先日、ある自治体国保から医師向けに地域包括ケアシステムのPDCAサイクルの話をしてほしいと頼まれた。たしかに地域包括ケアシステムはシステムマネジメント論からすればPDCAサイクルは欠かせないテーマだ。ただPDCAサイクルを回すには、指標設定が必要だ。指標にはアウトカム指標あるいはアウトカムに重大な影響を与えるプロセス指標の設定が大切だ。
では地域包括ケアシステムのアウトカム指標とは一体なんだろう?もともと地域包括ケアシステムの概念は次のように極めて抽象的である。「介護が必要になっても、住み慣れた地域で、その人らしい自立した生活を送ることができるよう、医療、介護、予防、生活支援、住まいを包括的かつ継続的に提供するシステム」。
さて地域包括ケアの原点となった広島県尾道市の公立みつぎ総合病院の山口昇先生のころにはアウトカム目標があった。山口昇先生は1970年当時、脳卒中や心筋梗塞でみつぎ総合病院に入院した高齢者が退院し、在宅に帰ってから間もなく「寝たきり」となって再入院するケースが多いことに気がついた。この在宅における寝たきりゼロを目指して病院の専門職を地域に派遣したのが地域包括ケアの原点だ。この寝たきりゼロは今日的には「要介護度の改善」に当たるだろう。
他にアウトカム指標はないのだろうか?たとえば在宅看取り率はどうだろう。在宅看取りは在宅ケアの最終アウトカム指標と言える。ただ在宅看取り率には居宅の看取り、施設での看取り、さらに孤独死、孤立死などが含まれる。こうした死亡の場所やその看取られ方の内訳も含めて死亡診断書・検案書などの死亡個票から看取り率を計る必要がある。
認知症診断率も英国ではアウトカム指標に使われている。認知症診断率は疫学調査に基づく認知症有病率より低いのが普通だ。このため認知症診断率の向上が目標だ。英国では認知症診断率を向上させ、認知症の早期から介入するメモリーサービスが作られた。このメモリーサービスから日本の認知症初期集中支援チームが作られた。
後期高齢者の急性期病床への入院率も指標の一つだ。高齢の救急搬送が増えている。その疾患の御三家は誤嚥性肺炎、尿路疾患、心不全だ。これらの疾患はいずれも在宅や高齢者施設、外来で予防や場合によっては治療も可能な疾患だ。出来るだけこれらの疾患の入院を在宅や外来の水際で食い止めることが大事だ。高齢者を急性期病院に入院するとあっというまにADLや認知機能が低下して、その後の在宅復帰が困難になる。こうした高齢者救急の入院率の低減のため高齢者の下り搬送や、誤嚥性肺炎、心不全の地域連携パスが作らている。
このように地域包括ケアシステムのアウトカム指標を設定し、継続的に計測し、システム評価と改善につなげていくことが重要だろう。