レポートの投稿

ゼロから分かる医療DX(2)


本連載シリーズは、著者が2023年に執筆した「医療・介護DX~コロナデジタル敗戦からAIまで~」(日本医学出版)をもとに、医療DXについてQ&A形式で分かりやすく解説するシリーズだ。今回は医療DXの一丁目一番地ともいえるマイナンバーについて見ていこう。

Q&A マイナンバーの紐づけに潜む魔物ってなに?

 マイナンバーを健康保険証として使うには、まず保険者が保有している本人情報をマイナンバーと紐づけすることが必要だ。本人を紐づけするには名前、生年月日、性別、住所などの4情報が必要だ。しかしこの4情報の中に魔物が潜んでいて、マイナンバーとの紐づけを妨げている。

2023年末にマイナンバーと紐付けられた健康保険証の情報について、政府が住民基本台帳と照合したところ、氏名などが一致しないケースがおよそ139万件にのぼっていることが分かった。このうち、別人の情報がひも付けられていたのは450件程度と推計された。

紐づけミスがなぜ起きたのか?その理由を見ていこう。実は本人を識別する4情報の中でも名前と住所にミスを誘発する魔物が潜んでいるのだ。まず名前から見ていこう。最初の魔物は同姓同名だ。ある調査によると100万件の姓名のうちなんと35万件も同姓同名があったという。最頻出の名前は男性では鈴木実、女性では鈴木和子だ。第二の魔物は漢字の魔物だ。渡辺・渡邊、富山・冨山、峯村・峰村などを保険者が漢字変換を誤って入力したとたんに個人識別ができなくなる。三番目の魔物は名前の読み方だ。きらきらネームが読みにくい。山田光宙(ぴかちゅう)、山田大空(すかい)、山田騎士(ないと)など。これは漢字にカタカナでフリガナをつけることで解決できる。

 次に住所にも魔物が潜んでいる。実は住所には2種類ある。「地番」と「住居表示」だ。地番は法務局が土地一筆ごとに定めた住所のことだ。一方、住居表示は市町村が定めた表示で、郵便物を配達する場合に使われる。この地番と住居表示が混在して使われている。たとえば千葉県のデズニーアンバサダーホテルの住所は千葉県浦安市舞浜2-11だ。これは地番で「舞浜の2番地11」と言う意味だ。一方、浦安市の舞浜小学校の千葉県浦安市舞浜2-1-1は住居表示だ。こちらは「舞浜2丁目1番1号」だ。さらに省略記号の2-1-1の入力誤りも多い。数字の半角・全角、ハイフン・ダッシュの入力誤りだ。

以上のように気が遠くなるような魔物の連続だ。これで紐づけミスをするなと言うほうがムリだ。実は、こうした紐付け誤りはこれまでもたびたびあった。たとえば2007年におきた消えた年金記録では、紐付けが出来ずに宙に浮いた年金件数が5095万件にものぼった。これに比べたら、今回の139万件はまだすくないほうだ。実は今回のマイナンバーはこの消えた年金記録問題を契機に導入された。

こうした紐づけミスを防ぐ方法は以下だ。保険者による手入力の打ち込み作業そのものをデジタル化することだ。そしてみんながマイナンバーを取得して、健康保険証の更新申請のときに本人のマイナンバーを書き込むことだという。

この連載の第一回でも述べたようにデジタル・トランスフォーメーションとは河を渡って対岸に出ることだ。今は流れの速い河を渡る途中だ。なんとか渡り切って対岸に早く出よう。それまでの辛抱だ。全員が渡り切って対岸に出れば、診察券から健康保険証から運転免許から公的身分証明書まですべて1枚のマイナンバーカードですむ世界が開かれる。

コーヒーブレイク ダブルID

 病院では患者間違いを避けるために、かならず氏名と生年月日を本人から申告してもらう。いわゆる「ダブルID」が主流となりつつある。みなさんも外来の診察室に入るとき医者から「お名前と生年月日を言ってください」と言われたことがあるかもしれない。私も10年来通っているある大学病院で馴染みの医者から、ある時から「すみません名前と生年月日を言ってください」と言われて戸惑ったことがある。

 逆に自分が外来の診察しているとき、つい忙しさにかまけて入って来た患者さんに、名前を聞かずに診察を始めて、「なんか変だな?」と違和感を感じたので、「すみません〇〇さんですよね?」と聞くと、患者さんが慌てて「違います」と言われて大慌てをしたことがある。やっぱり杓子定規だけれどダブルIDが大事だ。

 しかし大慌てではすまなかった事件が1999年に起きた。ある大学病院の手術室で、心臓の手術をすべき患者と肺の手術すべき患者の取違事件が起きた。結局、心臓を手術すべき患者は肺を切除され、肺を手術すべき患者は心臓手術を受けたのだ。当時はまだ手術前に鎮静剤の投与を行っていたころなので、患者さんは意識もうろう、「〇〇さんですね」という手術室の看護師の呼びかけに患者が「はい」と答えたのだろう。しかし実はその手術中、だれもが少しづつ違和感を感じていた。看護師は手術前の病室訪問のときと患者の顔が少し違うと思った。また麻酔医は心臓の手術をする患者の循環状態が術前より良好なのでおかしいと思った。肺の手術をした執刀医は肺病変が思ったより小さいと違和感を感じていた。しかし誰もが言い出せずに最後まで二人の手術が進行し、しかも無事に手術が終わったのだ。そして取違に気づいたのは術後のことだった。なんという恐ろしい事件だろう!

 この事件を契機に、手術前の鎮静剤投与を行わず、患者は歩いて手術室に入り、看護師からダブルIDを求められ、自ら氏名と生年月日を申告するようになった。

 あと左右間違いも時々ある。以前、私が歯医者で親知らずを抜歯して貰った時のことだ。良く知っている歯医者なので雑談しながら麻酔をかけてもらった。でも右の親知らずなのに、なぜか歯医者は左の親知らずに麻酔の注射をしている。変だなと思って「右ですけど」と言ったら、あわてて「すまんすまん」と言って、改めて右にも麻酔してくれた。おかげで麻酔がよく効いて、終わったあと顎をしばらく閉じることができなかった。

 医者にかかるときには氏名と生年月日、そして左右をちゃんと言おう。