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2040年問題と看護人材


新たな地域医療構想が2024年12月に取りまとめられ公表された。新たな地域医療構想は2040年を目標年としている。2040年は団塊ジュニアが前期高齢者となる年で、65歳以上人口がピークを迎える年である。この年を境に高齢者人口も減っていく。

 さらにそれにも増して危機的なのは、2025年から2040年へ向けて15歳から65歳の生産年齢人口が1千200万人も激減することだ。これまで誰も見たことのない人出不足の時代の始まりだ。2040年を目標とした新たな地域医療構想と看護人材の展望について見ていこう。

1 2040年問題とは?

(1)2040年の人口動態

2025年は著者もその一員の団塊の世代800万人のすべてが75歳以上の後期高齢者になる年である。そして2040年は団塊世代の子供たち、団塊ジュニアが前期高齢者となる年で65歳以上の高齢人口が最もピークとなる年である。2025年から2040年にかけて起きる人口の変化は、一言で言えば高齢者の高齢化である。高齢者の中でも超後期高齢者と呼ばれる85歳以上人口が毎年1割から2割増で増えていく。そして2040年に85歳以上の人口が1000万人を突破する。同時に起きることは生産年齢人口の激減だ。15歳から64歳までの生産年齢人口の1千200万人が2025年から2040年の間に消えていく。東京都の人口に相当する働き手が居なくなる。

 85歳以上の超後期高齢者が1000万人を超す一方、働き手は減る。85歳以上の高齢者は要介護認定率は6割近くで、しかも多くの疾患を抱えている。こうした医療介護の複合課題を抱える超後期高齢者に対して、それを支える医療福祉人材がこれまで以上に必要だ。このため2021年870万人の医療福祉の就業者数の必要量は2040年には1.070万人まで達する。これは働き手の5人に1人が医療福祉業界の就業者となることだ。2021年現在、就業者数が多い業界の1位は製造業で1,037万人、2位が医療福祉業界である。これが2040年、医療福祉職1070万人となることは、医療福祉業界が全職種就労人口の第一位を占めるということだ。2040年はすべての業種で人手不足が起きている。こんな中、医療福祉業界にこれだけの人を集めることが出来るかは疑問だ。

(2)大都市、地方都市、過疎地で異なる人口動態

 一方、高齢者の増加と生産年例人口の減少の割合は都道府県によって大きく異なる。大別すると以下の3つパターンとなる。それは大都市型、地方都市型、過疎地型だ。図表1を見てみよう。図表1では2025年と2040年の人口構成の変化を棒グラフで示している。人口変化の内訳は生産年齢人口はマイナス15%減だが、高齢者人口はプラス7.5%増である。その増減のパターンは大都市型、地方都市型、過疎地型のすべてで生産年齢人口は減少する。一方、高齢者人口は大都市型では17.2%の増加、地方都市型では2.4%の増加、一方過疎地型ではマイナス12.2%の減少となる。これをさらに詳細に見たのが、縦軸を生産人口の変化率、横軸を高齢者人口の変化率をとった図表3の散布図だ。高齢者人口も減り、生産年齢人口も減る過疎地型の医療圏が青い点で示されている。この医療圏が335ある医療圏のおよそ半分183医療圏もある。これらの地方の都道府県は高齢者も生産年人口も減っていくのだ。一方、赤い点は大都市型だ。高齢者人口は増加し、生産年齢人口の減り方は少ない。緑色の地方都市型が大都市型と過疎地域型の間に位置している。

図表1

厚労省 新たな地域医療構想等に関する検討会取りまとめ 2024年12月6日

 さてどうしてこうした地域差が生じているのだろう。これは1960年から1970年代の高度成長期に、日本において地方から都市部への大規模な人口移動が起きたためだ。高度成長期に職を求めて地方の若者たちが集団就職の列車にのって都会に出てきた。この世代がそのまま都会に定着した。都市の高齢化は高度成長期の人口移動の結果だ。

 一方、最近でも地方から東京などの都市への人口移動が起きている。特に女性の人口移動だ。30歳前後の女性が地方から都市部へ移動している。このため地方から30歳代前後の女性が消え、地方の出生数が激減する。若い女性が都会を目指して移動するのは便利で職や情報のあふれる都会生活を求めていることもある。しかし一方、若い女性が地方の人間関係や地方の古い体質を嫌って都会に流れ出すことも一因だ。このため地方から女性が消える。そして子供が消える。このため2040年までに人口減少で消滅する自治体が896にも上る。なんと自治体数1741の全体数の半分が消えるのだ。

(3)2030年の若者人口の崖

 また2040年への生産年齢人口問題の激減の途中に2030年の崖という問題というのもある。これは2030年から30代の生産年齢人口の減少が加速する年だ。原因は2030年の30年前の2000年にある。この2000年を境に出生数の急減が起きたからだ。2000年までは毎年120万人の出生数が続いていたが、2000年を境に一挙に落ち込み、2020年には80万人にまで減る。その結果、30年後すなわち2030年から2040年にかけて30代の若者が急速に減るのだ。これを我々は2030年の若者人口の崖と呼んでいる。2030年の人口の崖まであと5年しかない。

(4)看護師不足は大都市で

 さて現状の看護師の地域ごとの需給状況を見ていこう。看護師の需給推計は5年に1回行われている。2019年に行われた2025年の都道府県別の看護職員の需給推計のデータを見てみよう(図表2)。この図表2でみるように2025年時点で看護職員が不足するのは東京圏、大阪圏の大都市部に集中している。一方、地方は人口減のため医療の需要が減って看護師がすでに余っている。今後、大都市圏でさらに高齢者が増えることを考えれば、都市圏における看護師不足はさらに深刻化するだろう。特に前述の2030年の若者人口の崖では若手の看護師の不足が待っている。

 看護師不足がこれからさらに厳しくなる。看護師の定年延長や短時間雇用など多様な働き方への見直し、潜在看護師の呼び戻しなどの対策が必要だ。さらに看護DXやメッセンジャーロボット化などの看護師の働き方を支援する技術革新が必要だ。

図表2

          厚労省看護師等確保基本指針検討部会 2023年7月7日

2 地域医療構想

 生産年齢人口の減少で急性期医療ニーズが減少すること、高齢者人口の増加で一般病床も高齢者で埋め尽されることになることを予測して、2014年に2025年を目標年として地域医療構想が作られた。地域医療構想では医療資源量の多い順に病床を高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの区分にわけ、2025年の人口動態に合わせてそれぞれ必要な病床を推計した。図表2で2015年と2025年の間のそれぞれの病床の縮減、拡充を比較してみよう。図表3では生産年齢人口が減るので急性期医療ニーズが減るということから、高度急性期、急性期は約3割縮減、一方高齢者医療ニーズが増えるので、回復期は3倍に拡充する。一方、慢性期は療養病床を介護施設や在宅へ転換することで、介護施設や在宅医療を増やすことで対応することにした。

 しかし現状では地域医療構想はこの通りにはなっていない。相変わらず高度急性期、急性期の病床は減らず、回復期はそれほど増えてはいない。まだ病院の経営者のマインドが現実に追いついていない。あいかわらず昭和の急性期病院の経営信仰のもとで経営を行っている。しかし現実を知るもの時間の問題だ。2030年ごろになれば人出不足と高齢者ニーズの急増で、いわゆる急性期病院を維持するのは困難になるのは目に見えている。2030年はさきほどのように若者人口の崖と超後期高齢者の激増が始まる。これは医療福祉業界だけの話ではない。社会全体に影響が広がる。まず国内の農業の担い手が高齢化し、農業従事者が減少し食品の供給不足が訪れる。製造業や流通も人出不足で支障がでる。2025年でもすでに過疎地域では郵便局は閉鎖され、スーパーは無くなり、診療所の閉院が始まっている。こうした社会のひずみは2030年に一挙に拡大し、ようやく事態の深刻さに皆が気付くのだろう。でもそうなってからでは遅すぎる。

図表3

厚労省 平成29年版厚生労働白書~社会保障と経済成長~p315より

3 新たな地域医療構想

 さて2024年暮れにこれまでの地域医療構想が大幅に見直しされた。それはこれまでの地域医療構想が2025年が目標年だったのに対して新たな地域医療構想は2040年を目標年とさだめて見直しがされた。この新たな地域医療構想を見ていこう。そのポイントは3つある。一つ目はこれまで入院病床中心で行われてきた地域医療構想が、外来、在宅、介護との連携にまで大きく射程を広げたことである。二つ目は4つの病床機能区分の中の「回復期」が「包括期」とその名称を変えた。さらに三つ目は4つの病床機能区分に5つの医療機関機能が加わった。これを順次見ていこう。

 まず一つ目の地域医療構想の射程が拡大したことを見ていこう。2015年から入院病床から始まった地域医療構想であるが、2021年から外来機能報告制度が始まり、外来の機能分化により紹介受診重点病院の新設、さらにかかりつけ医機能の法制化が続き、外来版の地域医療構想が始まる。こうして入院医療・外来医療の地域医療構想が出そろったところで、地域包括ケアシステムにおける医療介護の連携をも包含した「新たな地域医療構想」が2024年12月に取りまとめられることになった。

 二つ目のこれまでの病床機能区分である回復期の名称が包括期に変更された。これは元々回復期と言う呼び方が、「分かりにくい、曖昧である」という批判に応えたものだ。実際に回復期の病床には回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟が含まれている。一方、急性期の中にもこれらの病棟を持つ医療機関がある。そしてこれらの病棟は高齢者救急を受け入れ、そしてリハビリを行い、在宅復帰を目指す役割を担っている。このため急性期と回復期の両方を包括する病棟として「包括期」機能と名称を変えることにした。

三つ目は、これまでの4つの病床機能区分に5つの医療機関機能を加えたことだ。4つの病床機能区分は高度急性期、急性期、包括期、慢性期だ。この4つの病床機能区分はあくまでも病床機能を現わす区分で、医療機関全体の機能実態を正確に現わしてはいない。というのも病床機能は主にそれぞれの病床を多く有する医療機関ということで、地域の中での医療機関の役割を表す機能ではない。このため地域の中での医療機関の機能を的確に表す呼称として以下の5つの医療機関機能が設定された。①高齢者救急・地域急性期機能、②在宅医療等連携機能、③急性期拠点機能、④専門等機能、⑤医育及び広域診療機能。

①高齢者救急・地域急性期機能とは高齢者救急の受け皿となり、地域への復帰を目指す機能である。②在宅医療等連携機能とは、在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能である。③急性期拠点機能とは救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能、④専門等機能とは回復期リハビリテーション病棟などの機能、⑤医育及び広域診療機能とは大学病院本院の機能である。

4 急性期医療のニーズが減る

 地域医療構想でみたように、2040年へ向けて高度急性期、急性期などの急性期医療のニーズが減っていく。これはひとえに若者が減っていくからだ。3年に一度、厚労省が行っている患者調査の2023年版を見て改めて驚いた(図表4)。

 15歳から64歳の生産年齢の入院が激減しているのだ。一方、65歳以上の高齢者人口の入院が増えている。頭では理解していたつもりだが、患者調査のグラフは衝撃的だ。1984年に80万人近くもいた若者の入院患者が2023年には3分の1の26万人にも減っている。40年間で3分の1の大激減だ。40年前、著者は横浜市にある旧国立横浜病院の外科病棟に勤務していた。当時の外科の病棟は良性胃潰瘍で広範囲胃切除予定の患者や、乳がん、胆石症の手術待ちの若い患者であふれていた。また救急車で運ばれてくるのはバイク事故の若者が多く、病棟は若者だらけだった。それが今や、誤嚥性肺炎や心不全の高齢者で埋めつくされている。この状況は旧7対1の急性期病床でも同様だ。いまや旧7対1の急性期病床もその7割が75歳以上の後期高齢者で埋め尽くされている。

図表4

 2023年患者調査の概況 suikeikanjya.pdf

 生産年齢人口はこれからもさらに縮小するので、急性期医療ニーズの低下は今後も続く。2010年の生産年齢人口の医療ニーズを1としたときに、2040年の医療ニーズは0.7、2060年は0.6までさがる。一方、65歳以上の高齢者の医療ニーズは増えて、2040年には1.4、以降、高齢者の人口も減るので医療ニーズは下がり2060年には1.2となる。また手術件数もこれからも減っていく。2020年から2040年にかけて、すべての診療領域の手術件数の減少が、半数以上の二次医療圏において起きる。さらに救急搬送件数も高齢者では増えているが、増えている救急患者は軽症か中等症の救急ばかりである。一方生産年齢人口の救急搬送件数は減っている。さらに緊急手術の件数も地域によっては減っている。時間外の緊急手術の発生日数が年間7日以下と言う医療圏が39医療圏もある。このように急性期医療ニーズや緊急手術ニーズが減っている。急性期医療ニーズが減っていることに加えて、昨今の医療機関では平均在院日数も減少の一途をたどっている。このため病床利用率が軒並み低下している。一般病床の病床利用率は1996年には83%であったものが、2022年には69%にまで落ち込んでいる。病床利用率が落ち込めば病院の医業利益率も落ち込む。2010年には3.7%もあった医療利益率は2020年以降マイナスに転じている。これから起きるのは赤字の急性期医療病院の続出だ。

 こうしたことから地方の人口減少の著しい二次医療圏内における急性期医療の機能集約が必要だ。急性期医療や救急を集約することで、経営的にも安定する。同時に医療の質が上がることも知られている。たとえば食道がんの手術を年間5件しか行っていない医療機関と年間30症例以上行っている病院を比べてみよう。症例数の多い病院の30日以内の手術死亡率は、症例の少ない病院よりも低い。つまり手術症例が多い病院のほうが医療の質は高いのだ。減りゆく急性期医療ニーズへの対応は。地域における急性期医療の集約に他ならない。

5 回復期から包括期へ

 さて新たな地域医療構想では、前述したように回復期が包括期と呼称が変わった。その理由は、これまでの回復期はポスト急性期の患者に対して在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能を指していた。特に、急性期を脱した脳血管疾患や大腿骨頸部骨折等の患者に対して、ADLの向上や在宅復帰を目的とするリハビリテーションを集中的に提供する機能として定義をしてきた。このため回復期を担う主な病床としては、回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟が挙げられた。回復期リハビリテーション病棟は急性期後の集中的で専門的なリハビリを担っている。一方、地域包括ケア病棟は急性期後のリハビリだけではなく、高齢者の救急にも対応している。また在宅医療や外来医療を含めた医療を行うなど幅広い機能を持っている。

 2040年に向けて増加する高齢者医療の対応としては以下が必要だ。高齢者救急の受け皿となり、これまでの急性期と回復期の機能をあわせもつこと医療機能が重要となる。このことから、従来の回復期と言う呼称を、急性期の機能を合わせもつことを踏まえて「包括期」と呼ぶことにした。「包括期」とは、高齢者救急、リハビリ、在宅復帰のそれぞれの機能を「包括する」という意味である。

 また今回、病床機能だけでは、地域の中での医療機関の役割を現わすには不正確なため、包括期機能を有する医療機関機能を、「高齢者救急・地域急性期機能」と呼ぶことになった。こうした病院のイメージとしては200床以下の一般病床と地域包括ケア病棟、在宅医療部門を有するケアミックス型の病院がそのイメージだ。こうした機能を持つ病院は200床以下の地域密着型の中小病院のイメージだ。2022年の医療施設調査によれば200床以下の病院は、全病院数8156の中で5708病院、およそ全病院の7割を占めて最も多い。さらに病床数は全病院の病床数約4割を占めている。

 著者が勤務する横須賀市にある衣笠病院もこうした200床以下の病院だ。198床の内訳は一般病床、地域包括ケア病棟、回復期リハビリ病棟からなり、高齢者救急を頻繁に受け入れている。さらにグループ内には老健、特養、訪問看護ステーション、在宅医療クリニックも備えていて在宅復帰体制も整っている。こうした200床以下の「高齢者救急・地域急性期病院」がポスト2035年の地域病院のイメージだ。

6 慢性期・在宅医療

 つぎに慢性期・在宅医療について見ていこう。慢性期は主に療養病床を意味している。療養病床は、病院又は診療所の病床のうち、主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させる病床である。療養病床は医療保険の「医療療養病床(医療保険財源)」(20万床)と、介護保険の「介護療養病床(介護保険財源)」(6万床)がある。

 国はいま医療用病病床のうち軽度者の区分である医療区分1の患者の在宅への移行を進めている。また一般病床の軽症者(C3区分)の在宅への移行を進めている。こうして療養病床の削減が当面の目標だ。

 地域医療構想では、このように療養病床から地域の介護施設や在宅へ移行する患者を30万人と見込んでいる。2000年介護保険創設以降、こうした介護施設などの地域における受け皿づくりが急速に進んだ。2000年以前は病院病床において「社会的入院」と呼ばれる患者を受け入れていた。現在であれば介護施設の利用者のような患者が病院病床に長期入院していたのだ。

 著者は1990年当時、新潟県の田舎にあった国立療養所に一時勤務していたことがある。この国立療養所はもともと陸軍の駐屯地の附属の病院だったが、戦後、厚労省の所轄になっていた。戦後は戦地で負傷した傷痍軍人や結核患者を収容していたが、その後は地域の一般住民に開放され、地域の高齢者の受け入れ施設となっていた。その国立療養所は病院と言っても今では介護施設に入居するような患者さんばかりだった。中には身寄りがなく病院に住んでいる患者さんもいた。病室でこうした患者さんが和歌の勉強会を開いていた。また冬になると「越冬患者」といって暖房施設に乏しい自宅から新潟の冬の寒さを逃れて療養所に避難して来る患者もいた。のどかな昭和の療養所の風景だった。

 こうした病院における社会的入院の状況が2000年に介護保険制度が始まってから一挙に変わる。介護保険によって運営される特養や老健が増える。さらに介護保険の適応となる有料老人ホームや、介護サービスが受けられるサービス付き高齢者住宅、認知症グループホームが急増する。なんとこれらの介護施設が150万床もできて、病院病床と合わせると300万床にまで膨れ上がったのだ(図表5)。こうして病院からは社会的入院が消えていった。著者の勤めていた新潟の田舎の国立療養所も民営化され、老人ホームになって消えていった。

図表5

 国際医療福祉大学学長鈴木康祐氏資料「新型コロナとこれからの日本の医療」2025年1月より

 一方、在宅医療や訪問看護も充実するようになった。在宅医療は上記のような施設に訪問する場合と個人宅に訪問する場合がある。いずれも最近では在宅医療は急速に伸びている。2023年の患者調査をみると、1994年から2023年の30年間に年間7万2千件から23万9千件へと3倍以上にも拡大している(図表6)。

図表6

国際医療福祉大学学長鈴木康祐氏資料「新型コロナとこれからの日本の医療」2025年1月より

 2023年患者調査の概況 suikeikanjya.pdf

7 看護人材のこれから

 このような人口構造や地域医療構想の変化の中で看護人材の需給もこれから大きく変わる。まず前述したように地域によって看護師不足、過剰が今後とも顕著になる。大都市部では不足、過疎地域では過剰となる。

 また領域別にみてもその不足、過剰は顕著になるだろう。不足するのはこれから需要が伸びる在宅や訪問看護、200床以下病院だ。一方、急性期ニーズが減っていくので旧7対1病棟の看護師需要は減っていくだろう。実際に旧7対1における重症度、医療・看護必要度の厳格化もあって旧7対1病床が減っている。

 2021年の領域別の看護職員の求人倍率を見ていこう。求人倍率1以上を見ると、3.22倍と飛びぬけて多いのが訪問看護ステーションだ。次が200床以下病院が1.80、200床~499床病院が1.40、特養が1.13、ケアハウス・グループホーム・有料老人ホームが1.04、その他社会福祉施設が1.03と、在宅、中小病院、介護施設系に看護師の求人が偏っている(図表7)。

 特に訪問看護師の人手不足がさらに深刻になる。訪問看護の需要は急増しているのだが、労働条件や給与の点からなり手が少ない。訪問看護事業は小規模の事業所が多い。そして訪問系事業は人出を投入しても投入した分、利用者が急に増えるかというとそうでもない。訪問の行き来に要する時間製薬や訪問距離に制限がある。このため1日1人当たりの看護師が診ることが出来る患者数に限界があるからだ。また訪問先の患者が入院したり死亡したりするなど訪問看護事業では患者数が不安定なことから経営が安定しないなど課題が多い。

図表7

 

厚労省看護師等確保基本指針検討部会 2023年7月7日

 以上、2024年12月に取りまとめられた新たな地域医療構想を振り返りながら、2040年問題と看護人材の今後を見てきた。これら訪れるのは2030年の人口の崖で若手の看護師不足の深刻化だ。さらに看護師不足は大都市圏でさらに顕著になる。そして領域別にその不足が顕著になるのは訪問看護ステーション、200床以下の中小病院、介護施設である。

 生産年齢人口の激減と85歳以上の超後期高齢者の激増するなか、急性期医療から地域への看護師マンパワーシフトをどのように混乱なく行っていくかが問われている。

参考文献

厚労省 新たな地域医療構想等に関する検討会取りまとめ 2024年12月6日

厚労省看護師等確保基本指針検討部会 2023年7月7日

厚労省 平成29年版厚生労働白書~社会保障と経済成長~p315

厚労省 2023年患者調査の概況 suikeikanjya.pdf

鈴木康祐(国際医療福祉大学学長)講演資料「新型コロナとこれからの日本の医療」

2025年1月より

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