横須賀市衣笠で訪問診療に週に一回出かけている。先日、久しぶりに訪れた訪問診療先でビックリした。両親の介護をしている50代の男性の顔が浮腫でパンパンにはれ上がっている。男性によると両親の介護で自分の糖尿病にまで気が回らなかったという。男性は結局、糖尿病腎症に合併したネフローゼ症候群で入院した。
ケアラーとはケアの必要な家族を近親者、友人、知人などが無償でケアをする人のことだ。
高齢の両親や障害のある子供を家族が世話をしたり、また引きこもりや不登校の家族の世話をしている人も含む。
こうしたケアラーの実態について、NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンは、2010年に全国でケアラー調査を行った。そのアンケート調査の有効回答数1万件、200世帯のインタビュー調査によると、ケアラーのいる世帯は5世帯に1世帯、ケアラーの3分の2が女性、3分の1が男性だった。ケアラーの2人に1人強が介護、4人に1人が看病、8人に1人が子供の療育だった。またケアラーの年齢は40代から80代まで広く分布している。またケアラーの12人1人以上は20年以上もケアをしていた。ケアラーの9人に1人が自由時間が1時間未満だった。また8人に1人は協力してくれる人が誰もいなかった。そしてケアラーで身体の不調を感じている人は2人に1人、そのうち20人に1人は受診したくても受診できないという。また40人1人は他の家族や親せきからの仕送りで家計が成り立っているという。また5人に1人が孤独感を感じている。
調査ではケアラー自身が望んでいる支援も聞いている。その回答は以下のようだ。トップはケアラー本人の急な入院時の被介護者の緊急レスパイ入所などのサービスだ。次いで在宅介護者手当や年金受給要件に介護期間を加えてほしいなど経済的な支援、そしてなによりも専門職や行政職員のケアラーに対する理解を望んでいる。そして仕事と介護の両立支援等を希望している。
こうしたケアラー支援が進んでいるのが英国だ。英国では、1995年にいち早くケアラー支援法が制定された。同法では、ケアラーも支援を受ける権利を有すること、そして自治体はケアラーの困難な生活状況をアセスメントし、支援する義務を有するとしている。このため英国ではケアラーセンターをそれぞれの地域に設けている。
こうした中、ようやく日本でも全国の市町村でケアラー支援条例の制定が進んでいる。ケアラー支援条例は、2020年3月に埼玉県で全国発のケアラー支援条例が施行して以来、6道県10市3町で施行が広がった。最近では2024年2月に横須賀市のお隣の鎌倉市でもケアラー支援条例が提出された。ケアラー支援はこれから生産年齢人口が激減するなか、介護と仕事を両立させ、10万人と言われる介護離職を防止する上でも必須だ。