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インフレと病院経営危機


 インフレで病院が深刻な経営危機に陥っている。

 2025年1月22日、5病院団体が緊急的な財政支援措置などを福岡資麿厚生労働大臣に要望した。5病院団体とは日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会で、以下の要望を行った。

 多くの病院がいま深刻な経営危機に陥っている、経営危機の理由は物価や賃金の上昇に診療報酬の上昇が追い付いていないからだ。図は2020年を基準とした消費者物価指数と診療報酬の本体部分の推移をみたものだ。2021年から消費者物価指数が上昇をする一方、診療報酬の本体部分の改定率の伸びが追い付いていない。

 2024年の診療報酬改定は本体部分が2022年改定の0.88%の伸びに対して、インフレ率が2.5%にも達したため、結局マイナス1.62%ととなった。またかろうじて本体部分0.88%を達成したのも、薬価マイナス1%引き下げたからだ。しかし薬価マイナス改定も限界だ。すでにあまりに低い薬価の影響で、新たな新薬の上市が滞り、後発品の供給も不安定化している。

 このようにインフレが進行するなか、急性期病院では軒並み5~6億の赤字が続出している。100%の稼働率でなければ赤字に陥ってしまうという事態になっている。 これに対して、2024年度の補正予算の中で医療機関経営関連の補助金も組まれてはいる。しかし1医療機関あたりにすれば数百万単位の補助金で赤字には焼け石に水だ。

 デフレ時代が長らく続いていたので、医療機関はインフレ対策は初めての経験だ。このため病院にはなすすべがない。理由は民間の企業であればインフレになれば仕入れの物価上昇分を値上げして消費者に負担を求めることができる。しかし医療サービスでは診療報酬は公定価格であるので、物価、人件費を診療報酬の価格に転嫁する仕組みがない。またこれまで社会保障関係費の伸びは高齢化による伸びの範囲に抑制するという財政制約もジャマをしている。

 こうした制約を取り払うことはできないのか?たとえば消費税率アップのときには医療サービスは非課税取引なので、消費税を患者に転嫁することができなかった。このため医薬品や材料費以外の医療サービスについては消費税分を入院や外来の基本料に上乗せすることで補填した。また医療従事者の給与アップ(処遇改善)については、たとえば看護師1人あたりの患者数に応じて入院基本料に上乗せすることで対応してきた。

 しかし今回のようなインフレに対して診療報酬を調整する仕組みはこれまでなかった。デフレ時代が長らく続いていたので、そうした仕組みが必要がなかったからだ。

 だがインフレも定着しそうだ。このためインフレ率を考慮した診療報酬の仕組みが必要だ。また上述のような社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲に抑制するという財政規律の見直しが必要だ。こうした議論を6月の骨太の方針へ向けた議論の中で行いたいものだ。

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