
月曜日の外来にアニサキス症の患者が来ることが多い。日曜日に横須賀から釣りに出て釣り上げたサバを食べた方が、月曜日に腹痛でやってくる。ご本人も自覚があって「アニサキスでしょうか?」と診察室に入ってくるなり聞いてくる。「サバを生で食べましたか?」と聞くと「刺身で食べました」と言う。
緊急胃内視鏡に回すと、内視鏡室から「アニサキスでした」と連絡が入る。そして内視鏡室から試験管に入ったとれたてのアニサキスが回されてくる。こうしたことが何度か繰り返すうちに「月曜日に腹痛で来るのはアニサキス」が定番になった。
さて内視鏡で見るとアニサキスは胃粘膜の中に首を突っ込んでおしりをフリフリしている。内視鏡でみながら鉗子をつかって引きずりだすのだが、フリフリをするので、なかなかつまみにくい。こういう時に役立つのが正露丸だ。正露丸を水で希釈して、内視鏡の鉗子口からアニサキスに吹きかけると、動きが止まる。そこをすかさずつまんで引きずりだす。正露丸の主成分「木クレオソート」がアニサキスの運動を抑制するのだ。こうした研究結果が、2011年に正露丸を製造販売する大幸薬品(大阪市)から発表された。「一般用医薬品でもこうした新しい効能が見つかることがあるんだ」と感激したことを覚えている。
正露丸は古い薬だ。食あたりや消化不良、下痢などの時に服用する。正露丸は日露戦争前に「クレオソート丸」として創薬され、ロシアを征伐するための薬という意味で「征露丸」と命名された。日露戦争では兵士の食あたり、水あたり、消化不良といった食べ物、飲み物が原因で起こる軟便、下痢にすぐれた効き目を発揮した。日露戦争後にその名前は「征露丸」から「正露丸」となり現在に至っている。
こんな古い正露丸にもアニサキスの運動を止めるという新しい効能が見つかった。他の一般用医薬品にもまだまだ未知の効能が眠っているかもしれない。そんなことを夢見る日々だ。
