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膵炎と石鹸


 外来で久しぶりに急性膵炎の患者さんを診た。70歳台の女性で、心窩部痛で来院された。心窩部に圧痛もある。最初は胃炎だと思って胃内視鏡を予約しようと思った。でもオーダーした採血結果が戻ってきてビックリした。なんとアミラーゼの値が1500以上もある。パニック値だ。慌てて腹部CTをオーダーした。飲酒歴のない患者さんなので、胆石をまず疑った。胆石が膵臓の膵管に落ち込んで膵炎を起こすことがあるからだ。腹部CTの結果では胆石はなかったが、膵管拡張が認められた。膵管拡張の原因まではわからないが、何らかの原因で膵管が閉塞して膵液が血中に逆流したのだろう。

 さて40年以上も前に旧国立横浜病院で外科の医者として働いていたとき、重症膵炎に出会った。急性腹膜炎で入院した患者さんの開腹手術を手伝った時のことだ。開腹をしたところ、なんと腹腔中に白い石鹸の粉のようなものが散らばっているが見えた。先輩の医師が「脂肪の鹸化(けんか)だ!」と言う。重症の急性膵炎で腹腔中に膵液が漏れ出して、膵液中のリパーゼが腸間膜の脂肪を溶かしたのだ。こうしてできた脂肪酸に血清カルシウムが結合してまさに「石鹸」を作ったのだ。

 昔は今のように診断技術が発達していなかったので、術前診断が付かずに診断的開腹術といって開腹手術が行われることも稀ではなかった。今では考えられないが、「鹸化」を開腹術で確かめて膵炎の診断をつけていたのだ。

 もう一つの開腹でビックリした診断を挙げよう。当時、やはり腹膜炎で診断がつかずに診断的開腹をしたところ、腹腔一面にチーズ様のものが広がっているのにびっくりしたことがある。先輩の医師が言う。「結核性腹膜炎だ!」。結核症では結核菌に対する免疫反応によって、感染した組織や細胞が破壊され、ドロドロとしたチーズや粥(おかゆ)のような病変を作ることがある。肉眼的に、その見た目や質感が軟らかいチーズに似ていることから、病理学的に「乾酪(チーズ)壊死」と呼ばれている。まさにこの結核性腹膜炎によるチーズが腹腔中にばらまかれていたのだ。

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