
図表1 厚労省 第8次医療計画等に関する検討会 2022年7月20日
2026年からスタートする「新たな地域医療構想」の目標年は2040年だ。2040年は65歳以上の高齢者人口が最もピークとなる年だ。この年を目指した新たな地域医療構想では、これまでの入院病床に関する構想を外来、在宅までに拡張する。そして地域医療構想は医療計画の上位の概念として位置付けられることになった。
今回はこうした地域医療構想の中でがん診療に焦点を当ててみていこう。2040年へ向けてがん診療の提供体制も大きく変わる。それはがん診療の均てん化と集中化だ。
1 がんの罹患・死亡の現状
まず日本のがんの罹患や死亡の現状を見ていこう。国立がん研究センターがん情報センターの2023年統計によれば、日本人の2人に1人が一生の間でがんにり患する。男性60.5%、女性50.2%だ。がんの粗死亡率も1981年にがんが死亡順位で1位に躍り出て以来、上昇の一途をたどっている。現在のがんによる死亡者数は年間30万人以上で、死亡順位1位だ。ちなみに2位は心疾患、3位は脳血管疾患、4位が肺炎である。
がんは高齢になればなるほどり患が増える高齢者の疾患だ。このため高齢者人口の増加とともに、そのり患や死亡が増える。このため年齢の影響を差し引いた年齢調整死亡率を見ることが大事だ。この年齢調整死亡率を見ると、なんと男性では1990年代後半から、女性では1960年代後半からがんの死亡率は下がり始めている(図表1)。これは先進各国で共通した現象だ。
この原因については禁煙の普及が挙げられる。1990年代後半の禁煙率は男性では50%以上、それが現在は25%に半減した。米国では日本より禁煙の普及が早かったので1990年代初頭からがんの死亡率が減りだしている。
がんの入院患者数も減っている。推計入院がん患者数の推移を見ていこう。図表2でみるように、2008年に14万人もいたがん入院患者数は2023年には10万人と、15年間で4万人も減っている。これはどうしてだろう?理由は平均在院日数の減少だ。退院患者の平均在院日数をみると2002年に35.7日だったがんの入院日数が、2023年には14.4日まで6割近くも減少している。
理由はがんの手術が鏡視下手術のような低侵襲の術式になって入院日数が減ったこと、がんの治療が入院の手術療法から外来の化学療法に移行したこと、高齢のがん患者が増えたため、以前より手術適応のがん患者が減ったこと、診療報酬の平均在院日数縛りが強化されたことなどが挙げられる。このため多くのがん患者が入院から外来へ移行したことにより、入院患者と外来患者を合わせた総数としてはあまり変わらない。
図表2

厚労省 第16回がん診療提供体制のあり方に関する検討会 2024年12月23日
2 がん対策基本法とがん対策推進基本計画、医療計画
ここからはがんに関する法整備の経緯を見ていこう。がんや循環器疾患などの重要疾患にはそれぞれ基本法が設けられている。がんの基本法は2006年に成立した「がん対策基本法」だ。同法は、がん対策のため、国、自治体の責務を明確にして、がん診療における質の高い医療の提供や、がんの治療の機会の均てん化、すなわち地域格差の解消を目指している。
この法律案は当初、与党自民党と野党民主党の間で調整が手間取ったこともあり一時成立が危ぶまれた。しかしこうしたなか民主党の山本孝史議員が自らのがんを告白して行った国会質問により国会の流れが変わる。この質問により与野党が一致してがん対策基本法に賛成したため法律が成立した。しかし山本議員は法案通過の翌年2007年に胸腺がんのため58歳の若さで亡くなる。しかしがん対策基本法成立と言う大きな功績を残した。
つぎにがん対策推進基本計画について見ていこう。この計画は、がん基本法に基づき策定され、がん診療の具体的な目標や施策を定めている。例えば、がん診療連携拠点病院の設置や、医療従事者の専門性向上、最新の治療法へのアクセス強化などが含まれている。
さらにこのがん対策推進基本法を都道府県において実施するのが医療計画だ。医療計画は、国が指針をつくり都道府県が策定し、医療提供体制の基本計画をなすものだ。その中で、がん診療は重点領域5疾患の一つとされている。医療計画ではがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院の役割が強調され、適切ながん診療ネットワークの構築を目指している。
3 医療計画とがん診療
医療計画は6年に1回改定される。ここでは2024年からスタートしている第8次医療計画におけるがん診療について見ていこう。医療計画におけるがん診療は、がん対策推進基本計画を踏まえて、次のような方向性で計画が作られている。
がん診療の地域格差是正である均てん化を目指して、全国456のがん診療連携拠点病院がこれまで整備されてきた。しかしこうした拠点病院がない空白の医療圏もある。こうした「拠点病院のない空白医療圏についてどのように考えるか?」。また、「各世代別のがん、特に小児・AYA世代のがんについて、また高齢者のがんについてどのように考えるか?」などが第8次医療計画の課題となった。なおAYA世代とはAdolescent and Young Adult世代の略で、思春期・若年成人の15から30歳の世代を指す。
- がん診療連携拠点病院の空白医療圏
全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう、全国にがん診療連携拠点病院は2023年現在、456か所が設置されている。その内訳は都道府県がん診療連携拠点病院、地域がん診療連携拠点病院(高度型)、地域がん診療連携拠点病院、地域がん診療連携拠点病院(特例型)、特定領域がん診療連携拠点病院、国立がん研究センターだ。
この配置を全国365か所ある二次医療圏での分布をみると、なんとがん診療連携拠点病院のない二次医療圏が2022年は全国336医療圏のうち60医療圏もある。ただその数は2014年の108か所から年々減少はしている(図表3)。
図表3

厚労省 第10回第8次医療計画等に関する検討会 2022年7月20日
こうした空白医療圏はこれからますます人口が減っていく医療圏でもあり、今後のがん医療の需要を見極めてがん診療連携拠点病院を設置する必要があるかどうかも決めなくてはならない。場合によってはがん医療圏そのものを見直して近隣医療圏と合わせてその配置の必要性を考えるなどの方策が必要だ。
たとえば和歌山県の有田医療圏は拠点病院のない空白の医療圏だった。しかし有田医療圏のがん患者の受療動向を見たところ、お隣の和歌山医療圏で初回治療を受けている割合が高いことがわかった。このため有田医療圏と和歌山医療圏を併合して和歌山・有田医療圏とすることにした。また奈良県の南和医療圏では拠点病院がなかった。しかし同医療圏内の大淀町立大淀病院、奈良県立五條病院、吉野町国民健康保険吉野病院の機能再編を行った結果できた南奈良総合医療センターに3病院のがん医療を集約し、その結果、2017年に同センターが地域がん診療病院に指定され空白医療圏を解消した。
またがん診療連携拠点病院間の人材不足、地域間の人材の偏在も課題だ。たとえば抗がん剤治療の中心となる腫瘍内科医については日本全体で不足が生じている。そして腫瘍内科医の都道府県格差、拠点病院間の格差を招いている。たとえば都道府県別のがん薬物療法の人口当たりの専門医数をみるとトップの石川県と最も少ない沖縄県の間では9.6倍の格差がある。さらにがん薬物療法専門医は国立がん研究センターには35人もいるのに対して、都道府県がん診療連携病院は5人,地域がん診療連携拠点病院は1人とその格差ははなはだしい。そしてその格差は年々拡大していて、人材の均てん化とは程遠い。こうした人材の偏在を解決するひとつの方法としては都道府県拠点病院の専門医が地域拠点病院における医師と患者の間に専門医を加えたオンライン診療によるD to P with Dのような仕組みが必要だ。また緩和ケアについては、がん診療連携拠点病院以外の医療機関との地域連携による緩和ケアの充実が必要であるとされた。
- 小児・AYA世代がん
小児・AYA世代のがんの罹患率(2009-2011年)は、小児がん(0~14歳)は人口10万人あたり12.3、AYA世代のがん罹患率は15~19歳で14.2、20歳代で31.1、30歳代で91.1である。*これらの罹患率を日本全体の人口に当てはめると、1年間にがんと診断されるがん患者の数は小児がん(0~14歳)で約2,100例、15~19歳で約900例、20歳代で約4,200例、30歳代で約16,300例と推計される(図表4)。
図表4

国立がん研究センターがん対策情報センター小児AYAがんり患データベースより
各年代のがん種のトップは、0歳~19歳では白血病、20歳~29歳では胚細胞腫瘍、性腺腫瘍、30歳~39歳では女性乳がんである。とくにAYA世代の患者の抱える悩みは多い。治療のために進学や就職が困難になる、抗がん剤や放射線治療による性腺機能不全の心配や容姿の問題で恋愛や結婚に消極的になる。
しかしその治療成績は向上して、長期生存の割合が増えている。全国の主ながん専門病院でがんと診断された人のデータをもとに、国立がん研究センターが2021年12月に公表したデータによると、白血病の小児がん患者の5年生存率は88.0%とすべての年代の患者のデータより高かった。しかし生存年の延長は同時に長い期間、合併症や生活の困難に悩む患者も増えることを意味する。
このため小児・AYA世代のがんについては特に医療機関間の連携が必要だ。特に小児腫瘍科と成人腫瘍科との間の連携、そして小児がん診療拠点病院とがん診療連携拠点病院、地域のかかりつけ医との連携が必要だ。
- 高齢者のがん
人口の高齢化とともに65歳以上の高齢者のがん患者が増えている。1975年には高齢者のがん患者は9万8千人だったが、30年後の2005年には43万人に4倍増となっている。高齢者ががんになると腎臓障害などの他臓器の合併症を有していてがん治療に耐えられなかったり、認知症などで意思決定ができなかったり、独居や介護施設等に入所していたりする。このため高齢者のがん患者は、65歳以下の若い年代が受けているがんの標準的な治療法の適応があってもそれを受けることが困難となる。
また高齢者のがんの特徴として進行がんで発見されるケースも多い。このためその情報を本人に知らせ意思決定を行うアドバンスケアプラニング(ACP)を行うこと、さらに高齢者の身体的、心理的、社会環境的な評価を行い適切な診療方針を検討する高齢者の総合的評価法(CGA:Comprihensive Geriatric Assessment)を行うことがポイントである。しかしこれらが現状ですべての医療機関や介護施設で行われているかと言えば、決してそうではない。
たとえば高齢者のがん診療における意思決定支援の手引きによれば、「話やすい場面で、分かりやすい言葉で選択し提供する」、「言葉以外のコミュニケーション、うなずくことや手ぶり、笑顔からも高齢者の意思を読み取る」、「繰り返して尋ねることが必要」としている。
しかし実際には高齢者施設でACPの手引きを作り、取り組んでいる施設は全体の3~4割にとどまっている現状だ。
またCGAについてもがん診療連携拠点病院において、高齢者のがん治療にCGAが活用されているケースは少ないという。2020年の施設調査によると、「CGAについて良く知らない」「CGAは時間がかかる」「CGAを評価できるスタッフがいない」などの回答がかえってくる。
このため、高齢者のがん患者が、それぞれの状況に応じた適切ながん医療を受けられるよう、拠点病院等と地域の医療機関及び介護施設等との連携体制の整備を進めるとともに、都道府県のがん診療連携協議会でも高齢者のがん患者の診療体制についても話合うべきととしている。さらに高齢がん患者が適切孔意思決定に基づいて治療を受けることができるように、患者、家族等の意思決定支援に係る取り組みを進めるべきとしている。
4 2040年を目指したがん診療提供体制
さて2026年より「新たな地域医療構想」が各都道府県でスタートする。新たな地域医療構想は2040年が目標年である。2040年は団塊ジュニアが前期高齢者となる年で65歳以上の高齢人口が最もピークとなる年である。2025年から2040年にかけて起きる人口の変化は、一言で言えば高齢者の高齢化である。高齢者の中でも超後期高齢者と呼ばれる85歳以上人口が毎年1割から2割増で増えていく。そして2040年に85歳以上の人口が1000万人を突破する。同時に起きることは生産年齢人口の激減だ。生産年齢人口の1千万人が2025年から2040年にかけて消えていく。
この変化は地域によって大きく異なる。変化は以下の3パターンに分けられる。大都市型、地方都市型、過疎地域型。この類型のすべてで生産年齢人口は減少の一途をたどる。一方、高齢者人口は大都市では増加、地方都市型では緩やかな増加、過疎地域では高齢者も減少する(図表5)。
図表5

厚労省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会 2024年8月26日
前述のがん拠点病院のない空白医療圏について見ると、2024年6月現在で空白の医療圏は56となっている。その空白の医療圏では人口が20万人を割っているところが多い。そしてそれらの医療圏では2040年へむけて人口が全国平均を超えて減っていく。こうした医療圏では前述したように医療圏の併合や、医療圏内での病院集約が必要となる。
このように空白医療圏をとってみてもこれまでの均てん化の方針と同時に人口減にともない、がん診療連携拠点病院の集約化も進める必要がある。がん診療連携拠点病院の均てん化と集約化はそれぞれの地域ごとに異なる。しかしおよそ以下の2つのルールで均てん化と集約化が決まる。1つ目のルールは医療需給の観点である。すなわち需要については「患者数の多いがんであるか?少ないがんであるか?」、供給については「医療資源(医療従事者、医療施設・設備)が比較的多い地域であるか?少ない地域であるのか?」。このうち集約化が必要なのは以下の3つのパターンだ。「患者数が多いがんで、医療資源が比較的少ない場合」、「患者数が少ないがんで医療資源も比較的少ない場合」、「患者数が少ないがんで医療資源は比較的多い場合」である。
もう一つの観点は医療技術の観点である。新規又高難度の技術が必要な場合、特殊な放射線治療設備が必要な場合にはこれらの技術を持つ医療機関に集中化させるべきだ。
これを図式化したのが図表6である。都道府県または複数の都道府県単位で集約が必要ながんには小児がん、希少がん、高度な手術や高度な薬物治療、粒子線治療や核医学治療など特殊な放射線治療が必要な場合だ。一方、医療圏単位で確保が必要ながん医療としては、病理診断、標準的な手術、薬物療法、強度変調放射線治療を含む放射線療法だ。そしてより多くの医療機関で均てん化が必要とされているのは、がん検診、がんリハビリ、緩和ケア等である。
図表6

厚労省 第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会 2025年3月21日
5 がん診療の集約化の現状
高度な医療技術を必要とするがん種では、ある特定の施設に症例を集中すべきだ。実際に消化器がんの施設集中について日本癌治療学会のデータから見ていこう。図表7は施設当たりの消化器がんの件数の推移を見たグラフだ。2012年を基準としてその施設集中の傾向をみると、膵頭十二指腸切除や食道切除・再建が施設集約が進んでいることが分かる。
図表7

厚労省 第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会 2025年3月21日
こうした施設集約によって何が起きるのだろう。たとえば食道がんの年間手術件数と、術後30日以内の死亡率の関係をみると、明らかに手術件数の多い方が死亡率が低い。これは現場で見ていれば当たり前のことだ。食道がんの手術を年間数件、お祭り騒ぎのように行っている施設の術後死亡率は高い。一方、毎週のように食道がんの手術を行って、年間50件以上をこなしている施設では、手術チームの練度も高いので死亡率も低い(図表8)。このため食道がんの5年生存率を高めるには食道がんの手術を1か所に集約すればよいと言える。同じことは肝胆膵がんの手術についても言える。つまり手術件数が多いハイボリュームセンターでこれらのがんを扱うことが必要だ。この他、呼吸器、泌尿器、婦人科領域のがんについても同じことが言える。
以上、高難度のがん手術は集約が必要だ。一方、それ以外のがん手術については均てん化で対応する。このように技術難度による集中と均てん化のバランスが必要だ。
図表8

厚労省 第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会 2025年3月21日
同じことは放射線治療についても言える。2040年の高齢化人口の増加により放射線治療実施患者数は増えていく。放射線治療施設数は全国800施設で頭打ちだが、強度変調放射線治療(IMRT)や定位照射など高精度治療を行う施設は増えている。
放射線治療実績数が多いほど、死亡リスクが低減することが分かっている。とくに頭頚部がんや前立腺がんの放射線治療にその傾向が強い。放射線治療においてもハイボリュームセンター化が必要だ。
また放射線治療には多大な初期投資と設備メインテナンス費用が掛かる。このため集約化が必要だ。粒子線治療(重粒子、陽子線)、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、専用病室を必要とするRI内用療法、密封小線源治療などは都道府県がん診療連携拠点病院や大学病院本院に集約すべきだ。
また医療圏単位で集約が必要なのは、高精度放射線治療(IMRT、IGRT)、IMRT以外の外照射、外来や特別措置病室でのRI内用療法、密封小線源治療(腔内照射)などであろう。
おわりに
2040年を目指したがん診療の提供体制について振り返った。人口減、高齢化、そして技術進歩の中でがん診療も大きく変わっている。そのキーワードは集中化と均てん化のルール作りだ。そしてがん患者の性年齢、がん種などのカテゴリー別の対応だろう。
参考文献
厚労省 第8次医療計画等に関する検討会 2022年7月20日
厚労省 第16回がん診療提供体制のあり方に関する検討会 2024年12月23日
厚労省 第10回第8次医療計画等に関する検討会 2022年7月20日
国立がん研究センターがん対策情報センター小児AYAがんり患データベースより
厚労省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会 2024年8月26日
厚労省 第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会 2025年3月21日
