムス)とも言う、PIMsはPotentially Inappropriate Medicationsの略だ。高齢者に対して重篤な有害作用を引き起こしやすい薬剤、有害作用の頻度が多い薬剤、安全性に比べて有効性が劣る薬剤、より安全な代替薬がある薬剤のリストである。

 こうしたリストには「ビアーズ基準」(米国、1991年)、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」(日本、2005年)、「STOPP/START基準」(欧州 2008年)などがある。

 ビアーズ基準は1991年、マーク・H・ビアーズによって最初に作成されたPIMsリストだ。65歳以上の高齢患者を対象として、使用を避けるべき薬剤が載っている一覧表で、常に避けるべき薬剤、疾患・病棟によって避けるべき薬剤リストよりなっている。ビアーズ基準は世界で初めて作成されたPIMsリストで2003年に改訂されている。

こうしたビアーズ基準のようなPIMsリストは日本では2005年に「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が一般社団法人老年医学会より公表された。このガイドラインの最新版は2025年版が老年医学会より公表されている。認知機能低下を理由とした「特に慎重な投与を要する薬物リスト」の例を図表3に示す。

図表3

 日本老年医学会 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015年

 また欧州では専門家会合で、STOPP(不適切処方)に加えて、START(使用すべき処方)を作成している。最新版は2015年である。

⑥服用中断

 多剤服用はしばしば患者による服用中断を招く。しかし患者は医師に服用中断を言い出しにくい。このため残薬が増える。その結果、残薬による医療費のムダが400億円にも上るという。訪問診療をすると患者さんの残薬量の多さにビックリすることがある。段ボールひと箱分の全く手つかずの薬袋の山がでてくる。

 患者さんは医者には言い出しにくいが薬剤師には残薬のことを話すようだ。この残薬情報を医師側に伝えてほしい。残薬情報をもとに処方から当該薬剤を減薬することができる。

 また患者さんから残薬を言い出しやすい仕組みを作ることだ。それには「減薬お願いカード」を患者に渡して、患者が医師・薬剤師にカードを提示してはどうか?減薬お願いカードの裏面には、患者への質問を記入しておく。①薬の数を減らしたいですか?②どの薬を止めたいですか?③どの薬だったらやめることができますか?やめるためのアドバイスが欲しいですか? この質問に患者が答えを記入して、医師・薬剤師に手渡すのだ。

 さてポリファーマシーについて見てきた。ポリファーマシーの取り組みを通じて、処方をもう一度見直すことで、その人に合った治療方針、治療方法を考えるきっかけにしてはどうか? そして減薬することがゴールではない。減薬後の患者フォローアップが大事だ。減薬PDCAサイクルを回そう。

3 診療報酬とポリファーマシー

 ここらはポリファーマシーに対する減薬を評価する診療報酬評価を医療機関における取組、薬局における取組について見ていこう。

①医療機関における取組

 薬剤総合評価調整加算は、2016年度の診療報酬改定で新設された。入院中に多職種の連携によって内服薬の総合的な評価と処方内容を変更した場合に評価する。さらに薬剤調整加算は、退院時に2種類以上の原薬に至った場合の評価だ。

 外来や在宅患者に対して減薬を行った場合にも2種類以上の減薬に至った場合にも薬剤総合評価調整加算による評価が行われる。そしてその結果を薬局へ結果報告した場合には連携管理加算もつくことになった。

 しかし入院中のポリファ―マシー対策の現状を見ると、薬剤総合評価調整対策加算の算定現状は、2種類以上減薬に至った割合は16.7%しかない。減薬が進まぬ理由は、「入院期間が短いこと」、「処方の変更に対する反応を確認する必要があること」などが挙げられた。また「人出不足で、対象患者の抽出や検討をする時間がない」ことだった。特に「人出については薬剤師数が足りない」ことが挙げられた。ただどの医療機関でも、薬剤師の業務としての「減薬」を充実させることは必要性を感じていて、そのための医師、看護師の協力が必要であることの共通認識は持っているようだ。

②薬局における取組の評価

 薬局が医師に減薬の提案を行い、その結果処方される内服薬が2種類以上減薬した場合の評価として服用薬剤調整支援料1がある。また複数医療機関の処方による重複投薬解消の提案を行った場合、服用薬剤調整支援料2で評価される。さらに重複投薬等に関する疑義照会等に関する評価としては重複投薬・相互作用等防止加算がある(図表4)。

 服用薬剤調整支援料1,2および重複投与・相互作用等防止加算の算定は年々増加の傾向にある。

図表4

      厚労省 入院・外来医療評価等の分科会 2025年7月17日

4 高齢者医薬品適正使用検討会

 以上見てきたのは患者本人に医療関係者がアプローチしてポリファーマシー対策を行うというミクロアプローチだ。一方、マクロの視点では、地域アプローチも重要だ。一定の地域におけるポリファーマシー対策を行い、その効果検証を行うための指標の設定について見ていこう。

 ポリファーマシー対策に関する検討会「高齢者医薬品適正使用検討会」(座長:印南一路)が、2025年7月に2024年度厚労省委託事業である「高齢者の医薬品適正使用推進事業」の結果を公表した。「高齢者の医薬品適正使用推進事業」は埼玉県と広島県をフィールドとして、地域ポリファーマシーコーデイネーターや薬剤調整支援者を設定し、地域ぐるみのポリファーマシー対策を行った。

 また同時にポリファーマシー対策の効果検証のための指標についても検討を行った。具体的には抗コリン薬などの薬剤起因性老年症候群の原因薬や、PIMsの処方状況を分析し、指標となりうる薬剤を上げ、①処方頻度が高い、②安全性の観点でのメリットが大きい、③指標の作成容易性が高い、④代替薬剤、代替療法があるの4つの観点を踏まえて、5つの個人属性と、3つの療養環境ごとに分類した上で、指標例を提案している(図表5)。

図表5

       厚労省 高齢者医薬品適正使用検討会 2025年7月9日

具体的な指標例としては、個人属性・療養環境×薬剤×処方状況の組み合わせで導き、処方状況については、処方割合、処方薬剤の種類数、投薬機関、投与量、使用量などで構成するという。

 指標の用い方としては、指標となり得る薬剤の処方数を減らすなどをアウトカムとして、地域(自治体、保険者等)や医療機関、介護施設等で経時的にモニタリングを行い、活用する方法を想定している。

 今後こうした指標を活用した地域ぐるみのポリファーマシーアプローチが期待される。

参考文献

厚労省 「薬剤種類数別にみた処方せん枚数(受付回数)の分布」 2018年6月7日

日本老年医学会 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015年

厚労省 入院・外来医療評価等の分科会 2025年7月17日

厚労省 高齢者医薬品適正使用検討会 2025年7月9日