高齢者の在宅医療・介護サービスに対して診療報酬や介護報酬を通じて保険償還がなされている。そして近年それらの在宅医療・介護の評価に関する研究の蓄積もなされている。そしてこうした研究論文の系統的レビューを行うことで、そのエビデンスの確信性やそのサービスの推奨の程度を明らかにするガイドライン作りも盛んだ。今回のこうしたガイドラインのうち日本老年医学会らが公表した「高齢者在宅医療・介護サービスガイドライン2019」を見ていこう。
本ガイドラインではサービスの推奨の強さを、1(行うことを強く推奨する)、2(行うことを弱く推奨(提案)するから4(行わないことを強く推奨する)とし、エビデンスのレベルでA(高い)、B(中)、C(低い)、D(非常に低い)と段階づけている。
ではガイドラインでグレード1A(行うことを強く推奨し、エビデンスの確信性も高い)から見ていこう。
「脳卒中患者に対する早期サポート退院後の十分なサポート体制のある在宅サービスの導入は、入院期間の短縮、入所率の減少、身体的依存の減少、ADLの改善、満足度について効果があり、行うことを推奨する」、「脳卒中患者に対する訪問リハビリテーションと通所リハビリテーションに関してはADLの悪化予防に対する効果が確実であり、行うことを推奨する」、「運動器疾患患者(特に変形性室関節症や人工膝関節置換術後など)に対する在宅でのリハビリテーションは、身体機能、QOL、満足を改善する効果があり、訪問リハビリテーションの実施を推奨する」、「レスパイトケアは介護者の満足度、負担軽減に関して効果を有し、行うことを推奨する」。
次にグレード1B(行うことを強く推奨し、エビデンスの確信性は中)を見ていこう。
「介護施設入所中の認知症者に対する非薬物療法(感覚刺激)は、行動・心理症状改善の効果を有し、行うことを推奨する」、「在宅療養者への肺炎球菌ワクチン単独接種は、肺炎発症を予防する効果が期待でき、実施することを推奨する」、「在宅療養者へのインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種は、生命予後、肺炎発症、入院リスクを改善さえる可能性があり、実施することを推奨する」、「在宅療養するがん患者、心不全患者には、症状緩和、患者満足度、QOL向上、介護者の負担軽減を考慮した場合、在宅緩和ケアを行うことを推奨する」、「在宅療養中の高齢者へのCGA(高齢者総合評価)の実施は、基本的ADL、QOLの維持効果が期待され、行うことを推奨する」、「在宅療養者への看護師による介入は、介護者のQOLの改善に効果を有する可能性があり、行うことを提案する」、「在宅療養者への訪問ならびに通所リハビリテーションは、介護者の負担を軽減する可能性があり、行うことを提案する」
一方、行うことを弱く推奨し、エビデンスレベルも低い「グレード2C」を見ていこう。
「在宅療養者に対する口腔ケアは、肺炎を予防する効果が期待され、実施することを提案する」。「在宅療養者への褥瘡に十分な知識がある医師あるいは訪問看護師を含む多職種介入は、在宅での褥瘡発症予防、治療に効果がある可能性があり提案する」、「アドバンスト・ケア・プランニング(ACP)の実施により、患者本人が希望する在宅療養の継続、在宅看取りに対して尊重される可能性が高く、ACPを行うことを提案する」。
さらにエビデンスの確信性がないため推奨もなしとした例もある。「腎不全患者に対する在宅血液透析については、日本で現在一般的に広く行われいる治療とはいえず、十分なエビデンスがなく、推奨なしとする」。この例のように国内で実施例が少ないため十分な検証がなされていないサービスも少なくない。
さて医薬品の場合、治験によりその有効性、安全性が科学的に証明されていなければ、保険償還の対象にはならない。しかし多くの在宅医療・介護サービスはこうした科学的な根拠に基づき保険償還の可否を決めているわけではない。このため保険償還後にそのサービスの評価を科学的な根拠に基づき検証することが望まれる。その際の評価項目は在宅からの予期せぬ入院、予期せぬ救急外来受診、合併症発生率、患者QOL,ADL、介護者QOL、医療費などである。こうした在宅医療・介護サービスのアウトカム評価研究が望まれている。