認知症の人に対するスティグマ(差別・偏見)はまだまだ多い。先日、外来で軽度の認知症の患者さんの大腸内視鏡を依頼したら、「認知症の患者さんは指示に従えないのでできません」と言われた。また白内障の手術も認知症の患者はムリだという。たしかに認知症の程度が進んでいる患者さんではムリかもしれないが、軽度者ではなんとなるのではないかと思った。しかしこう言う筆者も、認知症の人に、「何度言っても忘れるのだから、話すのはムダ」と思わないと言えばウソになる。
こうした認知症の人に対するスティグマを評価するスケールが日本でも出来た。2012年にオーストラリアのリン・フィルプソンによって開発され、その後、国立長寿医療研究センターの野口泰司研究員らが日本語版を作成した「フィルプソン認知症スティグマ評価スケール日本語版」(PDSA-J)だ。評価スケールは26項目の質問票とその短縮版である12項目の質問票からなる。
質問票の抜粋は以下のようだ。「ほとんどの認知症の人には、複雑で面白い会話は期待できない」、「認知症の人は、誰にも迷惑を掛けないところに住むのが一番だ」、「私が言っていることは理解できないので、認知症の人に話かける意味はない」、「もし私が認知症だったら、主治医は私の他の病気に最善の治療をしてくれないだろう」など。それぞれの質問について5段階で評価し、点数が高いほうがスティグマの度合いも高いとされる。質問項目は①回避(認知症の人の回避・排除)、②診断の恐怖(認知症診断への恐怖)、③尊重(認知症の人への尊重、前向きな態度)、④差別の恐怖(認知症に対する社会構造的な差別への恐怖)の領域からなる。
野口らはこの認知症スティグマ評価スケールを用いて、認知症の人との交流経験や学習経験がその個人の認知症の人のスティグマとどのように関連しているかを分析した。まず認知症の人との「交流経験がなし」、「交流したことがある」、「同居したことがある」の3群に分けて、認知症スティグマの解析を行った。結果は交流経験のある人は①,②、④の領域でスティグマが低く、同居経験のある人は①、④の領域で低かった。一方、学習経験のある人は,①の領域が低いが、③の領域では高い傾向が見られた。
これらの成果は、認知症の人との交流や学習経験がスティグマの低減や尊重的態度の醸成に役立つことを示している。日本語版の認知症スティグマ評価スケールを活用して、わが国の認知症施策に役立てたいものだ。