
図表1厚労省 第8次医療計画等に関する検討会 2022年3月4日
2026年診療報酬改定の議論が、2025年6月より中医協の下部組織、入院外来等の調査評価分科会(以下、入院外来分科会)で始まっている。前回は2024年診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟」の現状と課題について見た。今回は外来医療について入院外来分科会の議論から見ていこう。外来医療におけるかかりつけ医機能や生活習慣病管理料等についてだ。まず外来医療の現状から見ていこう。
1 外来医療の現状
2025年3月末における全国の外来患者数は118万4500人だった。全国の外来患者数は2025年にピークを迎え、2030年以降は減少傾向になると見込まれている。しかし全国の335の二次医療圏別にみると、その状況はまちまちだ。すでに全体の7割近い224の医療圏で、外来患者は2020年までにすでにピークアウトしていて減少局面に入っている。一方、医療圏によっては2040年にピークアウトするところもある。それは大都市圏の医療圏だ。冒頭の図表1で赤やピンクのところは外来患者数が2020年以前に最大を迎えた医療圏で、ブルーのところは2040年にピークを迎える大都市圏の医療圏だ。また年齢階級別の外来患者の伸びをみると、65歳以上の高齢者が占める外来患者数の割合は上昇傾向が続き、2050年には外来患者全体の約6割になると推計されている。75歳以上、85歳以上も同様に上昇が続く見込みだ。65歳以上の高齢者の外来患者が増えるということは、一人で複数疾患を持つ患者への対応、認知症への対応、高齢者の介護福祉、すなわち地域包括ケアとのかかわりを持つ外来患者が増えることを意味する。
著者も横須賀市の衣笠病院で週2回の外来診療を行っている。外来にくる患者さんの8~9割は高齢者だ。それも80歳代、90歳代の超高齢者の方が多い。80歳後半の高齢女性の車いすを90歳代の夫が押しながらやってくることもある。また80歳代の高齢男性の患者が、待合室に一人にしておけない認知症の妻の手を引いて診察室に一緒に入ってくることもある。こうした患者さんを病院のケースワーカにつなぐことも日常茶飯事だ。
こんな中、ときどき40~50歳代の若い方が来られるとかえってビックリして思わず「お若いのに、どうされました?」と聞いてしまう。
2 改正医療法とかかりつけ医機能
2022年5月にかかりつけ医機能の制度整備などを盛り込んだ改正医療法が国会で成立した。かかりつけ医機能を医療法に書き込むことが厚労省の長年の悲願だった。というのもかかりつけ医機能とその提供体制が、医療を支えるインフラであるからだ。
改正医療法ではかかりつけ医機能を以下の5つと定めた。
①日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能
②時間外診療を行う機能
③病状急変時等に入院など必要な支援を提供する機能
④居宅等において必要な医療を提供する機能
⑤介護サービス等と連携して必要な医療を提供する機能。
そして2025年度より、かかりつけ医機能報告制度が本格化する。かかりつけ医報告制度は、「かかりつけ医機能報告」を各医療機関が都道府県知事に報告をすることから始まる。そしてこれを受けて知事は、報告した医療機関がかかりつけ医機能を有することを確認し、外来医療に関する地域の関係者との協議の場に報告する。そして地域の協議の場ではかかりつけ医機能を確保するための具体的方策を検討し公表することになる。
かかりつけ医機能報告は、1号機能、2号機能の報告からなる。1号機能は「継続的な医療を要するに対する発生頻度が高い疾患に係る診療、その他の日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能」に関する報告である。具体的には頻度の高い40疾患と17の診療領域が挙げられている。40疾患と17診療領域は、高血圧、腰痛症、関節症、かぜ・感冒、皮膚の疾患、糖尿病などの日常よく遭遇する40疾患と、その診療領域、たとえば循環器系、筋骨格系、呼吸器系などの17診療領域である(図表2)
図表2

厚労省かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会 2024年7月5日
2号機能は「時間外の診療」、「病状が急変した場合の入院診療」、「病院等からの退院支援」、「在宅医療対応」、「介護連携」などの機能である。「1号機能」を有する医療機関が「2号機能」を持つか否か、その内容とは何かを報告する。
このため2号機能の報告とは、具体的には以下の項目を指す。①通常の診療時間外の診療、②入院時の支援、③在宅医療の提供、④介護サービス等と連携した医療提供等である。図表3にその詳細をしめした。
図表3

厚労省かかりつけ医機能が発揮 される制度の施行に関する分科会 2024年7月5日
図表3にあるように、①の診療時間外診療については、在宅当番医制・休日夜間急患センター等への参加、患者に自院の連絡先を渡したうえでの随意対応、他の医療機関と連携しての随時対応があげられる。連携する場合は連携医療機関の名称などが報告対象となる。
②の入退院時の支援については、在宅患者の後方支援病床を確保していること、地域の退院ルールや地域連携クリティカルパスに参加し、入退院時に情報共有・共同指導を行う機能などが報告対象となる。
③の在宅医療の提供は、自院で日中のみ対応、自院で24時間の対応、そして自院での一定の対応に加えて、他の医療機関と連携しての24時間対応を報告する。他の医療機関と連携する場合には連携医療機関の名称等の報告が必要である。また訪問診療、往診、訪問看護事業等の診療報酬項目の算定状況、訪問看護の算定状況、在宅看取りの実施状況等を報告する。
④の介護サービス等と連携した医療提供については、介護サービス等の事業者と連携して医療を提供する以下の機能を報告する。主治医意見書の作成、地域ケア会議・サービス担当者会議等への参加、ケアマネとの相談機会の設定等、ケアマネへの情報共有・指導の診療報酬項目の算定状況、介護保険施設等における医療の提供状況、地域の医療介護情報共有システムの参加・活用状況、ACPの実施状況。
その他の項目としては健診、予防接種、学校医産業医、警察業務などの地域活動、学生・研修医・リカレント教育等の教育活動などが挙げられる。
3 診療報酬改定とかかりつけ医機能
かかりつけ医機能を評価する主な診療報酬の評価について見ていこう。地域包括診療料・加算、機能強化加算など。
(1)地域包括診療料・加算
かかりつけ医機能を代表する診療料や加算に地域包括診療料と地域包括診療加算がある。地域包括診療料は、診療所または病床200床未満の病院が算定する包括診療料だ。これに対して地域包括診療加算は診療所のみが出来⾼算定する。
この地域包括診療料・加算ではこれまで高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾病から2つ以上の疾病を対象疾患とすることが要件だった。2024年改定から、この疾患要件に慢性心不全と慢性腎臓病(CKD)が加わることになった。慢性心不全やCKDはかかりつけ医における日常的な医学管理と重症化予防、専門医療機関や介護等の連携、在宅医療の提供が必要だ。とくに慢性心不全は水分・塩分管理の問題や、服薬中断や感染症ですぐに悪化する。そしてその重症化予防には多職種連携が必要だ。またCKDも進行すると末期腎不全や透析療法が必要になるほか、心血管疾患や死亡リスクを上昇させることから重症化予防が必要な疾患だ。こうした疾患の疾病管理をかかりつけ医のもと、多職種で行うことが必要だ。このため2024年改定では、「総合的な治療管理」において看護師や薬剤師、管理栄養⼠などの多職種との連携で行うことを明確化した。
また地域包括診療料・加算では服薬管理、健康管理、介護保険制度対応、在宅医療の提供及び24時間の対応が求められる(図表4)
図表4

厚労省 2024年診療報酬改定の概要 2024年3月
地域包括診療料・加算の現状を見ていこう。病院・診療所が対象の地域包括診療料の算定回数は近年減少傾向にあり、医療機関数は2023年で診療所226軒、病院51軒である。一方、診療所が対象の地域包括診療加算は届け出医療機関数5956軒、算定回数12752件とも増加傾向にある(図表4)。
地域包括診療料を届けていない理由としては「24時間対応薬局との連携」、「上記医師の配置」、「在宅療養支援診療所」でないことを上げていた。
図表4

厚労省 入院外来等の調査評価分科会 2025年6月19日
2026年改定のポイントは、以上の実績に加えて、医療法改定により定義づけられたかかりつけ医機能やかかりつけ医機能報告を反映した診療報酬改定項目になる可能性がある。まずは各医療機関は1号機能報告、2号機能報告に自院がどれくらい適合しているかをチェックしてみてはどうだろう?
(2)機能強化加算
機能強化加算は、2018年診療報酬改定でかかりつけ医として適切な役割分担を図り「専門医療機関への受診の要否の判断」などを含めた「より的確で質の高いかかりつけ医機能」を評価する目的で創設された。2022年度診療報酬改定ではかかりつけ医機能をより強く発揮してもらうための要件見直すために、実績の要件化が図られた。
機能強化加算はかかりつけ医を評価する地域包括診療加算・地域包括診療料の加算として設定されていて、初診に対して80点という高額な点数がついている。そしてその要件は以下である。「患者が受診している他の医療機関及び処方されている医薬品を把握し、服薬管理を行うとともに、診療録に記載すること」、「専門医師又は専門医療機関への紹介を行うこと」、「健康診断の結果等の健康管理に係る相談に応じること」、「保健・福祉サービスに係る相談に応じること」、「診療時間外を含む、緊急時の対応法等当に係る情報提供を行うこと」。そしてこれらの対応を行うことができる旨を「院内掲示やホームページに等に掲示し、必要に応じて患者に説明を行う」こととしている。この機能強化加算の算定・届け出状況は図表5のようで、算定回数は増加しているものの、届け出医療機関数は横ばいである。
図表5

厚労省 入院外来等の調査評価分科会
2025年の中医協の実態調査によると、機能強化加算の説明を受けた患者は39%で、院内掲示を見た患者は46%だった。また介護との連携について調査したところ、要介護認定に関する主治医意見書に取り組んでいる医療機関は9割以上あった。また機能強化加算を取得している医療機関の方が、取得していない医療機関より介護との連携により取り組んでいた。
また処方薬の一元管理、健康診断の相談、予防接種、学校医に取り組んでいる医療機関は、機能強化加算を取得している医療機関の方が取得していない医療機関より多かった。
かかりつけ医に関連した研修を修了した医師の有無を聞いたところ、日本医師会のかかりつけ医機能研修を修了した医師の在籍割合が43.5%と最も多かった。
ちなみにかかりつけ医機能報告の1号機能報告で報告を求められる17の疾患領域の対応可能医療機関の分布は図表5のようで、消化器系領域、循環器系領域、内分泌・代謝・栄養領域が上位3位であった。
図表6

厚労省 入院外来等の調査評価分科会 2025年6月19日
なお医学生、臨床研修医等の実習を受け入れている診療所は10%程度で、専攻医を受け入れている診療所は4%程度だった。
(3)生活習慣病管理加算
主な外来の通院患者の疾病を見ると、2022年の統計では、人口1000人あたりの通院数は高血圧146.7人、糖尿病70.8人、脂質異常症53.7人と生活習慣病がトップ3位を占める。そしてこれらの疾患が総医療費に占める割合は26%以上で全体の医療費の4分の1を占めている。
さてこうした生活習慣病に係る診療報酬には以下の3つがある。①地域包括診療料・加算、②特定疾患療養管理料、③生活習慣病管理料。
①の地域包括診療料とは前述したように200床以下病院外来と診療所を対象に、生活習慣病を対象とし、かかりつけ医機能を評価する診療報酬項目である。地域包括診療料は200床以下の病院外来と診療所外来を対象とする。一方、地域包括診療加算とは診療所を対象とする。
この地域包括診療料・加算の対象疾患は高血圧症、糖尿病、脂質異常症、慢性心不全、慢性腎臓病(透析を行っていないもの)、認知症で、このうち2疾患以上の疾患をもつ患者を対象とする。
②の特定疾患療養管理料とは、生活習慣病等の厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者について、地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を行うことを評価したものだ。対象は許可病床数が200床以下の病院外来や診療所だ。特定疾患療養管理料は、対象疾患の患者に対して、治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った場合に、月2回に限り算定できる。
③の生活習慣病管理料は脂質異常症、高血圧症、糖尿病等を対象とし、治療計画を策定し、服薬、運動、休養、栄養、喫煙、家庭での体重や血圧の計測、飲酒およびその他の療養を行うに当たり、患者に対して療養計画書を作成し、それを丁寧に説明し同意を得て、署名をもらうことを要件に算定できる。生活習慣病管理料を算定するのは、糖尿病専門のクリニックなど栄養士など専門職を抱えた専門クリニックが多い。
では以上の3種類の生活習慣病管理に係る報酬のそれぞれの立ち位置と関係性について見ていこう。図表7では縦軸に専門性、横軸にかかりつけ医機能を配置して、それぞれの位置づけを見ていこう。地域包括診療料・加算は特定疾患療養管理料よりはかかりつけ医機能が強く、生活習慣病管理料は特定疾患療養管理料よりは専門性が強いという位置関係だ。
ところが、2024年改定で、特定疾患療養管理料から高血圧、糖尿病、脂質異常症がばっさりと削除された。これにはみんなあっけにとられた。中医協で示された改定の論点にこれらの疾患が入ってはいたが、まさか全面削除されるとは誰も思っていなかった。
このため特定疾患療養管理料の生活習慣病の行き場所は、残りの二つ、すなわち生活習慣管理料に移行するか、地域包括診療料・加算に移行するしか方法がない。しかし地域包括診療料・加算では在宅医療などかかりつけ医機能がなければ移行できない。このため大半は生活習慣病管理料に移行することになった。しかし前述したように生活習慣病管理料を取っているところは、これまで糖尿病専門クリニックのような専門性の高いところが多い。こちらに飛び移るのもなかなか大変だ。
図表7

では2024年改定における生活習慣病管理料の改定ポイントを見ていこう。まず最大の変化は前述の特定疾患療養管理料から生活習慣病がごっそり削除されたことだ。そしてその受け皿となった生活習慣病管理料も以下に変更が加えられた。一つは生活習慣病管理料の包括から検査料も外した新たな生活習慣管理料Ⅱを設定することになった。当初、薬剤料や検査料を包括していた生活習慣病管理料ではあるが、2022年に前述のようにまず薬剤料が包括からはずされた。そして2024年改定で検査料も外された。検査料が外されたのは、生活習慣病以外の疾患をも併存する多疾患の患者が増えたからである。
その他の生活習慣病管理料の見直しのポイントは以下である。療養計画書もやや簡素化された。また電子カルテ情報共有サービスを運用する場合は、血液データを療養計画書に記載を省くことができるようになった。そして診療ガイドラインを用いることが要件となった。また月1回総合的な治療管理を行う要件が外された。また糖尿病患者に歯科受診を勧めることが要件となった。そして従来の点数が40点増しとなった。歯周病は慢性炎症として糖尿病コントロールに影響を及ぼすことが知られているからだ(図表8).。
図表8

厚労省 2024年診療報酬改定の概要 2024年3月
この結果を中医協の実態調査から見ていこう。特定疾患療養管理料は生活習慣病がバッサリ削除されたことから、算定回数が大幅に減少した。一方、その受け皿となった生活習慣病管理料等の算定回数・算定医療機関数は大幅に増加した(図表9)。
図表9

厚労省 入院外来等の調査評価分科会 2025年6月19日
衣笠病院でも特定疾患療養管理料を取得していたので、生活習慣病管理料への移行は大変だった。2024年6月から移行したが、やはり療養計画書(図表10)の記載が大変だ。著者も栄養科の栄養士が下書きをしてくれている療養計画書に追加記入をしてなんとか提出している。でも時々記載を忘れて、医事課から注意されている。ただ療養計画書を患者さんと一緒に見ながら指導できるのはありがたい。口頭での説明より書面にするとずっと指導効果は上がるようだ。
図表10

厚労省 入院外来等の調査評価分科会 2025年6月19日
中医協の実態調査によると、療養計画書を交付を受けた患者に尋ねたところ、療養計画書により「継続的に通医治療を受ける必要性についての理解が深まった」、「食事、運動、休養などの総合的な治療管理についての理解が深まった」が多く、効果は明らかなようだ。
一方、200床以下の病院に対して、生活習慣病管理料を算定していない理由を聞いたところ、「算定対象となる患者義ない、もしくは少ないため」が73.2%と最も多かった。次に多かったのは「療養計画書に記載する項目が多く、業務負担が大きいため」が14.4%だった。
また糖尿病治療におけるガイドラインを遵守することもポイントだ。たとえば高齢者の糖尿病のHbA1cのコントロール目標が「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」(2016年)によって、8.0未満に変更されたことにも留意が必要だ。HbA1のコントロール目標は年齢、認知症、使用薬剤で変わる。とくに75歳以上の高齢者は重症低血糖が危惧される薬剤を使用しているときは、目標値は8.0未満と高めにする。
あと最近の糖尿病治療での外来でのトピックスは「マンジャロ(チルゼパチド)」の登場だ。マンジャロはインクレチンという消化管ホルモンの関連薬だ。インクレチンは食事の摂取などにより消化管内分泌細胞から分泌され、すい臓のランゲルハンス島のβ細胞からインスリン分泌を促進する働きがある。このマンジャロを2型糖尿病の患者に使ってみて驚いた。あれやこれや手を尽くしてもHbA1cが8以上からなかなか下がらない患者さんにマンジャロを週一回皮下注すると、1か月で食欲が落ちて体重減少が起こり、HbA1cも一挙に7近くまで下がった。いままでの苦労はなんだったんだろうという思いがした。久々に新薬の威力を体験した。
以上、かかりつけ医機能や生活習慣病管理料について現状を振り返った。2026年改定では、外来医療が大きなポイントの一つだ。改正医療法によりかかりつけ医機能が明確に定義された。生活習慣病管理料等が大きく変更された。2026年改定へ向けて、引き続き中医協の議論に注目したい。
参考文献
厚労省 第8次医療計画等に関する検討会 2022年3月4日
厚労省 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会 2024年7月5日
厚労省 2024年診療報酬改定の概要 2024年3月
厚労省 入院外来等の調査評価分科会 2025年6月19日